脳神経外科医かつファッションデザイナーという異色の組み合わせでパラレルキャリアを歩むDrまあやさん。見た目も経歴もド派手ですが、実は根っからのネガティブ思考の持ち主だと言います。ネガティブなのにパワフルな日々を送るDrまあやさんに、仕事観、人生観、お金に対する考え方などを伺いました。(聞き手・文=南野胡茶)

Drまあやさんは、2019年6月17日(月)19時放送開始のフジテレビ系列のクイズ番組「ネプリーグ」に、女医チームで参戦されます。動くDrまあやさんも、ぜひご覧ください。

Drまあや
脳神経外科専門医・デザイナー
Drまあや(折居麻綾)さん

2000年岩手医科大学医学部卒業後、慶応義塾大学外科学教室脳神経外科に入局し、脳神経外科医として勤務。2009年、日本外国語専門学校海外芸術大学留学科に入学し、翌年から約2年間、英・ロンドンのセントラル・セント・マーチン芸術大学で学ぶ。帰国後、2013年に「Drまあやデザイン研究所」を設立。現在は、医師の仕事と制作活動を両立し、活動を続けている。

二足のわらじは気持ちの切り替えに有効

―医師になったきっかけを教えてください。

Drまあやさん 医者になろうと決めたのは、中学校に入学してすぐの頃です。祖父が開業医だったこともあり、幼い頃から祖母に「医者を目指せ」と言われてきたことも理由の一つと言えます。また、祖母が購入していた女性週刊誌に掲載される、芸能人が抱える巨額の借金といったスキャンダルの記事などを小学生の頃から読んでいたので、内容の真偽はさておき、社会の厳しさを垣間見ては、地に足のついた生き方をしなければと感じていました。事業に失敗した地元の人が祖父に借金の相談に来る姿を見ていたことも、早くからお金の問題について真面目に考えるきっかけになったと思います。将来路頭に迷わないためには手に職を付けなければならないという考えから、医者を目指そうと決意したというわけです。

大学一年生の時に、脳外科医を目指そうと決めました。脳外科の手術ビデオを見て、綺麗な臓器だと感動しました。脳外科というのは医師の中でもスペシャリティの高い分野である点も非常に魅力的でしたね。

万華鏡を覗いた世界を映し出したような外観のアトリエ

―デザイナーを兼業するに至った経緯などを教えてください。

Drまあやさん デザイナーの道に踏み出したのは、脳外科医として10年目、33歳の頃です。当時、脳外科医として働くかたわらで、博士号を取得しようと慶應義塾大学大学院で学んでいたのですが、研究がうまく進まず壁にぶつかっていました。卒業時期に教授から研究に関して厳しい言葉を受け、脳外科医としてこれからどう生きていこうか、山手線に乗って2周するほど落ち込んで考え込みました。ふと顔を上げたら、海外芸術大学へ進むための専門学校の車内広告が目に留まったんです。もともとファッションは好きで、デザインにも興味がありましたし、おもしろそうだと思って週末にはそのオープンキャンパスに参加しました。

―なぜ渡英を決断されたのでしょう?

Drまあやさん 医師の間では海外留学を選択する人は多く、わたしもいつか留学したいとは考えていました。しかし、医師として留学するのではなく、どうせなら好きな分野で挑みたいと思っていたんです。また、日本の専門学校でファッションを学んだあとに世界を見て回るといった、デザイナーとしての正当な手順を踏んでいては、医師の仕事を両立させながらでは圧倒的に時間が足りないという懸念もありました。それなら、初めから世界最高峰の学校へ飛んでしまおうと考えたわけです。

―ファッションを学ぶ間、脳外科医は継続されていたのですか?

