つらい思いを隠さず、オープンに伝える

ご家族とはどのような話をされたのでしょうか。

田中 依存の対象がギャンブルとなると、お金の問題になるから、家族みんなが巻き込まれてたいへんな思いをしてします。だから自分だけが依存症から回復すればいいということではなく、家族への支援も必要になってきます。自助グループには本人のグループだけでなく、家族のグループもあります。

僕が失敗したのは、ギャンブルで借金を作ったことを恥だと思って、ずっと隠れてやっていたことです。そのために傷がどんどん大きくなってしまいました。だから今は、何でもオープンにすることを習慣づけています。

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「迷惑をかけた自分と迷惑をかけられた家族」という関係ができてしまうと、たとえば仕事に関連する会食などでお金が必要になったときも、「そんなの断りなさい」と言われてしまうわけです。それでは仕事に支障が出るからと隠れて借金して、その借金を返そうとしてギャンブルをする、そういう発想になってしまいます。だから、お金が必要なときはなぜそれが必要か、どういう人間関係なのかをオープンに伝える、そういう関係性を作っていくことが大切だと思います。

もちろん依存症をきっかけに離婚してしまう人もたくさんいますし、そこから再婚する人もいます。その場合も、過去のつらい経験や今の状況を正直に伝えることが必要だと思います。毎週同じ時間に自助グループへ通っていることを、妻にずっと黙っているわけにはいかないですよね。職場に対しても「○曜日は○時までにあがらせてもらいます」と伝えた方がいいと思います。

僕も社員に対してもこういう話をしていますし、ギャンブル依存症の自助グループで活動していることもみんな知っています。社内だけでなく、いろいろな場所でこのような発信をしています。ありがたいことに、そんな活動を理解してくれる人、応援してくれる人もいます。ギャンブルにはまってつらい経験をしたけれど、そこを乗り越えて成功した人になれたら最高だと思って、毎日の仕事に励んでいます。

田中恵次さん

ソフトウェアは夢や個性を生かせる世界

仕事のお話に戻りますが、IT企業でありながら未経験の方を積極的に採用しているということで、これもご自身の経験から来るものなのでしょうか?

田中 僕自身がそうだったように、プログラミングは誰でもどうにでもなると思っています。本当にすごいプログラマーを目指すのは難しいとしても、普通に仕事ができるようになるには、3年もがんばれば十分だと思います。

僕が重視するのは経験より、自分の夢ややりたいこと、好きな世界を持っていて、それを表現したいという意志です。ソフトウェアはどんな分野でも応用できるので、自分らしさや個性がそのまま強みになります。最初にお話ししたインドネシアの乙女ゲームのほかに、Nintendo Switch用のゲームも作ったりしているのですが、これも社員の「作りたい」という意志をそのまま形にしたもので、僕が指示したわけではありません。

僕もギャンブル依存で苦しんだ経験と人脈を生かして、精神医学の分野でのアプリ開発など、ほかのIT企業ではなかなかできないような開発案件を進めています。たとえば、児童虐待の予防につながるアプリを大学の先生といっしょに研究していたりもします。

ちなみに、ご自身で資産運用などされているのでしょうか?

田中 今は老後のことを考える余裕なんて全くなくて、この会社にすべてを賭けています。この会社を大きくして、もっと名前が知られるようになって、僕自身もいろいろな場所で自分のメッセージを伝えられるようになっていきたいと思っています。

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