700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第177回は前回に引き続き、テレビ業界に留まらずまざまな芸事を身に着け、還暦過ぎて“木こりさん”に転身した中村五十六(isoRock)さん。
行く川のながれは絶えずして、しかも本の水にあらず
前回、「人生再発掘!」と題して、縄文を掘る話を書きましたが、その続きです。
縄文発掘が終わりになるころ「林業で募集があるよ」と友人から知らされた。
林業も気になるヘルメット姿。
チェンソーの資格を取って面接を受けた。
未経験者なのに即合格。
なぜかって?
この会社で最年少だったからだ。
森に入り、草を刈り、木を切る。
切り株に座り、遠くの山並みを見ながらお弁当をいただく。
転げ落ちそうな斜面での作業、背丈もある草は棘で生傷が絶えない。
獣や蜂との危険遭遇、まさに男の仕事だ。
山の神様は女性だという。
だから女性が山に入ると神様が嫉妬するらしい。
山の神様に気に入ってもらって事故が起きないよう、お願いしようと立ちションの日々。
「中村さん、明日から大工だ」といきなり親方社長に言われた。
この会社の本業は建築業、流れるままに生きていくことを決めた私は、何のためらいもなくOK。
お蔵の屋根修理。
それが終わると次は汲み取りトイレから水洗トイレへのリフォーム。
トイレの神様も女性。
汲み取りの穴を埋めるときには手鏡、櫛、口紅を入れて祈った。
社員寮の天井貼り、古民家の畳からフローリングへ、神社の神楽殿修理、実際は大工さんのアシスタントだけどかなり本職に近いくらいに体験できた。
もちろん日当も上がった。
限界集落の村おこし
親方社長は中学を卒業し大工見習になった。
家が貧しく、小学校の登校前に山菜を採り、旅館に売り歩いたという。
学費からお小遣いまで親に頼って何の目的もないまま、のらりくらりと大学まで出た私と正反対である。
どういうことかそんな親方に気に入れられた。
そして山梨県北杜市須玉町の寒村、増富ラジウム温泉がある増富地区の村おこしを手伝うことになった。
山を維持するために大きくなったナラの木を伐採する。
伐採した木を原木舞茸、原木椎茸、薪、炭へとあますところなく利用する。
日本全国同じ状況な高齢社会。
86歳の現役木こりから木の切り方を教わる。
30年前の炭窯を、親方と修復し手探りで炭作り。
身近な人たちはドキュメンタリーの取材対象としては最高の人たち。
ここ2年は新鮮な日々を送っていたのだが、ナント!この夏から会社の役員に。
えー!
経営は苦手なのに……。
やっぱ俺はlike a rolling stone
テレビや映像制作ではいつも大きい力に負けた感があった。
今でもテレビ局時代の夢を見る。
もう1週間も局に出社していない、やばい部長に怒られる、企画書の締め切りなのにどうしようとかとハラハラドキドキしていると目が覚める。
あー会社辞めて良かったと安堵。
56歳から流れにまかせて今は山梨県北杜市で木こりをしている。
が、またどこかへ流れていくような気がする。
その原動力は、27歳で幼子を残して召された愛しき彼女。
彼女には優しさを教えてもらった。
57歳で逝った親友にはロックを教えてもらった。
奥さんが犬の散歩に出ているときに心筋梗塞で亡くなった大先輩には、酒とバラの日々を教えてもらった。
“さよならのみんな”が俺を応援してくれる。
まだ俺には苔が生えない。
五十六→isoRock→I save our Rock。
昨年、音大を卒業した娘はロックバンドでドラムを叩いている。
俺はそういう人生が好きだ。
好きなことをとことんやる!
やっぱり俺は金儲けが下手だな。
Don’t trust over 60.
これをインチキ親爺の木こり専用Gメールアドレス(d.t.over60)にした。
さよなら!
次回は映画監督の野澤和之さんにバトンタッチ!
木こり生活が縁で「一般社団法人 富里アニメイトフォレストリー」の役員やってます。
舞茸などのおいしいキノコや木材の販売をしています。
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。