Drまあやさん ファッションの世界に飛び込んで1年目は、昼は専門学校でデザインの基礎を学び、夜と週末は医師として働いていました。2年目に、イギリスのロンドンにある、世界屈指の名門ファッション大学の一つであるセントラル・セント・マーチン芸術大学に留学しました。留学中も、冬休みや春休みといった長期休みは日本に帰国して1カ月弱は医師の仕事をしたりと、行ったり来たりしていましたね。

アトリエ内もカラフルな色彩であふれている

―脳外科医とデザイナー、両立するうえでのメリットとデメリットを教えてください。

Drまあやさん まずメリットは、仕事の分野が全く異なるので、仕事の切り替えによって気分がリフレッシュされることです。医師の仕事でつらいことがあっても、アトリエに来て黙々と服を作っていると嫌な気持ちを忘れることができます。反対に、ファッションの創作で行きづまったときは、医師として仕事に没頭するうちに、自分にできることはあるんだと自信を取り戻せます。異なるステージの仕事を持つことは、気持ちの切り替えという点においてはうまく機能していると思います。

デメリットは、とにかく時間がないことに尽きます。多くのデザイナーのように、春夏コレクション、秋冬コレクションなどに取り組んでみたいのですが、わたしは今のところ基本的に一人で作品を制作しているので、どうあっても作業時間が足りません。週末に当直勤務で出張する釧路の病院には、当直室にミシンを置かせてもらい、来患のない合間にミシンで縫う作業を進めるなど、なんとか時間を捻出しています。

脳外科医の仕事もおろそかにはできません。医療の世界は日進月歩で、医師は常に新しい知識や技術を採り入れ、患者さんに最適な治療を提供します。「他の先生であったらもっと適切な治療が受けられたのに」と患者さんに思わせてはいけません。医師として、定期的に学会に出席したり、文献を読んだりする時間も必要です。脳外科医とデザイナー、双方が時間を奪い合っていることは大きな問題といえます。とにかく今は、できるときにできることをやるしかありません。がむしゃらに生きています。

■Drまあや 1週間の過密スケジュール


二刀流の現在、脳外科医一辺倒の時よりは時間のコントロールが可能になり、精神的に楽になったとも

安くて高品質な医療サービスの裏側

―世間的には、医師は高給だと考える方が多いかと思います。お金について日ごろ感じていることはありますか?

Drまあやさん 脳外科医の多くは、不規則かつ頻繫に病院に呼び出されるため、朝から晩までの長時間労働が基本です。土日の休日もほとんどなく、年間7日くらい夏休みで取れたらいいくらいの忙しさです。これだけの時間を費やしているにもかかわらず、一概ではありませんが、勤務医の年収は1500万円前後が相場と言われています。

一方で、わたしは約2年弱、スタイリストのアシスタントをしていた時期にCM現場にも同行していたのですが、以前見かけた週刊誌で、芸能人のCM出演料は2000万~3000万円台と書いてあったことを、ふっと思い出したのです(撮影現場でお会いした女優さんの実際の出演料は存じ上げません)。ちなみに、アシスタントとしてのわたしの収入は0円でした。

毎日必死に人命救助に励んでいる勤務医が年収1500万円なのに対して、世の中に影響力のある芸能人が商品を紹介するだけで1度に3000万円を得られる――。つまりお金は、「仕事の重要性や責任の重さなどに、頑張って応じていれば稼げる」というわけではないことを、CM現場の片隅で考えさせられたりしました。

確かに、一般的な労働者の平均年収と比較すると、日本の勤務医の年収は圧倒的に高いでしょう。しかし、労働時間や仕事の責任の重さ、リスクを考えると、果たして妥当な報酬と言えるのでしょうか。今の時代、お金が大きく動く世界の一つとしてエンターテイメント業界が挙げられますが、医療業界も動いている金額自体はとても大きいです。日本の医療保険制度は患者側に主点を置いており、よほど特殊な最先端医療などでない限り、貧富の差に関係なく、誰もが同じ診療を受けることができます。例えば米国の場合、保険料が非常に高額であり、保険の種類によっては診察できる病院や医師が制限されます。保険が適用されなければ病院は治療を施さないということも普通に起こり得るのです。


