宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回はiDeCoを始めて5年になるという相談者が、本人も知らないうちに損をしていたという事例をもとに、iDeCoで損を出さないために注意すべきポイントを解説します。
- iDeCoの運用状況は自分で確認する。金融商品の運用は自己責任が基本
- iDeCoの固定費は「もったいない」が、投資信託の信託報酬は避けるべきでない
- 「変更したい」と思ったら、商品の配分も金融機関も変更できるのがメリット
金融商品は自己責任の世界
【質問】
iDeCoを5年ほど前からやっているのですが、どうなっているのか? 報告書見ても良く分かりません。どこに行けば、iDeCoがどうなっているか見てもらえるのですか?
今回は、個人で年金積立をやっている方の悩みを紐解いていきます。
相談者がiDeCo(個人型確定拠出年金)を始めたきっかけは、職場で全員参加の金融機関の説明会。当時何もわからないまま、職場の担当から「お得だからやった方が良いよ」と言われ、加入に至ったとのことです。
ほとんどの方がiDeCoを始めたらしいのですが、その中の何人かの方が疑問に思い、相談に来たのでした。
今もその金融機関経由で新たにiDeCoの加入者があり、その際に新加入者から質問などされてもわからないと言われたので、この際だから専門家に見てほしいということでの相談です。

相談者は金融機関の説明会を受けてiDeCoに加入したものの、報告書の見方もわからず不安を抱える
老後資金を確保するのに最適な方法のひとつがiDeCoですが、一度始めたら最低60歳まで長期で続けていかなければ、そのメリットを享受することは困難な商品でもあります。たとえ仕事を辞めてしまっても、働けない状況にある時にでも(障害などの例外あり)、良しも悪しもiDeCo口座はそのまま持ち運ぶことになります。
そしてiDeCoの最大の弱点は、原則60歳まで引き出しできないことです。運用で利益を出さなければ、損失は拡大していくことになります。その対価としてあるのが3つの税制優遇です。①運用益は非課税、②積立金は全額所得控除、③受取時の各種控除。これらの優遇が、iDeCoの引き出せない不便さ、損失が出るかもしれない可能性に対する「付録」であると言っても良いかもしれません。
「損失が拡大する」、ここの意味は重要なので後ほど説明しますが、問題なのは相談者の質問に「どこに行けば見てもらえるのですか?」とあることです。私が思うには、この質問に返答するならば、その答えは「自分で見るしかない」。iDeCoの運用状況を自分で見られないなら、損をしてもしょうがありません。人任せではいけませんね。
きつい言葉ですが、職場に説明に来た金融機関の方もわかっているので、事務手続き以外、その後のフォローはしませんし、その義務もありません。儲かっても儲からなくても、全て自己責任の世界なのが金融商品だとご理解ください。
NISAと比較して、iDeCoはわかりづらい商品でもあり、順を追って理解していく必要があります。
今まで幾度も説明してきたiDeCoですが、再度重要な要点を説明していきます。
iDeCoの運用で守るべき項目と2つの視点
今回はiDeCoで、なるべく損をしないように運用するために守るべき項目を見ていきます。
その視点は、①「もったいない」と、②「変更したい」の2つです。
iDeCoの毎月の固定費が「もったいない」
①「もったいない」は、手数料のことです。
iDeCoに必ずかかる毎月の固定費として、国民年金基金連合会向けの掛金納付手数料が月額105円、事務委託先金融機関向けの手数料月額66円があります。別途、金融機関独自の手数料(運営管理手数料)も、金融機関によってはかかることがあります。
相談者のケースでは、運営管理手数料が月額310円で、拠出金が5,000円とのことですから、運用できるのは5,000-(105+66+310)=4,519円。最初から9.6%を引いた金額で毎月運用されます。
もう5年以上掛けているので、元本は手数料がなければ約35万円になっていたはずですが、実際は手数料だけで約3万円弱も取られていて、元本は約32万円に減っています。
このまま放置しておけば、今後も金利が上がっていないとすると、20年で元本は11万円も減ることになります。これが「損失が拡大する」という意味です。所得控除、運用益どころではありません。したがって、掛金を100%定期預金で運用する、これこそ「元本マイナス型」の典型となります。これで利益を確保するのはきわめて難しいことだとわかると思います。
おわかりのように、掛金が少額であるほど手数料の占める割合が高くなり、元本が減ることになりますので、ギリギリの生活の中でiDeCoの掛金を捻出している加入者には大打撃となります。
ということは、多少でもリスクを取って商品を選ばなければ、iDeCoの恩恵は受けられないというのが結論です。
iDeCoの投資信託の運用手数料が「もったいない」
ビックリするのは、相談者の会社でiDeCoに加入した方のほとんどが元本確保型を選んでいるとのことでした。これが地方の「あるある」です。
周りの人たちの言葉に惑わされ、リスクは取りたくないと、定期預金などの元本確保型商品で運用していますが、投資信託のようなリスクがある商品(元本変動型)の場合は、保有期間中に運用手数料(信託報酬)も掛かってきます。この手数料も「もったいない」ということで、元本変動型が避けられてしまいます。
要は、iDeCoのポートフォリオを組む際の商品決めで、「もったいない」という観点で商品が決定されてしまうのです。本当に「もったいない」のは、100%元本確保型を選んだ結果、損失が拡大していくことです。
商品を選ぶ際は安易に選ばず、専門家の意見も聞くことが大事ですね。
iDeCoの運用商品を「変更したい」
次は「変更したい」問題です。
これはiDeCoや変額保険などにしかできないありがたいメリットで、運用中に配分(ポートフォリオ)割合の変更と、商品のスイッチング(今持っている商品を解約して、別の商品に乗り替えること)ができることです。
例えば、長年にわたり掛金を積み立てると、運用商品は景気の波を受け、資産価値も上下動していきます。景気が良い時に一部解約して現金化して、元本確保型に移行して利益を確保しておくなどすることもできます。
年齢が若い人は運用期間も長いために使う頻度は少ないかもしれませんが、知っておくと助かります。
年齢が50歳を超えてくると、60歳以降に受け取るお金の整理も考えないといけません。iDeCoが目標金額に達しているから、リスクを抑えて元本確保型商品にスイッチングしておくなどして、老後に準備する必要もあります。
私も60歳を超えて、運用のポートフォリオを元本確保型15%から40%に変更し、バランス型投信などの割合を若干増やすなどして備えています。あとは資産の取り崩し方をどうするか見るだけです。
iDeCoの金融機関を「変更したい」
運用中の配分変更とスイッチングができるのがiDeCoの芸当なのでありがたいのですが、残念なのは、多くの加入者がこのメリットを使えていないこと、つまり加入者の知識不足です。金融機関側も、もう少し細やかな説明などしていかないと、金融リテラシー不足の解消には程遠いのが現実です。
金融機関が信用できないと思ったら見切りをつけて、他の金融機関に乗り換えもできます。
乗り替える金融機関を選ぶ際には、まず運営管理手数料はどうなのか。そしてiDeCoの運用商品は多くの金融機関で種類が少ない、ラインナップが変わらないなど選択の幅がないのも問題なので、商品が充実しているか。この2点は確認しておきたい項目です。