2013年、新刊・古書店としてスタートした“選書”専門本屋『双子のライオン堂』(東京・赤坂)。変革期を迎える書店業界の中で、新しい本屋の在り方を探求し続ける双子のライオン堂は、どのような店づくりをしているのか。同店の店主の竹田信弥さんに、話を聞きました。(聞き手・グータッチ)

本屋が生き残るためのヒントは、本の「目利き」にあり【前編】

膨大な数の本の中から、良い本だけを絞って売る


竹田信弥(たけだ・しんや)
双子のライオン堂 店主
1986年、東京生まれ。2013年4月、文京区・白山に「双子のライオン堂」を開店。2015年10月、港区・赤坂に移転。著書に『これからの本屋』(書誌汽水域)、『まだまだ知らない 夢の本屋ガイド』(朝日出版社)など。

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「双子のライオン堂」では、作家さんが“選書”した本を取り扱っています。他の本屋にはない仕入れの形態だと思いますが、どのような狙いがあるのでしょうか?

竹田 日本では、毎年8万冊程度の新刊本が刊行されています。この膨大な本の中から、良質な本を選ぶことは簡単なことではありません。魚屋だって、水揚げされた大量の魚の中から、顧客にとって最良の魚を目利きしますよね。それとやっていることは同じなんです。

本屋の場合は、本の“質”を見分ける目を持っているのは、本屋よりも読者だと考えました。実力のある作家こそ稀代の読書家だと、僕は考えていて。だとすれば、作家さんの選書した本を並べることは、良質な本を提供する一つの方法かなと。また、良質な本を提供し続ければ、舌が肥えたお客さんじゃないですけど、良質な読者が育つわけです。良質な読者が良質な本屋を育てて…と、そのサイクルが大事。

だから「双子のライオン堂」では、幅広いジャンルの作家さんによる多様なフィルターを通して、書店に並べる本を厳選し、書店としてのクオリティを維持できないかという仮説を実践しているわけですね。

作家さんのお墨付きの本しかないってことですね。実際に、お客さんの反応はどのような感じなのでしょうか?

竹田 “しかない”という訳ではありません。僕自身が気になっている本や信用できるお客様から紹介してもらった本も置いていますね。

選書の棚に対するお客さんの反応としては、人の本棚を覗き見しているような感覚を楽しんでくれている人が多いように感じていますね。本が好きな人にとってはあるあるだと思うんですけど、知り合いの家に行ったら本棚を覗きたくなりませんか? それと同じで、著名な作家さんがセレクトした本が並ぶってことは、作家さんの家の本棚を覗いているような面白さがあるのだと思います。

ちなみに、作家さんに選書をお願いする時って、どんな基準で本を選んでもらうようお願いしているのでしょうか?

竹田 「ご自身の作品を作る上で血肉となった本であり、かつ100年後にも読み継がれていてほしい本を選んでください」ってお願いしてますね。だから、新刊をメインで扱う本屋でありながら、結構「双子のライオン堂」って古い本がたくさん置いてあるんですよね。

それで言うと、意外と街の本屋って昔の本を置いてなかったりするんですよね。それは、新刊本を置くだけで店の棚が埋まってしまうからなんですけど。しかも、商品の入れ替えのスピードも早いので、店に足を運ぶたびに違う商品が置いてありますよね。その点、うちは何というか、棚が変わらない(笑)。でも意味があって、何度か来ていただいて、「出会いなおす」という体験をしてほしいですね。

本を壁紙にしたようなイベントはしたくない

“選書”というアイディアのほかに、双子のライオン堂では定期的にイベントをやっています。これには、どんな狙いがあるのでしょうか?

竹田 ただ単に、本屋を空けていてもお客さんって来ないんですよ。雨降ったらよけいお客さんは来なくなるし、晴れの日だって一日に多くて20~30人ってとこかな。あと、うちの扉を見てもらえばわかると思うんですけど、なんだか入りづらい雰囲気あるでしょ(笑)?

いやいや(笑)! 自然と体が吸い込まれるような雰囲気がありますよ!