「自分に自信が持てない方にも、おもしろい服を着て楽しくなってほしい」

日本の医療現場において、医療費は基本的に、患者側は3割負担です。さらに高額医療制度があるため、医療費が高額となった場合でも、年収に応じて自己負担額に上限が設けられています。医療を必要としている膨大な数の患者に対して平等な医療を安価に提供するためには、日本の医療従事者は相対的に低賃金とならざるを得ないのだと思います。

日本では、お金のことについて学ぶ機会がとても少ないですよね。わたし自身、お金を中心とする世の中の仕組みを理解してきたと感じるのはここ5年くらいです。小学生の頃に、生きていくためにはお金が必要だと感じて、手っ取り早くお金を稼ぐには医者だという結論に達しました。今でこそ知っていますが、お金を得る方法は当然労働だけではありません。労働以外にも、不動産などを収入源とする不労所得や、投資でお金を増やす方法などがあります。

2019年1月に、村上財団とGMOインターネットグループが子ども向けの投資教育「子供の投資教育・実体験プロジェクト」を実施して話題になりました。こういった取り組みがもっと盛んになればいいですね。お金の勉強は子どもの頃から始めるべきだけど、そもそも親がお金について学んできていないため、教えられないというのが、金融教育が進まない要因の一つなのではないでしょうか。

医師の友人や、金融関連の仕事に従事している友人たちは、子どもたちに早い段階でお金の教育を施しているようです。子どものうちから、社会の仕組みやお金の仕組みをきちんと学ぶ機会を得られる環境をすごく羨ましく思います。子どもの頃から金融教育を受ける機会に恵まれていればいるほど、将来の選択肢が広がるからです。わたし自身、未だにお金の知識がなさ過ぎて困ることがあります。しかし、わたしのように社会の仕組み、お金の仕組みがわからない人が多いからこそ、大金持ちと貧乏人が存在しているのかもしれません。

ポジティブバカよりネガティブ思考

カラフルデブを生きる
■『カラフルデブを生きる』
著者:Drまあや
定価:1380円+税
(セブン&アイ出版 刊)
脳外科医でデザイナー、人生を謳歌しているように見えて、劣等感から悩む日々もあるDrまあや。ネガティブ思考の人が何かに挑戦することを応援する一冊。

―パラレルキャリアという生き方を選ぼうとしている方に向けてメッセージをいただけますか。

Drまあやさん 労働力不足の問題が喚起されていることや個人の多様性が尊重される傾向などから、今後の日本はパラレルキャリアといった働き方が推奨される方向に進んでいくと思っています。最近は副業解禁を公表する大企業も増えてきており、中小企業もゆっくりと追随していくでしょう。

もし今すでにご自身の生き方に疑念を抱いているなら、世間的にこうした働き方が浸透するまで待ってから動き出すのではなく、今から、自分が今後何をして生きていきたいのかを見つめ直す段階に来ているといえます。

今従事している仕事が、自分の望む仕事なのかどうか。仕事はお金のためと割り切って趣味とは切り離して考えるのか。1つの仕事だけでは生活費や娯楽費などが不足するので、2つ目の仕事も収入増を目的とするのか。なにもしないという選択だって別に悪いことではないでしょう。

また、必ずしも好きなことを仕事にすることがいいとは限りません。例えば、ファッションが好きだからといっても、実際にはうまくいかないことのほうが多い厳しい世界です。仮にファッションに従事できたとしても、思うように進まず、好きだったはずが嫌いになってしまい苦しむ可能性もあります。あらゆる可能性を考えて、自分はどう生きたいのか、生きていく上で何を優先させたいのかを答えが出るまで考えてみてください

―Drまあやさんの原動力はなんですか?

