『レンタルなんもしない人』というサービスを始めます。1人で入りにくい店、ゲームの人数あわせ、花見の場所とりなど、ただ1人分の人間の存在だけが必要なシーンでご利用ください。
国分寺駅からの交通費と飲食代だけ(かかれば)もらいます。ごく簡単なうけこたえ以外なんもできかねます。

2018年6月に投稿されたこんなツイートをきっかけに、一躍有名になった人がいます。その名も『レンタルなんもしない人』(以下、レンタルさん)。何もしない自分自身を無料で貸し出すユニークなサービスは瞬く間に人気となり、今では1日に3~4件の依頼をこなす多忙ぶり。2019年5月には2冊目の書籍を出版し、活動が漫画化され、テレビでも取り上げられています。
今回はそんなレンタルさんに「自分を貸し出すビジネス」を始めた経緯について聞いてきました。(聞き手・文=まわた)

レンタルなんもしない人

レンタルなんもしない人

twitter:@morimotoshoji
1983年生まれ。大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻修了。出版社勤務を経てフリーランスのライターに。現在は「レンタルなんもしない人」の活動をしており、Twitter(2019年5月時点でフォロワー約16万人)での活動報告が人気を博している。

退社を決断して「やめること」のハードルが下がった

―心理カウンセラー心屋仁之助さん提唱の「存在給(なにもしていない人にも価値があり、存在しているだけで給料はもらえるという概念)」や、誰かに食事を奢ってもらったり、宿を提供してもらったりして生計を立てている「プロ奢ラレヤー」さんの存在をきっかけに今の活動を始めたそうですね。
いわゆる“一般的な生き方”にとらわれず、「なにもしないで生きていたい」という欲求を素直に受け入れられるようになった経緯をうかがえたらと思います。

レンタルさん 記事になるようなことが言えるかわかりませんが……よろしくお願いします。

―大学卒業後は教材開発会社、コピーライター養成学校、コピーライター、編集プロダクション、フリーランスの編集・ライターと、次から次へと働き方を変えています。「自分に合わないと思ったらすぐやめる」のサイクルが早いですよね。

レンタルさん 大学生の頃にしていた塾講師のアルバイトは、やめたいなと思いつつ6年間ずるずると続けていました。辞めるのも、次のバイトを探すのも面倒くさくて。
今のように切り替えが早くなれたのは、新卒で入社した会社をやめてからです。初めての退社は恐怖を感じるものでしたが、そのおかげで何かをやめることのハードルが下がりました

―最初の会社を退職した理由は何だったのでしょうか。

レンタルさん チームプレイやマルチタスクな業務が多く、それが合わずに居づらさを感じていました。
面白く、魅力的だと思える人が職場にいなかったのも離職理由の1つです。職場に馴染むためにキャラクターを演じていましたが、そのキャラクターと自分の理想が食い違っていて、どんどん腐っていってしまったというか……。
社内で勤続年数が長く、立場のある人を見ても「こんな風になりたい」「この人みたいになれたら、人生満足できそう」と思える人はいませんでした。

―どんな人になら憧れられたのでしょう。

レンタルさん かつてはコピーライターの糸井重里さんなどに憧れては、自分のいる現実との差にしんどさを感じたり、「人生は基本的に我慢の連続で、楽しいことはたまにしかない」と思ったりもしていました。しかし今はもう、他者に理想を見出す気持ちは成仏しています。

何もしていなくても人生には価値がある

―現実に対する漠然とした不満などから「成仏」できず、理想とのギャップに苦しみ続ける人は多いですよね。レンタルさんの場合は、今の活動が成仏のきっかけとなったのでしょうか。

レンタルさん 「レンタルなんもしない人」の活動もそうですが、それ以前に読んでいた本などの影響もあります。
「何かすごいスキルを持っているから生きる価値があるのではなく、何もしていなくても人生には価値がある」ということを頭だけでなく、実感として理解することで半分くらいは成仏できました。その後、今の活動を始め、客観的な評価としても反響が得られるようになり完全に成仏した感じです。

―読むと成仏できる本、とても気になります。

レンタルさん 2冊あり、1冊目は『あるヨギの自叙伝』です。最後の仕事(フリーランスの編集・ライター)をやめる際に、とくに影響を受けました。パラマハンサ・ヨガナンダさんというインドのヨギ(ヨガを極めた修行僧)の自伝で、アップルの設立者スティーブ・ジョブズが唯一iPadに入れていた本です。
ややスピリチュアルな本なのですが、そういった思想を取り入れることで目先のお金や生活への頓着をなくすことができました。仕事に関しても「こんな仕事は良くない」と心に呵責を感じたら、すぐにやめられるようになってしまったんです。
もう1冊は、ニーチェの『ツァラトゥストラかく語りき』。東京都の国分寺と西国分寺にあるカフェ「クルミドコーヒー」のオーナー影山知明さんが主宰する、経済について考える私塾で出会いました。今から2年前の、33歳の頃です。

―積極的に勉強会などに参加することで、人生を変える本や思想に出会えたのですね。

レンタルさん 成仏していなかったからこその出会いだったと思います。現実に不満があるからこそスティーブ・ジョブズに憧れたり、尊敬する影山さんの開いた塾なら……と深く考えずに飛びつくことができました。当時はしんどかったですが、今思えばそのしんどさは、自分が変わる原動力になったと感じます。

人生の選択肢は、自分で1つずつ潰していくしかない


レンタルさんの最新刊

―なかには現実に不満を持ち、腐っていく自分を自覚しながらも、変化を起こせない人もいます。レンタルさんの行動力の源泉は?

レンタルさん 自分に行動力があると思ったことはありません。当時はものすごく腐っていたので、行動を起こさざるを得なかったんです。
例えば「会社をやめたくてもやめられない」という人には、まだ我慢の余地があるのではないでしょうか。僕の場合は職場に居続けることの方が、退職することよりもストレスでした。上司に退職を切り出したり、転職先を探したりするのは確かに面倒くさいのですが、それでも会社をやめる方がまだマシだったんです。
楽な方に流れているという意味では、「やめたくてもやめられない」人も、自分も変わりないと思います

―もし身近に「仕事をやめたくてもやめられない人」「やりたいこととお金のバランスに悩んでいる人」がいたら、どうアドバイスしますか?

レンタルさん 僕、アドバイスはしないんです。他人のことは分からないので。
ただ自分の場合は、いろんなことに手を出してみて消去法で残ったのが今の「レンタルなんもしない人」の活動でした。何かに迷った時は、選択肢を自分で1つずつ潰していくしかないと思います。そうしないと、いつまでも未練が残ってしまいますから。