苦しい人は、ほかにもたくさんいる

そんな生活の中で、趣味でもあり仕事でもあった競艇にのめり込みすぎて借金を抱え、ギャンブル依存症になってしまったということですよね……。

田中 だんだん借金が増えて、どうにもならなくなるわけです。実家や妻に頭を下げて、ときには土下座して、借金を肩代わりしてもらって……。そんなことを32~33歳頃まで続けて、ふくらんだ借金は何千万円にもなってしまいました。

当時、2歳と1歳の子どもがいて、妻もさすがに愛想が尽きて、離婚しましょうという話になりました。でも別れる前に、一度医者へ行った方がいいという提案をされて、依存症の専門医のところへいっしょに行きました。その先生に今まであったことを打ち明けたら、そこで初めて「ギャンブル依存」だと言われたんです。

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その頃の自分は、「こんなめちゃめちゃなことをやる自分は救いようがない、死ななきゃ治らない」と思い込んでいました。でも、先生にギャンブル依存だと言われて、しかも「あなたみたいな人はほかにもいっぱいいる」と言われたことで、少し気持ちが楽になりました。

ただ、医師は診断できても治療まではできません。どうすればいいんですかと尋ねたら、依存症の自助グループがあるので、そこへ行ってごらんなさいと言われました。

ギャンブルにのめりこんでしまった人たちが集まる場所ということでしょうか。

田中 そうです。僕が自助グループへ行ってまず救われたのは、苦しんでいるのは自分だけじゃないと思えたことです。
それに、ギャンブル依存症の人はみんなぼろぼろの服を着たような人たちかと思っていたら、決してそんなことはなくて、自分と同じような普通のサラリーマンもいたし、学校の先生や税理士など、社会的な地位がある人もいました。彼らが自助グループとつながりを持ったことで、ギャンブルをやらない生き方ができるようになったという話を聞いて、自分にもできるかもしれないという希望を持ちました。

それから17年ほど経って、ギャンブルは完全にやめているのですが、今でも自助グループのミーティングに毎週通い続けて、メンバーとともに活動することを続けています。なぜ今も参加しているかというと、ひとつは「離れたらまたやってしまうかもしれない」という怖さがあるのと、もうひとつは、かつての自分のように苦しんでいる人と接して、その人が元気になり、人生を建て直していくことで、自分自身もパワーがもらえるからです。

田中恵次さん

「依存しない生き方」を目指す

ギャンブル依存症の自助グループには、どのような方が来るのでしょうか。

田中 競艇やパチンコにはまる若い人は減っていますね。逆に若い人で増えているのは、FXや仮想通貨で損をした人です。あとギャンブルとは違いますが、スマホゲームで課金しすぎた人もいます。

金融関連だと、怪しげな「投資サークル」や情報商材がきっかけで泥沼にはまっていく人もいるみたいです。

田中 僕は競艇が好きでさんざんやって勝手に失敗しただけですが、情報商材などは物によっては詐欺に近いですから、それはかわいそうだと感じますね……。

ギャンブルに限らず、何かに強く依存してしまうのは決して他人ごとではなく、自分にも起こりえることだと思います。

田中 依存症はアレルギーに似ていると思っていて、ほとんどの人にとっては何でもないものでも、極端にはまってしまう人がいます。ギャンブルのほかに、買い物やセックスなどの依存症もありますが、ギャンブルも買い物もそれ自体が決して悪いわけではありません。やりすぎてしまうから依存になるわけです。

何かつらいことがあったりして、それがきっかけで依存症になることは誰でもあり得ると思います。家庭や仕事で逃げ出したくなるようなトラブルを抱えて、その対処法がわからないときに、ついギャンブルにはまってしまったり、人によっては薬物に依存することもあります。

僕たちはまず、今はまっているギャンブルをやめましょうと言うところから始めますが、その次のステップは「自分の生き方を見直す」。ギャンブルに頼らないで生きていけるよう、生き方を変えていくことを目指しています。そうしないと、ギャンブルはやめられても次はお酒に依存してしまうとか、依存する対象が変わるだけになりかねないので。

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