シェアリングエコノミー協会は2019年5月、MeetUp Vol.11『シェア市場に参入を決めた大企業の最前線』を開催しました。参加者は過去最大となる約200名140社を超え、様々な業界がシェアリングエコノミー市場へ関心を高めていることがうかがえます。当日のメインセッションでは、各産業のリーディングカンパニー3社が、シェアリングエコノミー市場の現状と展望について議論しました。その様子を紹介します。

登壇者
クラス 代表取締役社長 久保裕丈氏
三菱地所 新事業創造部 兼 DX推進部 主事 那須井俊之氏
ローソン プロモーション本部 エリアマーケティング部 シニアマネジャー 佐藤数馬氏
モデレーター:シェアリングエコノミー協会 事務局長 石山アンジュ氏

長く利用すれば月額料金が安くなる「家具」シェア


久保 裕丈氏

石山(モデレーター) 大企業によるシェアリングエコノミー業界への参入が増えています。今回ご登壇いただく3社には、ベンチャー企業と大企業、それぞれの立場から、どのようにシェアリングエコノミーを捉えているのか、どのような展望を抱いているのかなど伺っていきます。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

久保 当社は、個人・法人の双方を対象に、家具や家電をはじめとする耐久財サブスクリプション(定額制の継続利用型サービス)のシェアサービスを提供しています。家具は、個人でも法人でも、買うときの値段ばかりにフォーカスされがちです。しかし、ライフスタイルに沿って見ていくと、買うとき、送るとき、組み立てるとき、そして処分するときと、手間と費用が膨大にかかります。この負担を減らし、家具の流通をもっと軽やかにすることが、当社のミッションと考えています。

引っ越し、転勤、結婚など、ライフスタイルの変化に応じて、必要な家具や家電は変わっていきます。当社のサービスでは、お試しで利用していただき、気に入れば継続利用するといったご自身に合った使い方ができます。必要なものを、必要なタイミングで低価格でご利用いただく、「所有から利用へ」というシェアリングエコノミーのテーマに合致したビジネスモデルと言えます。

個人向けサービスでは、月額400円から利用が可能です。「シェアサービスは、確かにお試しなら安いかもしれないが、長く使うと購入よりも損をするのではないか」という疑問を持たれる方も多いですが、当社のサービスの場合、利用期間に応じて月額料金が安くなります。最大75%割引など、長く使っていただく方にもメリットが出る仕組みです。

法人向けサービスの一例としては、当社がホテルのダイレクト・トゥ・コンシューマーとして家具類を丸ごと用意するというかたちの提携例があります。ほかにも、マンスリーマンションの家具類を、コーディネートから組み立て、設置、撤去までワンストップで提供しています。オフィスや飲食店、展示住宅などの領域でもご利用いただいております。

これからのオフィス環境は、従業員の働きやすさや生産性向上のためにCX(顧客満足度)にも取り組んでいかなければならない時代です。サブスクリプションの場合、CXのテストができる利点があります。当社の提供する家具はすべて新品同様のリペアが可能で、クッションなどの小物類も丸洗いができるタイプと、モノづくりの観点からも時代に即しています。

石山 サブスクリプション市場は拡大傾向にありますか?

久保 既存業界の規模も大きくなっていますし、サブスクリプションの領域自体も広がってきています。ユーザーが欲しいものの変化するスピードや、欲しいと思うタイミングなどはどんどん早まっています。もはやモノを持つことでは対応できなくなってきているため、こうした文脈からもサブスクリプション需要はどんどん増加していくのではないでしょうか。現在のユーザーは法人層が厚いですが、昨今の個人文化の発展スピードを見ると、最終的には個人ユーザーの割合が大きくなると考えています。

所有ビルの空室をワークスペースとして転用


那須井 俊之氏

那須井 当社のシェアリングエコノミーの取り組みの一例として、ワークスペースシェアサービスを提供するスペイシーなどと共同で、所有ビルの空室をワークスペースとして転用するなどが挙げられます。わたしが所属する新事業創造部 兼 DX推進部は、オープンイノベーションの取り組みを通じた新事業創出を担当しています。

不動産業界は変革の過渡期にあり、従来まで重要視されていたロケーションを確保するだけでは盤石なビジネスを維持できるとは言えない環境になりつつあります。こうした背景から、当社は様々なスタートアップ企業に出資しており、2019年2月1日には出資コミット額が100億円を超えました。このなかに、シェアリングエコノミーサービスを提供する企業も含まれており、さらに複数の企業と話し合っているところです。

石山 不動産大手である三菱地所の参入は、シェアリングエコノミー市場にとって大きなインパクトを与えていますが、社内からの反響はいかがですか?

那須井 不動産業界には転貸禁止といった概念があるため、社内からのシェアリングエコノミーへの抵抗感を今でも感じることはあります。しかし、こうした既存の概念が誰かに壊されるのを待つのではなく、可能な範囲で自らが変革者になればいいと考えています。

自転車、傘、モバイルバッテリーなど拡大


佐藤 数馬氏

佐藤 当社は、複数のシェアリングエコノミーサービスの会社と連携し、地域ごとに異なるサービスを実施しています。最も多数の店舗で展開しているサービスは、自転車シェアリングです。全国約1万4000店舗中、現在は100店舗くらいで自転車シェアリングサービスを提供しています。

このほかにも、日本初の傘のシェアサービスや、モバイルバッテリーのシェアサービス、コンビニエンスストア内の無人キーボックスでのカギの受け渡しサービスなど、徐々に拡大しているところです。

石山 提携のお問い合わせは多いのでしょうか?

