金融市場の相場状況を表す「リスクオン」「リスクオフ」という金融用語があります。これらは投資家の心理を読み、市場の先行きを見通すうえで押さえておきたいポイントです。現在の市場は「リスクオン」「リスクオフ」のどちらの傾向が強いのかを知り、資産運用に活用しましょう。

市場センチメントが相場を変動させる

寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

2019年8月に入り、金融市場では米国の株式市場や為替市場を中心に変動が大きくなっています。きっかけは8月2日に米国トランプ大統領が中国に対する第4弾の制裁関税を9月1日から付与すると宣言したことです。また、この発言を受けて中国人民元が急落し、節目である1ドル=7元を11年ぶりに突破しました。2015年のチャイナ・ショックが彷彿したことや、さらにはこの元安を受け米国が中国を「為替操作国」と認定するなど、米中関係が泥沼化し始めた印象が高まったことで株式市場はグローバルに下落しました。この一連の経緯の中でトランプ大統領が株式の下落には関知しないという趣旨の発言をしたことも、株式市場参加者のセンチメントを悪化させる一因となりました。

このように市場センチメントの悪化により、株式市場などが揃って売られる局面のことを「リスクオフ」と言います。また逆に株式市場などが揃って買われる局面のことを「リスクオン」と表現します。「リスクオン」とは「リスクのスイッチがオン」のこと。つまり、市場の「危険度が高まった状態」を指すのではなく「投資家のリスク選好度がオン」、=「投資家がリスクを取りたいと思うような状態」のことを言います。反対に「リスクオフ」とは、市場の危険度が高まり、投資家が「質への逃避‐fly to quality」を望む状況のことを指します。

投資家心理1
市場参加者の判断、予想、期待などの市場心理を反映し、相場は変動する

一般的に投資家がリスクを好む「リスクオン」の時は、損失リスクはあっても期待する収益の高い(期待リターンが高い)株式やエマージング(新興国市場)が買われ、投資家がリスク回避をする「リスクオフ」の時は期待リターンの高さよりも損失リスクが小さい債券のような資産が好まれます。

「リスクオン」でも「リスクオフ」でもない通常の市場環境においては、投資家は損失や価格変動の可能性(リスク)と期待収益(リターン)のバランスをとった資産選択をしています。投資家それぞれの運用目標やリスク許容度に従って投資資産の割合を事前に定めていることから、市場環境の多少の変化では株式や債券の投資比率が大きく変更されることはありません。

何らかの要因で、どこかの株式市場が一日で5%以上急落したり、通貨市場でドルが数%下落するようなショックを伴う価格変動が起きたりすると、金融市場参加者の投資意欲は急激に保守化し、市場には「リスクオフ」トレードが発生します。つまり、株式やエマージングなど価格変動が大きく、経済環境の悪化局面において価格が下落する可能性の高い資産が一斉に売られ、収益の期待値は小さいものの損失の可能性の低い債券や現金に資金がシフトするのです。逆にこうした環境が改善し、投資家の気持ちが楽観的になると、これまで売られていたリスク性資産を一斉に買い戻す「リスクオン」の局面がきます。

局面の変化には現金比率を高めて対応

リスクオフにおいては、通常は資産配分を積極的に動かさない規模の大きな投資家であっても、将来の損失リスクを限定するために、通常よりも債券比率や現金比率を高める投資行動にでるため、市場に大量のリスク資産の売りがでることになります。また、ヘッジファンドのように短期的な売買を得意とする投資家においては、「リスクオントレード・リスクオフトレード」と称される、定型化した売買を行うため、特に流動性の高い先物市場を中心に、株式や債券が一方向に動く現象が発生しやすくなります。

リスクオン・オフトレードでのパッケージ売買では、その市場が「オン」グループの所属か「オフ」グループの所属かによるかだけで売りか買いかが決定してしまうため、それぞれの市場の個別材料は全く無視される、という現象も頻繁に起きます。特に株式などの個別銘柄選択の余地は極めて小さくなることから、株式のアクティブファンドなどの個別銘柄選択を収益の源泉としている戦略にとっては、市場が下落することに加え、個別銘柄選択効果がマイナスになるという、極めて厳しい局面に直面することもあります。

投資家心理2
リスクオン・オフトレードのパッケージ売買では、市場の個別材料が考慮されないことも

今の金融市場は米中問題だけでなく、10月末の英国のEU(欧州連合)離脱問題やイラン問題など、突発的なリスクオフが発生しやすい環境にあります。また短期的なリスクオフの後には通常はリスクオン相場が控えています。個々の投資家がリスクオンオフの局面を売買で上手く乗り切ることは残念ながらとても困難と言えます。大手の機関投資家やヘッジファンドによる大量の売り買いに翻弄されて右往左往してしまうと損失は膨らむばかりです。しばらくは短期的な損失に耐えられる程度に現金比率を高めて、嵐が通りすぎるのを待つのが賢明かもしれません。

(次回は8月20日を予定しています)

第13回 世界最大級の年金基金・GPIFの資産運用