上場企業が株主に対して行う「株主還元」のうち、もっとも分かりやすいのは1株当たりの配当金を増やす「増配」ですが、それ以外にも「自社株買い」や「株式分割」、「株主優待」といった株主還元があります。この記事では、自社株買い、株式分割、株主優待、それぞれの概要と効果について解説していきます。
- 自社株買いは、1株当たり純利益(EPS)の増加により株価の上昇が期待できる
- 株式分割は個人投資家が株式を買いやすくなるうえ、配当金の増加もありうる
- 自社商品などを株主に提供する株主優待は、実施する企業が直近で増加傾向
株主還元の方法① 自社株買い
自社株買いは、市場を通して自社の株を購入する株主還元の方法です。
自社株買いは、株価と自己資金利益率(ROE)を高める目的のために実施されます。企業が自社株買いを行うと、その分だけ発行済み株式数が減少します。それにより、1株当たり純利益(EPS)が増加します。
仮に株価収益率(PER)が12倍で変化がなければ、自社株買いによりEPSが100円から120円に増加しますと、計算上の株価は、1,200円から1,440円に上昇します。
計算上の株価
計算式:株価 = 株価収益率(PER)× 1株当たり純利益(EPS)
PER12倍、EPS100円の場合は
1,200円 = 12倍 × 100円
PER12倍、EPS120円の場合は
1,440円 = 12倍 × 120円
また、自社株買いは、純資産(自己資本)にある利益剰余金などを使って行いますので、自己資金利益率(ROE)を高めることにもつながり、そのことによる株価の上昇も期待できます。
株主還元の方法② 株式分割
株式分割は、1株を2株や3株などに分割することで株価を引き下げ、投資家が購入しやすくするための施策です。
例えば、株価9,000円の企業が1:3に株式分割を行うと、理論的に株価は3,000円(9,000円÷3)に下がります。

単元株での投資が90万円(9,000円×100株)+手数料から、30万円(3,000円×100株)+手数料になり、個人投資家でも購入しやすい金額になります。
また、株式分割後に配当金の引き下げが分割割合と同じ割合で行われなければ、保有株数が増えることで、受け取る配当金が増えることが期待できます。
分割前 | 分割後 | |
---|---|---|
株数 | 100株 | 300株 |
1株当たり配当金 | 60円 | 30円 |
受け取る配当金 | 6,000円 | 9,000円 1.5倍に増加 |
東証(東京証券取引所)は、2022年10月に投資単位(最小投資金額)を50万円以下に引き下げるように上場企業に要請しました。また、東証が行った個人投資家へのアンケートでは「希望する投資単位」が10万円~という回答が26.2%と最も多く、それに沿ったかたちで投資単位を10万円程度にするよう上場企業に働きかけていくという方針が、2025年4月24日に発表されました。
株主還元の方法③ 株主優待
株主優待は、保有株数に応じて自社商品やサービスなどを株主に提供する株主還元の方法です。個人株主を増やすことや長期的に株式を保有してもらうこと、株価の上昇を図りたいという意図で行われます。
株主優待を得られる条件は、保有株数100株以上、200株以上などと設定され、保有株数に応じて受け取れる商品やサービスに差をつけています。それ以外に、保有年数に応じて優待に差をつけている企業もあります。ただし、株主優待を行っている企業が株式分割を行った場合、株主優待が提供される条件(保有株数)が引き上げられることもあります。
株主優待条件の変更や廃止などの発表が、株価に影響する場合があります。
株主優待を行っている企業数は、日本証券業協会の「株主優待の意義に関する研究会 報告書」によりますと、2024年9月時点で1,494社あり、上場企業の1/3が実施しています。
また、1株あたりで受け取れる配当金と比べ「株主の平等性」に反するという理由から、株主優待を新設する企業より廃止する企業が多い時期(2020~2022年)もありました。しかし、2023年以降は株主優待を実施する企業が再び増加に転じています。
まとめ
以上、増配以外の株主還元策として「自社株買い」「株式分割」「株主優待」の概要と効果について解説してきました。
自社株買いは株価を上昇させる効果が期待でき、株式分割は株数の増加により受け取る配当金が増えることが期待できます。株主優待は、その企業の商品やサービスなどの提供を受けられるという魅力があります。
ご自身がどの株主還元策(株価の上昇、配当金を増やす、商品やサービスの提供を受ける)を期待するかを考えて銘柄を選ぶのも1つの方法かと思います。