佐藤 自転車シェアリングの問い合わせは比較的多いです。近年、コンビニの店員は外国人が増えてきています。複雑な説明が必要なサービスはスムーズな提供が難しいため、外国人の店員でも対応可能なサービスであることを前提に実証実験などを進めています。

シェアリングエコノミー推進のポイント

所有するよりも経済合理性が高いか?


石山 アンジュ氏

石山 シェアリングエコノミーの取り組みを進めるにあたって、欠かせない視点はありますか?

那須井 会議室のシェアリングサービスなどは、1時間単位のワンタイム利用など短期間の利用が想定されるため、物件や地域特性などから、普通に賃貸するよりも収益性が見込めるところから始めています。

久保 シェアサービスのプレーヤーには、いま那須井さんがおっしゃった通り、企業が所有するよりも経済合理性が高いという点が求められています。限られたスペースでより効率化を図ることも望まれるでしょう。

佐藤 コンビニエンスストアはスペースが有限なので、新しいサービス用のスペースを確保するには現状のサービスを止めたり、お客様のスペースを削ったりする必要が出てきます。これに見合う経済合理性が取れるかどうかという視点は非常に重要です。また、当社は新商品や新サービスを開発する際、誰に向けた商品/サービスであるのかを明確に決めています。これがぼやけている商品/サービスはほとんど売れないからです

シェアサービスも同様に、どのお客様に向けた商品/サービスなのかが見えてくると、それに適した利用者が多いエリアの店舗へ本部から導入を働きかけることもできるのではないかと考えています。シェアサービス自体が初めての取り組みなので、いろいろと仮説を立てたうえで実証実験を進めていきたいです。

石山 実証実験の期間はどのくらいでしょうか?

佐藤 店舗のビジネスモデルによって多少異なりますが、おおよそ1年くらいの単位が目安です。設備投資が必要な場合はリスクが高くなるため、判断しやすい期間を別に設けています。

石山 コンビニエンスストアとしては、やはりモノを買ってもらうことが今後もビジネスの主軸となるかと思いますが、シェアサービスという一時的な利用を目的としたビジネスモデルについてどうお考えでしょうか?

佐藤 モバイルバッテリーのシェアサービスを始めて分かったことは、実は充電器を買いたいお客様はあまりいないということです。つまり、充電したいが、別に充電器を買いたいわけではない。こうしたニーズをきちんと把握できると、意外とお店が得をするケースもあります。

久保 モバイルバッテリーは、売り切り型のビジネスであれば、モノが一個売れた時点で利益が確定します。一方で、シェアサービスで考えた場合は、長期間定期収入が得られるビジネスモデルとなります。当社が提供する家具のシェアサービスも同じです。家具は売り切り型で考えると短期的には利益率が高いですが、家具はそもそも長期間にわたって利用されるものです。シェアサービスとしてのビジネスモデルのほうが、長期的に見れば利益率が高くなる可能性があると言えます。モバイルバッテリーは、このケースに当てはまると考えられます。

佐藤 数年前であれば、モバイルバッテリーの売れ行きは好調だったため、シェアサービスという選択肢は出てこなかったと思います。しかし、ここ数年はカフェをはじめとする充電スポットが増加しており、販売数は徐々に低下しています。モバイルバッテリーに関しては、在庫を確保して売り場のスペースを割いて販売するのと、シェアサービスとして提供するのでは、どちらがいいのか判断する大きな転換点を迎えつつあるのでしょう。現在、100店舗未満で実証実験中です。成果によって今後の販売・提供スタイルを判断していきます。

企業間提携は経営層へのメリット訴求がカギ

石山 シェアサービスを提供するベンチャー企業が大企業との提携を進める際、何が重要だと考えられますか?

久保 ビジネスモデルを所有から利用へシフトするには、やはり経営層の意思決定が必要なので、シェアサービスを提供する側である企業の理念や、そのサービスがもたらす長期的な利益といったメリットなどを、提携先の経営層の方々へきちんとお伝えすることが大事だと思います。

那須井 当社の場合、シェアサービス関連を担当する新事業創造部は社長直轄制なので、意思決定にも比較的柔軟性がありスピード感もあると言えます。

石山 次に提携したいと考えるシェアサービスはなんですか。

佐藤 現在、Amazonの荷物受け取りサービスの需要がものすごく多いです。宅配ボックスなどの普及は進んでいる一方で、自宅ではなく移動先、例えば旅行先で荷物を受け取りたいというニーズも存在します。コンビニエンスストアという限られたスペースで、いま最も関心が高いビジネスは荷物の預かりサービスと言えます。

那須井 大丸有(大手町、丸の内、有楽町)エリアの開発を手掛けていることが自社の強みなので、街の活性化、移動の最適化という観点からモビリティ関連のシェアサービスに着目しています。大丸有エリアは約120ha(ヘクタール)あるため、端から端まで移動するとなると意外と時間がかかります。モビリティ関連のシェアサービスを始めることで街全体の移動データを集め、より良い街づくりにつなげていきたいです。

久保 空間価値の最大化をビジネスモデルとするサービスや、家具家電のように大きくてかさばり、重量もあるものを扱うサービスなどは、当社のプラットフォームを通じてシェアサービスの普及拡大が可能だと考えています。

シェアリングエコノミーと聞くと、ベンチャー企業が提供するサービスというイメージが強いですが、近年は大手企業もベンチャー企業との連携といったかたちで市場参入が相次いでいます。大企業におけるシェアサービスは、既存資産の有効活用方法として、また、消費者ニーズの多様性に柔軟に対応できる手段として、今後ますます需要は拡大するでしょう。大企業の参入によって市場が拡大すれば、消費者が利用できるシェアサービスの領域も大きく広がることが期待できます。

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