証券会社でありながら、株式もFXも扱わない。小売業などを手がける丸井グループが2018年2月に設立したtsumiki証券は、私たちがイメージする証券会社とはずいぶん違う、とてもユニークなサービスを展開しています。丸井グループが証券業に進出した理由や、積立投資に特化したサービスのこだわりについて、tsumiki証券の代表取締役CEOの寒竹明日美さんにお話をうかがいました。

  • お客様と一緒にサービスを生み出す「共創」の視点から、小売と金融をつなげる。
  • 丸井のエポスカードで投資が可能。カード払いで、支出を一元管理できる。
  • 商品を絞り込み機能もシンプルに。安心で信頼できる投資信託をそろえる。

tsumiki証券 代表取締役CEO 寒竹明日美さん
寒竹 明日美さん
tsumiki証券 代表取締役CEO

小売と金融が一体となったビジネス

マルイの店舗といえば、若い方向けのファッションや雑貨に強い小売店というイメージが強いのですが、丸井グループが証券会社を始めたきっかけは何だったのでしょうか。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

寒竹 丸井グループは以前から金融にも力を入れていて、たとえばクレジットカードの「エポスカード」は、20代から30代の女性を中心に多くの方にご利用いただいています。

丸井グループは90年ほど前の創業当時には、家具の月賦商を営んでいました。昔は今と違って家具はとても高く、誰もが簡単に買えるものではなかったので、それを分割払いで買いやすくするというビジネスです。その後もクレジットカードの「エポスカード」をはじめとする、小売と金融が一体となったビジネスを今にいたるまで続けています。

ただ商品を売るだけでなく、顧客が気持ちよく買い物ができるように、小売業でありながら金融という機能をうまく活用してきたんですね。

寒竹 丸井グループにはもうひとつおもしろい特徴があって、それが「共創」という考え方です。新しいサービスをつくるときは、必ずお客さまの意見を組み込むという方針です。たとえば新しい店をつくるときもお客さまに来ていただいて、お客さまの意見を聞きながらフロア割りやテナントを決めています。プライベートブランドの商品やエポスカードの仕組み、スマートフォンのアプリなど、あらゆるサービスをお客さまといっしょにつくることを大切にしています。

出発点はカード利用者のお金に対する心配

寒竹 tsumiki証券という証券会社も、そんなお客さまの問題意識やご要望から生まれました。今のお客さまはお金に対する関心がとても高く、家計簿アプリをクレジットカードと連携させて支出の管理をしているような意識の高い方が増えています。その一方で、お金を貯める、増やすことに関して若い方は大きな不安を抱えています。

最近「年金2000万円問題」が話題になりましたが、大学生の方に2000万円問題についてどう思うか尋ねたところ、「そんなの当たり前じゃないですか」と言われました。今の若い世代は、2000万円問題のずっと前から年金が少ししかもらえないことを認識していて、だからみんな将来に備えてコツコツと貯金しています。でも、低金利で利息はほとんど付かないから、預貯金以外の方法で上手に資産運用をしたいという気持ちを持つ人が増えているようです。

tsumiki証券 寒竹明日美さん

でも現実問題として、若い方にとって投資というとなかなかハードルが高いですよね。

寒竹 まず「わからない」ということがいちばん大きいと思います。ネットを見れば資産運用に関する情報はたくさんあふれているけれど、どれが正しい情報なのか、どれが自分に合っているのか、判断するのは難しいですよね。「資産運用って残高が100万円以上ないとできないの?」とか、「証券会社のセミナーに行ってみたいけれど、無理やり商品を勧められたらどうしよう」とか、みなさん心配しています。

そんなお金の心配ごとを解決できるビジネスができたらおもしろいんじゃないかな、というのが最初の仮説としてありました。構想としては今から3年ほど前のことです。

最初は証券会社をつくるつもりはなくて、エポスカードを通じてお客さまの資産形成のお手伝いができたらいいなと思っていろいろなスキームを考えていたのですが、どうやら証券会社をつくるのがいちばんよさそうだということになり、丸井グループとして新しく証券会社を立ち上げることとなりました。サービスを実現する手段がたまたま証券会社だったというだけで、私は自分の事を証券会社の人間とはあまり思っていません。

選べる投資信託は4本。機能も極力シンプルに

tsumiki証券のホームページを見ると、確かに「証券」という言葉は会社概要くらいにしか見当たらないです。私たちが考える証券会社のイメージとは全く違うという印象を受けました。

寒竹 とにかく敷居が低い、入りやすい、楽しいという雰囲気になるように心がけました。積立投資専門にしたり、投資したお金をクレジットカードで決済できるようにしたのもその一環です。アプリのUI(画面表示や入力の機能)を絞り込んで極力シンプルにしたり、実店舗でセミナーを開催したりと、投資が初めてのお客さまにとって使いやすいサービスを目指しています。

tsumiki証券ウェブサイト
tsumiki証券のホームページ。金融商品を前面に出さず、積立投資ができることや、エポスカードとの連携をコンセプトとしている

積立投資専門にしたのは、どのような狙いでしょうか。

寒竹 一度に10万、20万というお金を投資するよりは、毎月3000円からでも自分ができる範囲で長く続けた方が、初心者の方にとっては始めやすいし、投資の効果を実感するには積立投資がいちばん適していると考えたからです。tsumiki証券を始めるときに、ちょうどつみたてNISAという制度も始まって、タイミングとしても良かったと思います。

