2019年半ば、米国株式市場は最高値を更新

寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

2019年も半年が過ぎました。波乱だった2018年後半とは打って変わって、2019年の金融市場は株式も債券も好調な収益を獲得しています。2018年の急落の原因の一つだった米中貿易協議については2019年になってむしろ悪化しており、英国の欧州連合(EU)離脱の行方は7月末の首相選次第と混沌とし、中東情勢はキナ臭く、日韓関係までがグローバル経済の障害になるかもしれず、外部環境としては良いとこ無しの2019年において米国株式市場が最高値を更新できている背景には、米国の金融政策を巡る大きな変化があります。

そもそも2018年の10月月初に米国株式市場が急落したきっかけとなったのは、9月の米国における金融政策決定会合(FOMC)において、金融危機以来使われていた「緩和的」という文言が削除されたことでした。これは米国の金融当局にとって米国経済が金融政策の援助をもはや必要としないほど回復しているという自信の表れでもあり、この文言の削除をきっかけに米国の10年金利は3.25%を超える水準まで上昇しました。

ところが10月に入り、長期金利が市場の想定を超えるスピードで上昇したことに反応し株式市場が急落。いったん急落を経験すると、これまで上昇を続けていたアマゾンなどのネット関連株の割高さにも目が向くようになり、米国を含めた株式市場は10月~12月に大きく下落しました。さらにこれまで株式の上昇局面では特に気にされていなかった米中貿易協議が改めて世界経済の減速要因として意識されるようになり、それが消費マインドや企業経営者の設備投資マインドに連鎖することで、景気の先行きについての悲観論が急激に広がったのです。

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このような企業家や消費マインドの冷え込みを受け、12月の連邦準備制度理事会(FRB)によるFOMC(連邦公開市場委員会)では利上げは行ったものの、2019年の金融政策についてはやや緩和的となる可能性を示唆しました。さらに2019年3月のFOMCでは年内に1度の利下げ、6月のFOMCでは年内に2度の利下げを行う可能性について言及するに至りました。2018年の9月末には2019年中に最低2回の利上げを行うとしてきたFRBにとっては、180度の心変わりということになります。


FRBのパウエル議長は早期に利下げに転じる可能性を示唆

本来金融緩和というものは景気後退を下支えするために行うものです。業績が苦しくなった企業がより低い金利で資金調達ができるようにしたり、中央銀行が金融機関に対し豊富に資金を供給したりすることで、企業貸付がしやすくなることを目的としています。また預金金利が低くなることで、株式や不動産などのリスク資産の投資魅力度が相対的に高くなり、リスク資産に投資を誘導する効果も期待されます。

一方、現在の米国経済を振り返ると、失業率は過去最低水準を維持しており、企業業績は好調で、株式市場は2018年12月と2019年5月に急落したとはいっても史上最高値を維持しています。企業の借入れ金額が国内総生産(GDP)に占める比率は過去最高水準となっており、借入に苦労をしている様子は見られません。確かに数々の政治リスクによって企業マインドが低下しているのは事実ですが、それが雇用の減少や企業破綻に繋がるような業績の悪化にまで波及しているわけではまだないのです。

FRBによる非伝統的な利下げ判断

この状況下において、FRBがあえて利下げに言及したことに対し、株式市場は好感してはいるものの、本当に利下げが必要な局面であるのかという点については、意見が分かれるところでもあります。巷で噂されているようにFRBがトランプ大統領の意向に沿った金融政策を行っているとは思ってはいませんが、少なくとも今の経済環境が従来の伝統的な利下げ判断の局面とは大きく乖離(かいり)していることは間違いありません。

今の株式市場がこのやや異常なFRBの利下げ観測によって底上げされているとするならば、万が一FRBが利下げを躊躇するようなニュアンスの発言をしただけで、株式市場は大きく下落するかもしれません。逆にFRBが本当に利下げをしなければならないような局面が来るとするならば、現状の最高値を更新するような米国株式市場は明らかに買われ過ぎということになります。


今後発表される金融政策に関する情報を注視

FRBのパウエル議長の心変わりに端を発した現在の株高。パウエル議長の気持ちが再び変わる前に、山積みの政治リスクが少しでも解消することに期待するしかなさそうです。

(次回は7月16日を予定しています)

第11回 中東の紛争が金融市場へ与える影響

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