年金や保険、あるいは個人の資産を預かり、それを株式などで運用して資産価値を増やすのが「ポートフォリオマネジャー」と呼ばれる人たちの仕事です。世界のポートフォリオマネジャーは、日々どのような仕事をしているのでしょうか。今回お話をうかがったのは、レッグ・メイソン・グループの資産運用会社マーティン・カリー・オーストラリアでポートフォリオマネジャーを務めるウィル・ベイリスさん。休日の過ごし方を尋ねたところ、オーストラリアならではのスケールの大きなお話を聞かせてくれました。

※レッグ・メイソン・アセット・マネジメントは、2021年4月1日付けでフランクリン・テンプルトン・ジャパンに社名変更しました。

  • 「エシカル」や「ESG」のインカム戦略を統括している。
  • 投資家との対話を重視し、運用戦略を直接、説明する。
  • 「成功」の基準を持ち、常に努力し続けることが大切。

ウィル・ベイリスさん
マーティン・カリー・オーストラリア
ポートフォリオマネジャー
ウィル・ベイリスさん

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注目が高まる「エシカル」「ESG」を統括

普段はどのようなお仕事をしているのでしょうか。

ベイリス 私は「エシカルインカム」という運用戦略を統括していて、ESG(※)のリサーチのヘッドも務めています。もともと私が担当していたのが、株式の配当利回りや配当の持続性、配当成長に注目する運用戦略でしたが、そこから派生してエシカルインカム戦略を立ち上げました。

「エシカル消費」という言葉は、日本でも最近聞く機会が増えているように思います。

ベイリス インカム戦略は株式投資の中でも配当に着目した運用手法で、安定的な収益を求めるお客さまに広く利用されていますが、そうしたお客さまから、投資対象からギャンブルやたばこ、武器などに関わる企業を外してほしいという意見が聞かれるようになりました。そのような姿勢をエシカル(倫理的)と呼ぶのですが、従来のインカム戦略からエシカルに反する業種を除いて投資する戦略を立ち上げて、私がその運用責任者を務めています。

ESGも最近の大きなトレンドですね。マーティン・カリーではすべての運用戦略にESGが組み込まれていて、そこに価値を感じていただくお客さまが増えています。

※ESG
環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の略。近年、ESGを投資判断とする資産運用会社が増えており、個々の企業でもESGへの取り組みを打ち出す例が増えている。

ファンドを管理しながら、顧客である投資家とも対話する

ベイリスさんは、どのようなキャリアを経て今のお仕事をしているのでしょうか。

ベイリス 1984年にメルボルン大学を卒業して、最初は生命保険会社の運用チームでリサーチアナリストを務めました。87年からはANZ(オーストラリア・ニュージーランド銀行)傘下の証券会社で機関投資家向けの証券ブローカーとして10年間働きました。その後、ドイツ銀行の機関投資家向けセールスのヘッドを経て、2013年から現在のマーティン・カリーで働いています。

私はもともと航空機のパイロットを目指していました。航空機を操縦するライセンスは持っていたのですが、旅客機のライセンスを取得する前に金融業界からオファーがあり、悩んだ結果、金融の道に進むことを決めました。

マーティン・カリー・オーストラリア
マーティン・カリーが入るメルボルン市内のオフィスビル

金融業界に30年以上携わっているわけですが、この30年でいちばん大きく変わったことは何だと思いますか。

ベイリス やはりテクノロジーの進歩でしょうね。昔は株式の注文は紙に書いて、取引所でみんなが大声で叫んで取引していました。それが今ではコンピューターによりすべて自動化されています。会社の決算にせよ、世界の政治の動きにせよ、私たちが運用するファンドのパフォーマンスにせよ、すべての情報が瞬時で世界中に共有されます。ポートフォリオマネジャーにとっては、競争環境が非常に厳しくなりました。しっかりした運用戦略がなければ、運用会社は生き残れません。

ベイリスさんの1日の仕事について教えてください。

ベイリス 朝の7時半に出社して、8時半からチーム全体のミーティングを行います。それから私たちのファンドが投資している企業の経営者とミーティングをしたり、社内のアナリストと銘柄調査におけるESGスコアの確認などを行ったりしています。

