「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、国内債券にNISAで投資できる手段として、国内債券ファンドについて考えます。

  • 過去1年の株価の下落局面では、国内株式と国内債券の値動きは逆になった
  • 債券と株式の騰落率の差は、双方を一定の割合で保有することで解決できる
  • 過去1年の騰落率は債券の方がマイナスが大きく、この課題が解決されるかは不透明

いわゆるトランプ関税は落ち着きを見せたのでしょうか? それとも嵐の前の静けさ? 為替は、本稿執筆時点で1ドル145円台です。こう先行き不透明ですと、積極的にリスクをとることをためらってしまいますね。株式による資産形成だけで、果たして良いのだろうか……?

「伝統的な投資資産」には株式ともう一つ、債券があります。債券とは、国債・地方債・社債などの総称です。日本も「金利ある世界」になり、間もなく1年を迎えようとしています。そこで本稿では、個人向け国債と違ってNISAでも利用できる、国内債券ファンドへの投資を考えてみたいと思います。

アート投資を資産形成に!

NISA対象外の個人向け国債を考える

100年に一度の金融危機、リーマン・ショックで強みを見せたのは

100年に一度の金融危機と言われたリーマン・ショック(2008年9月)では、「金(ゴールド)」ですらマイナスリターンでした。2008年8月から2009年2月までの7カ月間で、国内外の株式・債券・REITとコモディティ(資源など)の主要資産のうち、株式は40%以上値下がりし、外国債券も為替の影響で2割近く下がりました。プラスリターンだった資産は2つだけで、日本円(現金)と、日本の債券です。

株価と債券価格の動きは逆?

冒頭で株式と債券は「伝統的な資産」だと述べました。なぜ、株式と債券なのか? 一般論ですが、株価と債券価格は「逆の動きをする」からです。

【図表1】国内債券ファンドと日経225ファンドの基準価額の推移
国内債券ファンドと日経225ファンドの基準価額の推移
※国内債券ファンドは『eMAXIS 国内債券インデックス』、日経225ファンドは『eMAXIS 日経225インデックス』の基準価額(以降の図表も同様)
出所:三菱UFJアセットマネジメントのデータをもとに編集部作成

図表1は、国内債券の代表的な指数への連動を目指す投資信託(国内債券ファンド)と、日経平均株価への連動を目指す投資信託(日経225ファンド)の、それぞれ直近1年間の基準価額の推移と、赤点線で囲んだ箇所をまとめたものです。
直近の株価急落時(②トランプ関税ショック)には、債券ファンドの基準価額が上昇していることが分かります。教科書通り、「株価下落=債券価格上昇」ですね。

しかし、ここで2点、課題があります。その1点目は、株価(=日経225ファンド)の下落幅を、債券価格(=国内債券ファンド)の上昇幅でカバーできていない点です。

株価の下落幅を、債券価格の上昇幅ではカバーできない?

先述の課題の1点目は、図表1の国内債券ファンドと日経225ファンドの、双方を一定の割合で保有すると解消します。具体的には、以下の図表2です。

【図表2】日経225ファンドを10%、国内債券ファンドを90%、それぞれ保有した場合の騰落率
日経225ファンドを10%、国内債券ファンドを90%、それぞれ保有した場合の騰落率
出所:三菱UFJアセットマネジメントのデータをもとに編集部作成

図表2は、日経225ファンドを10%(1万円)、国内債券ファンド90%(9万円)をそれぞれ保有した場合の騰落率です。これにより、日経225ファンドの下落幅を、国内債券ファンドの上昇幅をカバーできていることが分かります。
ただし、比率は10対90と、極端な差があります。株式と債券は「逆の動きをする」と教科書にはありますが、全く真逆ではありません。それは、株式と債券で収入源の性質に違いがあると考えられるからです。

【図表3】債券と株式の収入源の性質の違い
収入源 債券 株式
インカムゲイン
(保有中の収入)
固定利率なら、利息は発行時に約束される 配当金は企業の業績次第
キャピタルゲイン
(売買益)
満期まで持てば額面で償還される 満期はないので、市場価格で売却する

図表3は、債券と株式の収入源の性質の違いを比べたものです。株式には満期はありませんが、債券には満期があり、また固定利率なら利息は発行時に約束されています。これらのことから、株価に比べると債券価格は相対的に安定しているとも言われています。

ところで、債券には債券ならではの強みがあります。
例えば、もし今後、金利が上昇した場合、債券価格は下落します。債券には満期がありますので、債券ファンドを維持するためには満期を迎えた債券の代わりになるよう、新たな債券にファンドを入れなくてはなりません。この時、満期を迎えた債券に比べて、新たな債券の利率が高ければ、より高い利息収入を得ることができます。
逆に金利が下落した場合には、債券価格は上昇します。これが、株式にはない債券ならではの強みです。

金利ある時代、債券ファンドに期待できる?

さて金利ある時代、債券ファンドに期待できるでしょうか?
先ほど、課題が2点あると申しあげました。2点目は、図表1の国内債券ファンド日経225ファンドの、それぞれの1年間の騰落率の差です。2024年5月16日から2025年5月16日までの期間で、国内債券ファンドの騰落率は▲4.10%、日経225ファンドの騰落率は▲1.62%です。株式に比べて、相対的に安定していると言われているはずの債券の方が、マイナス幅が大きいことが分かります。

この課題は、どのように解決できるのでしょうか?

【図表4】2025年5月15日時点の10年国債利回りと、日経平均株価の配当利回り
10年国債利回り 日経平均配当利回り
1.46% 2.19%

図表4は10年国債利回りと日経平均配当利回りです。今後、日本銀行による政策金利がさらに上昇することで10年債の利回りが上昇し(=債券価格は下落=高利率の利息収入に期待)、またトランプ関税による日本企業の業績悪化などで配当金額や株価が下がるようなことがあれば、国内債券ファンドの騰落率が改善し、課題の2点目が解消するかもしれません。……が、これはなってみないと分かりませんし、断定はできません。
なお、債券は利率が高い方が、債券価格が安定する傾向にあるようです。

そもそも、企業業績が悪化するような状況で、日本銀行が金利を上げるのかも疑問です。もし日本銀行が金利を下げると、債券価格は上昇します(=利回りは下落)。

まとめに代えて……結論

さて、不確実性の高いこの時代、どのような選択をすれば良いのでしょうか?
まず、国内債券ファンドに投資するか否かは、要検討です。

では、不確実性にどのように備えるか、他の選択肢があるのでしょうか? 次回(6月16日)、検討したいと思います。