国内最大級の投資信託『ひふみ投信』『ひふみプラス』を運用するレオス・キャピタルワークスの藤野英人社長に、近著『お金を話そう。』のことや、お金や投資との向き合い方について話を聞きました。

実は「会社が嫌い」な日本人

―日本人はほかの国の人に比べて、特に株式投資に対して消極的というか、悪いイメージを持っている人が多いように見えます。

藤野 日本人はマーケットを信じない傾向があります。マーケットは誰かが人為的に操作している汚いものだ、みたいな思い込みがある。これは日本人の宗教観と関係があると思っています。キリスト教やイスラム教の世界では、世の中には人知を超えた神様がいて、マーケットについても神が正しい方向に導いてくれるという考え方がありますが、多くの日本人は神様の存在を信じていないために、「マーケットは日銀や外国人が操作している」という考えに陥りやすいのではないかと思います。

僕は日銀であれ外国人投資家であれ、マーケットにどういう参加者がいて、短期的に株価がどのように動いたとしても、最終的には企業の努力と、その結果としての収益によって株価が決まると思っていますし、僕たち投資家も、良い企業を発掘する努力を続けることが、ファンドの運用成績につながると考えています。

お金を話そう。

『お金を話そう。』の中でも触れていますが、そもそも日本人はお金に対してあまりいい印象を持っていない人が多い。その背景のひとつに「日本人の労働嫌い」があります。実は、日本人は世界の中で最も会社が嫌いで、労働が嫌いな民族なんです。

日本人は勤勉だから働くのが好き、会社が好きという思い込みがありますが、実際に統計を取ってみると、そんなデータは出てきません。たとえば「自分の会社が好きですか」という単純な質問に対して、会社が好きだと答えた人の割合は、統計によって幅はありますが、低いところでは35%ぐらい、高いところでは約50%です。つまり日本人の半分以上が、今働いている会社が好きではないと思っているわけです。

同じ質問をアメリカや中国で尋ねると、だいたい75~85%が自分の会社を好きだと答えています。会社が好きだという人が8割いる社会と、5割以下の社会と、どちらの方が生産性が高いか、火を見るより明らかですよね。

働く人も投資家も「好き嫌い」を大切にする

藤野英人さん
藤野英人さん
レオス・キャピタルワークス
代表取締役社長 最高投資責任者

藤野 多くの日本人は、子どもの頃から「言われたことをやりなさい」という教育を受けていて、好き嫌いで物事を決めるのはよくないという価値観があります。
だから僕はこの本でも、もう少し好き嫌いに注目して自分の人生を考えた方がいいのではないか、という話をしています。

このことは投資とも深い関係があります。僕たちが『ひふみ投信』で投資をするときにも、好き嫌いの概念を大切にしています。アナリストが提案してきた会社でも、「この会社のことが好きですか」と聞いて、そこでアナリストが言いよどんでしまうような会社は投資しません。たとえば経営者が社員をいじめているとか、その会社が作る商品に共感できないとか、社長の経営哲学に共感できないとか、そういう会社は投資家として好きになれません。

投資家が好きな会社に投資する自由があるように、働く人にも好きな会社で働く自由があり、嫌いな会社から逃げる自由があります。みんながブラック企業を辞めるようになれば、その会社はつぶれるか、態度を変えるしかなくなる。ひとりでも多くの人が嫌いな会社から勇気を持って逃げることで、必ず日本の社会はよくなるし、マーケットもよくなります。

―日本人は自分の会社を嫌いな人が多いから、株式投資に対してもプラスのイメージを持てないのかもしれませんね。

藤野 僕たちがいくら「長期投資がすばらしい」といっても、若い人の多くは首をかしげています。会社が嫌い、労働が嫌いな人にとっては、「会社を応援する長期投資」と言われてもあまりいい気持ちはしないんでしょうね。

現代の若者は「会社とはブラックな存在である」と考えている人が多いようです。すべての会社は「給料をたくさん払ってくれるブラック企業」と「給料を少ししか払わないブラック企業」のどちらかであるという認識。これでは長期投資は根付きませんよね。だから僕はいつも若い人に対して、働くことはおおむねいいことで、だから会社を応援することはおおむねいいことだという話をします。「働くのはいいことだ」ということへの合意と信頼がないと、なかなか株式投資に対して前向きになれません。

さらに言うと、日本人が働くことをつらくしている理由のひとつに、価格の安さを過度に求める「ブラック消費者」の存在があります。最近は「ポイ活」という言葉を目にすることが増えました。ポイントをかき集めて、少しでも安くモノを買おうとする人が増えているのです。そうやってモノやサービスの値段がどんどん下がっていくと、働く人の環境はさらに悪化して、自分の給料も上がらなくなってしまう。節約自体は別に悪いことではないのですが、みんなが必要以上に節約に走ると経済が回らなくなり、結果として自分の首を絞めてしまうので、ブラック消費者にならないように気をつけたいですね。

―消費者でもあり、同時に労働者でもある私たちが、お金と適切に向き合い、幸せな人生を目指すためには、何を心がければいいのでしょうか。

藤野 自分がどのようにお金を使っているかを省みることが大切だと思います。人の意志は買うものに表れます。今自分が身に着けているもの、部屋の中にあるものが自分の生き方であり、自分の人生です。そこをあらためて見つめ直すことが、この先どう稼ぐか、どう投資するかを考えることにもつながると思っています。
何をするかの前に、自分がどうありたいか。「Do」の前に「Be」を考えることではないでしょうか。

藤野英人さんインタビュー・前編
藤野英人さんインタビュー・中編