── 一方でESGと運用成果(パフォーマンス)との間には、明確な因果関係はないという意見もよく耳にします。
高橋私もよく取材でその質問をされます。「企業調査でESGを重視していると、パフォーマンスが悪化しませんか?」と。パフォーマンスが悪化するのであれば、ESG分析なんてやってはいけません。お医者さんが「この薬を飲むと病状悪化しますけど、服用してください」って言います?言いませんよね。
運用会社の仕事は、長期的なパフォーマンスの向上です。当社は、パフォーマンスの向上のためにESGを重視した企業の調査分析をしています。そして、当社の運用するファンドのパフォーマンスは新興国、欧州、グローバルの各株式戦略いずれも20-30年の長期にわたってインデックスを大幅に上回るパフォーマンスを収めています。以上!
深野(笑)エコファンドとかSRI(企業の社会的責任)ファンドと呼ばれる投資信託が昔、流行りました。環境や社会貢献にも積極的に取り組む企業を厳選して投資すると言われていましたが、組入銘柄を見ると、時価総額の大きな企業がズラっと並んでいるだけで(笑)。当時はまだ、環境に配慮できる企業なんて大企業に限られていましたからね。昔流行ったエコファンドやSRIファンドを覚えている人がESGのパフォーマンスに懐疑的なのかもしれません――深野氏
しかも「これならコストの安いインデックスファンドを買っている方がマシ」というような、パフォーマンスの冴えないファンドも結構ありました。結局、エコもSRIも運用のコアではなく、セールスツールでしかなかったわけです。その当時のことを覚えている人が、ESGのパフォーマンスに懐疑的なのかもしれません。
深野僕は時間軸の長さが重要だと思う。企業がESGを重視したからといって会社の業績が劇的に変わるわけではありません。やっぱり5年、10年かかる。コムジェストは5年後、10年後の成長を考えて銘柄を選び、投資していますよね?1~2年で結果を出せと言われたら、企業も運用会社も難しいでしょう。だから個人が投資する際も、5年、10年の時間軸で企業の成長と一緒に歩んでいく覚悟や忍耐が必要だと思います。
高橋私はESGの定義が広がり過ぎたことも、「パフォーマンスとの因果関係が明確でない」という話につながっていると思います。今では数多くのESG指数がありますが、恐らく大半のESG指数は、ESGのチェックリストを使って企業評価しているでしょう。チェックリストが一定以上の点数であれば、指数の構成銘柄として採用するという選定プロセスです。もちろんそれはそれで否定するものではありません。でも、当社のアプローチとは全く異なります。
ESGへの取り組みは、企業の長期的な事業にプラスの影響をもたらすと確信しています――高橋氏当社は、企業のクオリティを見極めるためにESGの要素をすべての運用戦略における企業分析のプロセスに取り入れています。これはESGへの取り組みが、その企業の長期的な事業にプラスの影響をもたらすと確信しているからです。
日本株式戦略で言うと、約3000社の上場企業の中からまず利益成長率などで400社ぐらいに絞り込み、その中から実際に企業調査を行い、投資ユニバースとして80社ぐらいに絞ります。この段階でESG専任のアナリストの分析が入り、ESGの観点で評価できる企業だけが投資対象銘柄となります。こうしたプロセスを経て厳選した30~40銘柄の集中ポートフォリオを構築します。
── 実際に経営陣に取材して話を聞いたりするのでしょうか?
高橋もちろんです。経営者に会い、膝を突き合わせて話さないことには、事業にかける思いや長期的なビジョンといった非財務情報は理解できません。これこそESGのGの部分だと思います。
── Gはわかりにくいですよね。「ガバナンス」って結局なんですか?
高橋その経営者をどれだけ信頼できるかどうかの尺度ですね。目先の株価ではなく、5年先、10年先に企業価値を最大化するための明確なビジョンを持っているか。従業員や取引先をどれだけ大切にしているか等です。
深野それはESG指数のチェックシートでは分かりません。そう考えると、真のESGは、インデックスファンドではなく、アクティブファンドじゃないと難しいと思う。
高橋インデックスファンドの存在意義は認めますが、例えば米国株の代表的な指数であるS&P500の中にどれだけ反ESGの企業が入っているのか等の議論も必要だと思っています。化石燃料のエクソン・モービル、軍需産業のレイセオン……。S&P500のインデックスファンドに投資するということは、巡り巡って地球温暖化や戦争に加担する行為でもあります。コムジェストは、そのような企業には絶対に投資しません。ESGを契機として投資家の意識が高まることを期待しています。