カード払いで投資できる仕組みにしたことも、丸井グループならではの強みです。いつも使っているショッピングや携帯電話などの料金と同じように、毎月自動で引き落とせるのは手間がかからないですし、支出をカードで一元管理できるのも使い勝手がいいと思います。

商品が4つしかないのも大きな特徴です。ネット証券に行けば2000本くらいの投資信託を選べるのですが、投資初心者にとってはどれを選んでいいか難しいものです。それならば私たちが投資信託を4つに絞って、お客さまにはその4本の中から選んでいただくのがわかりやすいのではないかと思いました。

「顔が見える運用会社」への共感

その4本の投資信託は、『ひふみプラス』、『コモンズ30ファンド』、『セゾン資産形成の達人ファンド』と『セゾン・バンガード・グローバルバランスファンド』で、レオス・キャピタルワークスの藤野さんコモンズ投信の渋澤さんセゾン投信の中野さんには当サイトでもインタビューや寄稿でお世話になっています。お三方ともメディアやセミナーを通じて積極的な情報発信をしながら、強い信念を持って投資信託を運用している方たちですよね。

寒竹 私たちは「顔が見える運用会社」と言っているのですが、中野さんも藤野さんも渋澤さんも、自分の商品だけでなく、長期投資の良さや、投資を通じてみんなで社会を良くしていこうという話をしてくれて、そこに私たちが共感できるから、この4本の投資信託を選んだんです。

この話をすると業界の方は驚かれるかもしれませんが、tsumiki証券ではどの投資信託がいちばん投資残高が多いかというと、実はどれもほぼ同じくらいなんです。投資信託自体の残高は『ひふみプラス』が圧倒的に大きいのですが、私たちのお客さまは残高規模とは関係なく、分け隔てなく選んでいます。投資信託のパフォーマンスだけでなく、3人が発しているメッセージに共感していただいているのかもしれませんね。

tsumiki証券 寒竹明日美さん

マルイで洋服を選ぶのと同じように、お客さんは「売れているから買う」ではなく、自分のライフスタイルに合うもの、自分の好きなものを選んでいるんでしょうね。

寒竹 私たちは商品を売る立場として、安全で信頼できる品質の商品を取りそろえなければいけないという大前提があります。そこさえきちんとしていれば、お客さまが好きなもの、自分らしいと思えるものを安心して選んでいただけます。とはいえ、今のところ投資信託が4つで、投資できる上限が月5万円ですので、投資が好きだという方には物足りないかもしれません。

セールスポイントをもうひとつ挙げるとしたら、エポスカードを持っている方なら口座開設の手続きが簡単だということです。もっとも、証券会社に口座をつくるたいへんさは一度経験しないとわからないものなので、投資初心者の方にはあまり伝わらないのですが……。

積立投資という「仕組み」に乗れば長く続けられる

これから積立投資を始めようという方に向けて、あらためて積立投資の良さについて教えていただけますか。

寒竹 自分がどうだったかを思い返すと、「仕組み」を利用していました。私も株式の個別銘柄や外貨預金など、いろいろな投資を試してみたのですが、結局挫折してしまいました。唯一うまくいっているのが「持ち株会」です。丸井グループの株式を毎月少しずつ買うというものですが、リーマン・ショックの前から始めて、10数年で元本が3倍近くまで増えました。

なぜ持ち株会がうまくいったかといえば、「仕組み」に乗ったからだと思います。無理のない範囲の金額で、自分で売ったり買ったりせず自動的に積立投資をしていく仕組みが私には合っていました。

資産運用はめんどくさいもので、つい「後でいいや」と思ってしまうもの。でも、積立投資は早く始めるほど、長く続けるほど成果が出るので、今振り返ると、20代のときから、月3000円でもいいからやっておけばよかったと思っています。

投資は「減るのが怖い」ということとは別に、「めんどくさそう」という先入観も障壁になっている気がします。積立投資は一度設定してしまえば、あとは自動的に投資できるから、手間のところでかなりハードルが下がりますよね。最後に、資産運用を始めるにあたって気をつけるべき点はどんなところでしょうか。

寒竹 余裕資金の全部を投資してしまうのではなく、その一部を、心が穏やかでいられる範囲の中で投資することだと思います。投資額が大きいとどうしても心理的な負担が増えて、仕事にも支障が出るかもしれませんし、遊びや買い物も楽しめなくなってしまいます。たとえば今、月2万円を銀行に預けている方は、最初は3000円からやってみるとか、ちょっとがんばろうと思ったら半分の1万円を投資に回すとか、そのくらいの感覚がいいと思います。

まずは始めることが大切で、せっかく国がつみたてNISAのような制度を作ってくれたので、その仕組みに乗ってみるのがいいと思っています。早く始めて長く続けることが大切で、すぐに結果は出ないけれど、10年、20年後には思った以上に大きな成果になっているのが積立投資の魅力だと考えています。

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