あとは週3回ほど、お客さまに向けて、マーティン・カリーの運用戦略などについてのプレゼンテーションを行っています。ポートフォリオマネジャー自らお客さまと対話することが非常に重要です。投資家のニーズや状況を把握して、それに合わせて運用戦略を絶えずアップデートしていかなければ、お客さまの興味は薄れてしまいます。

メルボルン
マーティン・カリーのオフィスから、オーストラリア第2の都市メルボルンを望む

価値観の中心は家族。自ら所有する農場で子どもと汗を流す

お休みはどんなふうに過ごしているのですか。

ベイリス 田舎に農場を持っていまして、そこで羊を飼っていて、ライ麦を育てています。こちらが私のライ麦畑です(写真)。

農場
オーストラリアにあるベイリスさんの農場。以前ここを訪れたレッグ・メイソンの日本のポートフォリオマネジャーによれば「見える範囲はすべて彼の農場だった」とのこと

広いですね……。日本の首都圏だと、よほど遠くまで離れないとこのような場所はないと思います。

ベイリス 平日はメルボルン市内のマンションから会社に通って頭脳労働、金曜日に仕事が終わったら農場に帰って肉体労働という生活です。私は息子が4人いて、すでに全員成人したのですが、子どもたちが小さい頃にはいっしょに農場で汗を流すのが楽しみでした。


農場の倉庫には年季の入った車と農業機械

金融の最先端で活躍する方は頭脳が明晰というイメージがあったので、農業を楽しんでいるというのは意外でした。オーストラリアで金融に携わっているほかの方も、そうした趣味をお持ちなのでしょうか。

ベイリス 海辺に別荘を持って、週末は海で過ごすという人もいます。海外旅行を楽しむ人も多いです。あとはゴルフですね。また、オーストラリアの家庭は子どもが多いので、週末は家族でスポーツ観戦をしたり、子どもが参加しているスポーツのチームを応援したりしています。

もし金融業界に行かなかったとしたら、どのような人生を歩んでいたと思いますか。

ベイリス 先ほどお話ししたように旅客機のパイロットになっていたのかもしれませんが、私の価値観の中心は家族なので、おそらくどの業界にいたとしても、今の妻と結婚して、4人の子どもと暮らしていたと思います。

テレビ会議
メルボルンのベイリスさんとテレビ会議。仕事のことや家族への思いを語ってくれた

何をもって「成功」とみなすかという基準を持つ

資産運用業界を目指す若い世代の方に向けて、アドバイスなどいただけますでしょうか。

ベイリス 資産運用や世界経済について知るには、私たちのようなマネジャーが運用する投資信託を少額でもいいので買ってみるといいと思います。投資信託の値動きを見ながら月報などの運用報告書を読んでみると、運用のプロセスやマーケットの動向について理解が深まります。

ひとりのビジネスパーソンとして成長するには、企業について書かれた本を読むことをおすすめします。特に、マイクロソフトやアマゾンのような、小さく産まれてグローバル企業に成長した企業について分析した本は世の中にたくさんあるので、読むと参考になると思います。

「成功」の基準を若いうちから持っておくのもいいと思います。企業の利益が増えることを成功と呼ぶのか、あるいは地域やコミュニティに多大な貢献をすることか、CO2などの汚染物質を減らして環境負荷を減らすことなのか。何をもって「成功」と判断するのかによって、仕事に対する姿勢も、生き方そのものも変わってきます。

私が心がけているのは、常にトレーニングを忘れないこと。常に新しい技術を身に付け、新しい知識を学ぶことが重要です。テクノロジーの進化が加速する中で、止まっていることは後退することと同じです。資産運用業界では、投資家であるお客さまが求めるものは刻々と変化します。その変化をいち早くとらえて、目指すことを常に心がけています。

資産運用業界でポートフォリオマネジャーやアナリストとして活躍することを考えているのであれば、CFA(国際的な証券アナリストの資格)を勉強することをおすすめします。資格が取れれば企業を選ぶときに有利ですし、資格が取れなくても勉強すること自体が大きな力になります。あとは、Excelを使えるようになるといいですね。

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