Drまあやさん 原動力は、コンプレックスなのかもしれません。わたしは物凄いコンプレックスの塊で、常にネガティブ思考です。一方で、いま自分がなぜネガティブ思考に陥っているのか、要因を分析するようにしています。世間ではポジティブが推奨される風潮が強いですが、現実を見ずに逃避手段としてポジティブを貫いた結果、周囲に迷惑をかけるといったポジティブバカが存在することも事実です。そうした失敗を回避するためには、根拠なくポジティブに空想するよりも、ネガティブ思考は役立ちます。わたしは日ごろからネガティブに考えつつも、どうしたら今よりも良い状況を作れるのかを、熟考してから行動に移しています。

ネガティブゆえに、昔から自分の生きる理由を探していました。自分は生きていてもいいんだと、無条件に思うことができなかったからです。自分が社会に認められる方法を考えた結果が、「医者として誰かを助けること」と、「ファッションデザイナーというクリエイティブな仕事を通して自分の存在意義を見出すこと」であり、この2つが生きることを肯定する理由になりました。

それからもう一つ、わたしの生きるエンジンには「おもしろさ」があります。物事を決めるときに迷ったら、「おもしろいか、おもしろくないか」を基準にします。洋服を選ぶときも、カワイイとかキレイとかではなく、それを着るわたしがどういうイメージになるかがポイント。自分自身がおもしろがれて、そんな自分を見た周囲の人がおもしろがってくれることを大切にしています。その反応を見て、わたしがまたおもしろがれるという好循環がベストですね。

―望むように生きる人を世間は成功者と呼びますよね。メンタル強めの方が多い成功者とはまるで真逆のDrまあやさんだからこそわかる、ネガティブ思考でも前進できるコツなどがあれば教えていただけますか。

Drまあやさん 日本の社会は孤立する人が年々増加しています。誰にも何も言えずに過ごしてしまい、これがネガティブ思考を加速させます。実は、精神的な悩みから頭痛やめまいを訴えて脳外科に診察に来る患者さんは物凄く多いのです。学生から社会人まで老若男女問わず、皆さん様々な悩みを抱えています。

ネガティブ思考でも前に進むには、どんどん悩みを吐き出すことが大切だと思います。相談した相手が必ずしも正しい答えを出してくれるわけではありません。ですから、どうでもいいようなことでも、一体どんな答えが返ってくるのかな、という軽い気持ちで、いろんな人にいろんな考えを打ち明けてみると、自分だけではたどり着かない考えや答えを得られます。


「悩んだら『おもしろいか、おもしろくないか』で判断してみる」

米国では、カウンセリングの敷居が低く、精神疾患の治療のために通院するだけでなく、心のメンテナンスをするためにカジュアルに受診する人が多いです。日本にも、心の調子を整えるための場がもっともっと必要だと思います。SNS上でも対面式でもいいので、その人にとって相性のいいカウンセリング環境が整ってくることが望ましいですね。

―Drまあやさんも、悩んだ時は誰かに相談されているのですか?

Drまあやさん いろんな人に悩みを打ち明けています。誰かに何かをワーワー話しているうちに、思考が整理されていくことはありませんか? 誰かに相談することは、自分を見つめ直す機会にもなります

また、誰かの話を聞くことも同じくらい大切です。その内容が悪口だって構いません。人はどういう点が気になって、悪口に変わっていくのかという過程を推測することは、勉強になります。

すると、人間は、いい面も悪い面も、どちらも持っている存在だと理解できるようになります。ここまで考えられるようになれたら、きっと今より世の中を俯瞰して見れるようになり、物事を少しだけ楽観的に捉えることができるようになるのではないでしょうか。

自分の生き方が、選択が、正しかったかどうかは死ぬ間際まで分からないと思っています。今だって凄く落ち込むこともたくさんあります。でも、迷いながらも手探りで進んでいくしかないのです。わたしはかなり特殊な人生を歩んでいますが、医療関係者の方、ファッション業界の方、いろんな方が生き方に理解を示してくれ、応援し、助けてくれています。これからも後悔だけは絶対にしないよう、おもしろさを軸に、自分の人生を突き進んでいきます。