700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第179回は、『おかしな刑事』などのドラマでおなじみの脚本家、岡崎由紀子さん。

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住めば都?

岡崎由紀子さんの写真岡崎由紀子
脚本家、日本放送作家協会会員

母の大腿骨骨折を機に、あんなに買い物が好きだった元バイヤーの私がデパートのない山形に引っ越して、もう5年になる。市役所に転入届を出しに行ったその日、市内唯一のデパートが閉店した。このあたりの経緯は、3年前の当エッセーに書いたとおりだ。

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元バイヤー、デパートのない県に引っ越す

当初こそあれこれ文句を言っていた私だったが、何しろ世界中コロナ禍で、不便を強いられているのは私だけではない。母と毎晩、将棋を指すのも楽しいし、オンライン会議が普及して、仕事の打ち合わせに上京する必要もない。

市内の図書館は利用者が少なく、人気作家の新刊本でもガンガン予約が回ってくるし、地元に来てくれる舞台は選り好みせず行こうと決めたら、いろんなジャンルの公演を見るようになり、かえって視野も広がった。山形も結構住みやすいのだ。

静かな図書館の写真山形市内の図書館は利用者が少なく、新刊本もすぐ回ってくる(写真はイメージです)
Picturesque Japan / Shutterstock.com

最近はコロナも怖くなくなり、大好きなデパート巡りはたまの上京時に楽しんでいる。ただ、帰りの新幹線が気になるのか、焦って「何故これを?」という物を買うことがたまにある。元バイヤーとしては、予算内でまとめることが今後の課題か……。

母が亡くなり、もう東京に戻ってもいいはずなのに、私はこうして、何故か山形に住み続けている。

幻のマグノリア・ハイツ

内臓はどこも悪くないし100まで生きるかも、と医者から言われていた母が92歳で死んでしまったのは、1年前のことである。

私は独身子無しの1人っ子。両親の兄弟は全員亡くなっていて、地元にいる親戚はやはり独身の頼りない従兄弟(むこうもそう思っているだろう)1人だけだ。母の法定相続人も当然私1人なので、これ以上単純な相続もあるまい。むしろ私に出来なかったら、国の制度自体がおかしいのよ! と、相続登記も相続税も、相続に関する手続きは全て自分でやることにした。父の時は司法書士に依頼したが、やってみれば意外とできるものだ。

実は東京に住んでいた頃、私は両親亡き後は実家をアパートに建て替え、家賃収入を得ようと考えていた。あの頃の私には、山形に帰って実家に1人で住むなんて、あり得ない未来だったのだ。アパートの名前は『マグノリア・ハイツ』。真夏に生まれた母のお気に入りで、以前住んでいた家から1本だけ移植してきたのが泰山木(たいざんぼく/evergreen magnolia)なのである。なのに名実ともに家が自分の物になった今、私は東京に戻る自分も、アパートが建ったこの土地も、まったく想像できずにいる。

マグノリアの写真以前住んでいた家から1本だけ、泰山木を移植してきた

築50年木造モルタル2階建て。相続時の価値は100万ちょっとだったこの家だが、実は数百万かけてリフォームしているので水回りは最新だ。無駄に広い庭は管理が大変な反面、父が花の咲く木を中心に植えたので、春から秋まで花が絶えることがない。冬は雪かきという重労働が待っているが、バードフィーダーに野鳥が集うのをリビングの窓から眺めることが出来る。

ご近所に住む母の将棋仲間は今では私の将棋仲間だし、テニスを始めたら友達が一気に増えて脂肪が減った。過去最高に筋肉のついたお尻や太ももを触って、ついニヤつく毎日……。要するに、山形が楽しくて今は離れられないのだ。

アパートを建てるなら今頃は伐採されていたはずの泰山木は、この夏も大きな花を咲かせた。泰山木の花言葉は「前途洋々」だとか。この年で前途洋々もないものだが、ちょっと前なら想像もしなかった『自分史・後編』が始まりそうな予感がする。

次回は長坂一哲さんへ、バトンタッチ!

是非、観てください!

『科捜研の女 season24』を書いています。
私が担当したのは、制作順で第7話。
個人的な趣味全開のお話になりました。
8月14日(水)放送予定です。
お楽しみに!

⇒『科捜研の女 SEASON24』の公式ホームページはこちら

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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