竹田 ありがとうございます(笑)。まぁ、そんなにお客さんが足を運んでくれる業態でもないので、イベントをやって人を集めなければってことで、始めましたね。ただ、今ってどこの本屋も著者によるトークイベントって開催してますよね。自分の経験からなんですけど、イベントで著者の話を聞いただけで満足しちゃって、本を読んだ気になって積ん読になったりする。それってなんだか、本屋でやる必要があるのかなって、僕はあまりよろしくないことだと思っていて。うちのお店でやるなら、なるべく本を壁紙にしないようなイベントをしたいなと。

本屋の目的って、当然本を売ることにあるんだけど、“本を読んでもらうこと”までを考えている本屋でいたいから、それで読書会を始めたんです。

本を読んできた人達が集まって好き勝手にその本について話す読書会では、集まったお客さんが本を読んだときの感想や感覚を参加者同士で意見交換をします。その楽しさにハマってくれた人が、読書会のためにしっかり本を読もうとしてきてくれる。そうなれば、イベントを通して、“顧客”ではなく「本を読んだ人=“読者”」を増やすことができる。そんな感じですかね。

本の魅力だけでなく、読書体験の魅力を伝えるイベントをされているんですね。そのほか、双子のライオン堂は、本屋でありながら本屋発の文芸誌『しししし』を発行されていますが、これにはどのような狙いがあるのでしょうか?

竹田 2つの理由があって、1つは、お店って場所が固定されちゃっているので、どうにかそこから飛び出したかった。出版は作り手の意思を遠くに運ぶ最善のツールじゃんって改めて気づいたんですよ。

あと、自分たちで作った本を売った方が、利益率が大きい(笑)。もともと、この業界では新刊本の売上げを出版社・取次・書店・著者が分け合う仕組みになっていて、そのうち書店側の売上げは本の定価の2割程度。例えば、1000円の本が売れたら売り上げは200円。それだけだと経営的に厳しいということもあって、本屋自身が本を作って売ることに挑戦しました。

ちなみに、文芸誌『しししし』のコンセプトなどがあればお聞きしたいです。

竹田 読者参加型というコンセプトがありますね。お客さんにお声がけしたり、公募のエッセイ賞をやったり、プロの作家さんにも文章を書いてもらって。プロと素人が混在してます。今後は、若手作家をどんどん取り上げて、作品を発表する場所を提供するお手伝いができればと思っています。


本屋発の文芸誌『しししし』

本屋を立ち上げた後、お客さんを呼び込むために何か宣伝などはされたのでしょうか?

竹田 むやみやたらに宣伝はしていないですね。そもそも、空間的に大勢のお客さんが同時に入れるスペースが無いというのものあるのと、大衆受けするような店作りではないし、その自覚がある。人を集めても、提供できるサービスと顧客の要求に差があったら、お客さんの期待を裏切ることになって申し訳ないなと。

例えば、「あの本屋って、選書専門のお店らしいぞ」ってことを知っていて来てくれるお客さんと、知らずに来た人では、お店に対する反応が全然違いますよね。事前に選書専門店であることを知っていて足を運んでくれるお客さんの中にも、「期待外れかも……」と感じる人だっていると思います。「赤坂に本屋作りました!皆さん来てください」と大々的に宣伝していろんな人を呼び込むことは、結果としてお客さんとミスマッチも生んでしまうのかなと。しっかりと思いを伝えるようにする。

世の中には「お客様は神様だ」という精神の下、間口を広げる会社がたくさんありますけど、間口を広げすぎた結果、企業側の意図とはずれた予期せぬクレームがきたりしますよね。あれは、企業側の努力不足だと思うんです。言い方が難しいですが、顧客を選ぶというのではなく、お客さんにしっかり選んでもらえるような仕組みを作る。そして、間口は広げすぎず、でも敷居は下げる。ちょっと興味をもってもらった人がすぐに行けるようにする。このバランスがとても難しいんですよね。なので、日々試行錯誤を続けています。

“選書”専門本屋「双子のライオン堂」

東京都港区赤坂6-5-21
Tel:050-5276-8698
営業時間:15:00~21:00
定休日:毎週月・火曜日。日曜は不定休。
URL:https://liondo.jp/

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