便利の進化を求めるあまりに真価を見失ってないだろうか?

コンビニは、かつては都市生活を送る若い単身者が利用するイメージでした。
しかし、三橋さんは「近年は、高齢者、特に一人暮らしのお年寄りは、スーパーよりコンビニを利用する傾向が高くなっています」といいます。「スーパーはファミリー層向けで、個食や1個単位で少量を買い求めたい高齢者のニーズには、コンビニの方が応えてますから」と。

確かに、コンビニの価格設定はスーパーよりも割高だけど、量が多くて持て余してしまうより、必要最小限で買い物ができるコンビニの方が無駄がなくてリーズナブルといえますね。

結婚して子育ての間は郊外に暮らしてたけれど、子ども達が独立して夫婦二人暮らしになったり、一人になった高齢者はむしろ、交通至便で徒歩圏内に商店街がある都心に戻ってくる傾向も。
筆者も都心暮らしをしているので実感しますが、車を運転して郊外型の大型スーパーでまとめてお買い物というよりは、徒歩圏内でちょっとずつ買ってくるのを日課にしたい高齢者の気持ちはよくわかります。

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筆者の住まいもとてもコージー、つまり狭いスペースでの生活ですから、なるべく部屋の中に物を置きたくないのが本音。
三橋さんは「近くのコンビニは、都会型生活者の冷蔵庫代わり、食料庫代わり、押し入れのストッカー代わりなんですよ」と。

しかも、「それだけではない」と三橋さんはいいます。「コンビニを利用する高齢者のみなさんは、《会話》を求めてお店に来るんですよ。一人暮らしで家にじっとしていると、誰とも会話しなくなる。コンビニに行くことが唯一、社会との触れ合いになっている場合も多いんですね」と。

そういわれて、はっとしました。
そして、改めてコンビニの価値がわかってきました。
現代社会は、便利が進化して、人を介在しなくても便利なサービスが成立する時代に向かっています。

でも、人間社会にとって、人との触れ合いやコミュニケーションは欠かせないものです。
《会話》を求めてやってくる顧客のニーズ。これを満たさなければ《コンビニ愛》も消滅していくかもしれません。

コミュニケーションのイメージ
人間社会に人と人のコミュニケーションは欠かせない

しかし三橋さんは「とはいえ、オーナーの立場で見ると、熾烈な競争に打ち克って店を維持するために、大変な負担を課しているのが現状です。私の仕事は、コンビニのオーナーさんたちが少しでも働きやすく、店を維持しやすい環境になるようにサポートしていくことですからね」と付け加えます。

確かに、24時間営業が前提の日本のコンビニ。
その一方で、人手不足で従業員確保は難しく、しかも人件費(アルバイトの時給)は上昇という厳しい条件下では、「便利」なサービスを維持するために、オーナーやその家族がみずから働くという長時間労働が当たり前になるという構図。
しかも、コンビニ同士の激戦地区ではパイの奪い合いで、結果、売上げは減少し、オーナーの収入も減るので、運営会社(大手コンビニエンスチェーン)との契約更新が困難になる、オーナーが高齢化して事業承継ができずに廃業……という図式も生まれるなど、三橋さんのお話からいろいろな問題点も見えてきました。

コンビニの主力商品である食品は常に鮮度を保たれていますが、商品の廃棄は店の責任にもなって、しかも納品された商品は廃棄されても、本部に支払う粗利分配方式のロイヤリティ計算においては、売れたものとして計算されていることも筆者は初めて知りました。

今は、SDGsの観点からも廃棄問題は社会問題ともなって、意識改革も進んでいますし、労働問題もしかりで、新聞紙面でも、コンビニの24時間体制や年中無休体制の見直しも叫ばれています。

要は、私たち利用者も、ただただ「便利」ばかりを求め過ぎず、大好きな近所のコンビニがずっと「開いててよかった」状態を維持できるように、「便利」の真価を考えて、《コンビニ愛》を育むべきだと思った次第です。

人ありきの温かい店の空気感を求めて

筆者は都市型のコンビニ利用者ですが、改めて考えると、近所のスーパーがセルフレジを導入して以来、馴染みのレジのおばちゃんが売り場からいなくなったのをきっかけに、コンビニ利用頻度が増えた気もします。
近所のコンビニはいまだ対面のレジで、オーナー夫妻は、昔は酒屋さんを営んでいる顔なじみで、お酒の揃えもよく、ちょっとした世間話もできるから、足を向けやすいことも、再認識しました。

また、コロナ禍になってから出張回数は激減しましたが、以前は毎月、日本各地のどこかへロケに出たり、取材や打ち合わせに行く生活をしていましたから、旅先でも、コンビニ依存度はとても高かったのです。

感心したのは、かなり山深い地域で人口の少ない地域にも、コンビニがあること。ロケの合間の短い時間で、食事処を探すのも結構大変なときに、お弁当が買えるコンビニはとても便利。

駐車場にロケ車を停めて、しばしランチタイム。
トイレも借りられて、それからロケが長引く場合に供えて、夜食も一緒に買い込んで……といった具合。
ご当地の気の利いたお菓子などもチェックしておくと、お土産も調達できちゃいます!
しかも、地元の情報を得るのも実に便利。
短い滞在期間に、人と触れあって、町の暮らしを垣間見ることも、コンビニがその入り口的な役割をしてくれます。

コンビニのイメージ3
コンビニの便利さは、地方でも実感することができる Sean Pavone Shutterstock.com

作家という職業上の「便利」といえば、コンビニのコピー機を活用すれば、大量のプリントアウト・ストレスが解消されたこと。
インク切れ、紙詰まりなども、一人でプリンターのエラーと闘わずとも、困ったら助けてもらえて、本当に便利と感じているからです。

以上、我が身の生活を顧みただけでも、コンビニ依存度はかなりのものであることがわかります。
そして、筆者がコンビニに求めているのも、「人」なんですよね!

ふと、ハーヴェイ・カイテルがニューヨークのたばこ屋店主を演じた映画『スモーク』や、オマー・シャリフがパリの食糧品店主を演じた映画『イブラヒムおじさんとコーランの花たち』のような、人ありきの温かい店の空気感なんだ! と思ったのですね。
それは、まさに日本に昔からあるよろず屋さんの空気感です。

日本ほど発展してないとはいえ、中国や韓国の都市を旅してもコンビニは町のいたところにあって、言葉は通じないなりに、ハートが通じる店には足が向きます。
逆にコンビニがまだどれほど発達してないヨーロッパでも、近年はコンビニが徐々に増えていますが、イブラヒムおじさんのような存在はいまだ生活に欠かせないもの。

おそらくニーズに応えて便利が進化していけば、日本同様にコンビニが社会に欠かせない世界のインフラになっていくかもしれません。
しかし、それだけに、むしろ、画一化さえたフォーマットで固めるのでなく、
地域地域のニーズに合ったコンビニの在り方、人ありきでコンビニ愛に溢れたお店が望まれると思います。

その声をコンビニ業界に届けるのは利用者の私たちであり、三橋さんのようなサポーターさんが、オーナーさんの仕事環境を整える尽力をされてることも忘れないで、これからはますます、便利に感謝しつつ、コンビニ愛を育みたいと思いました。

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