本連載は、日興アセットマネジメントの研修機関「日興AMファンドアカデミー」による、銀行や証券会社などで働く投資信託の販売担当者に向けたセミナー講義の内容を採録したものです。
〈記事提供:日興アセットマネジメント

最終的に目的が達成されないリスク

さてどうでしょう。いろいろ話してきましたが、「株式が1年に何十パーセントも下がる可能性があるのなら、やはり投資はできないわ」と思われるでしょうか。それとも「その程度のストレスなら我慢して成長に期待しよう」と思われるでしょうか。いずれにしても、あらためて思い出していただきたいのは、最終的に大事なのは、過去の1年毎の値上がり値下がりを表す「棒グラフ」ではなく、これから将来に向かってどのような右肩上がりの推移を見せてくれるかという「線グラフ」なんだという点です。

今日はぜひ、「途中のリスク」と「最後のリスク」という考え方を覚えていただきたいと思います。今日の最初の方で「日経平均が5年後に30,000円になると思う人?――もし思うなら、それは36.36%÷5年で年7.2%という素晴らしい運用ってことになりますよね」という話をしました。覚えてくださってますでしょうか。ただし、その「年7.2%・5年運用」を手に入れられるのは、5年間に起こるであろう上がった下がったによるストレスを「無視」できた人だけでした。このストレスの程度が「途中のリスク」です。

日々のストレスの程度が「途中のリスク」。

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そして「最後のリスク」。それは「最終的に目的が達成されていない可能性」のことです。ちょっと分かりにくいですかね。例えば、何か値動きがとても小さくて毎日のストレスがほとんどない投資資産があるとします。いいですよね。ストレスは少ないに越したことはない。これなら安心して長期投資を継続することができそうです。

でも、もしこの投資資産が長期的に右肩下がりだったらどうでしょうか。これほど危険な投資はありません。長期投資すればするほど傷は深くなります。いくら「途中のリスク」が低くても、こんな資産に投資していてはいけません。もし持っているなら早く売却すべき。これが「最後のリスク」です。長期のトレンドとして、ちゃんと長期投資が報われるような方向なのかどうか。これが「最後のリスク」を点検する際の視点となります。

長く持っても報われない可能性が
「最後のリスク」。

個人年金の運用で「腹をくくって途中を無視する」

個人の資産運用計画の観点でいえば、例えば60歳なり65歳のリタイア時に必要十分な金額に無事増えてくれているかどうか。そのことに貢献してくれる投資資産かどうか、それが「最後のリスク」ということになります。もう十分かもしれませんが、ダメ押しで実際の例を紹介しましょう。

何を隠そう私自身の資産運用の中身です。前に少しお話しした通り、私は国内の証券会社に10年勤め、その後に外資系の運用会社に転職しました。そしてそこで7年働いた後、日興アセットにまた転職したわけです。最初の外資系運用会社にはいわゆる普通の企業年金の制度はなく、確定拠出年金、米国の名前にちなんで401k(よんまるいちけー)と言ったり、DCと言ったりします。最近ではその個人型をiDeCo(イデコ)と呼んで話題になったりしています。私はその企業版のに入ることになりました。会社が給与とは別に月々積み立ててくれる、いわば退職金です。ただ、その中身が自分で選べるわけです。その点がそれまでの企業年金というかつての退職金のひとつとの大きな違いです。

で、私は何を選んだか。十数本の選定されたそれ用の投信ラインナップの中から私が選んだのは、海外株式のインデックスファンド1本です。そしてそれは今もずっと同じです。その後日興アセットに転職しましたが、DCのメリットはポータビリティといって持ち運べることなんですよね。それまでの普通の企業年金はその会社独自のものでしたから退職したらそれまでだったわけですが、DCはそれまでのお金を移管して運用を続けることができるんです。なので私は、最初に入った2000年から今までずっと、海外株式ファンド1本で会社が出してくれる退職金の原資を運用しているわけです。今日は報告書のコピーを取ってきたのでお見せしましょう。


日興アセットマネジメントの社員の例のひとつを示したものであり、特定の商品や運用方法を推奨するものではありません。

1本しか持っていないから、せっかくの円グラフが円グラフの体をなしてないですね。最初に加入する時の人事部主催の説明会では「資産運用の基本は分散投資です」と言われ、バランスよく複数のファンドを持ちなさいと教わりましたし、私も今日みたいなセミナーでは一般論としての分散投資の良さを話したりするんですが、私がDCの中でやっていることは真逆です。なぜか。それは途中では下ろせない仕組みだからです。いわば「途中のリスク」が高かろうが低かろうが関係ないからです。60歳まで下ろせないなら仕方ない。腹をくくって途中は無視してやろうじゃないか、そう思っているわけです。

それよりも、私にとっての真のリスクは「最後のリスク」なんですよ。つまり60歳の定年時に、その後の生活の足しにするに十分な金額まで増えていないこと、それこそが私にとっての最後のリスクです。せっかく30年近くも会社にお金を出してもらってコツコツ続けてきたのに全然増えていなかった、下手したらインフレにも負けていた、つまり物価上昇の方が大きくて十分な購買力を持たない金額でしかなかった、というのが一番怖いんです。

この「最後のリスク」を回避する選択として、私は世界の株式に広く分散する投信をずっと長く溜めていくという決断を2000年の時にしました。「途中のリスク」を無視して「最後のリスク」を回避し、60歳になった自分が正しい選択をしたなと「最後に笑う」ことをイメージしたんです。それは50歳を過ぎた今でも変わりません。

換金が近づいたら「最後のリスク」を意識

ただ、あと5年くらいしたら少し中身を変えるかもしれません。DCというのは途中で下ろせないと言いましたが、中身の投信の変更は随時可能なんですね。55歳くらいになった時、残りはあと5年になるわけじゃないですか。逆に60歳で「強制エンド」になってしまうことを考えると、そこがたまたまリーマン・ショックみたいな年に当たったら目も当てられないわけですよ。だから多分、55歳くらいになったら安全運転に切り替えるんだと思います。2000年の人事部のセミナーで聞いたような、複数資産に広く分散されたタイプの投信、今日の話で言えば「守りバランス」に切り替えるんだと思います。

今日はDC制度を詳しく説明する時間はないのですが、今の点について補足しておきます。実は確定拠出年金(DC/401k)は正確な意味では60歳で強制エンドとはなりません。そのまま運用だけを継続させることが可能です。会社からの毎月のお金は確かにストップしますが、「運用指図者」として運用を続けることができるんです。さらに年金のようにそのお金の一部を定期的に取り崩しながら、残りのお金の運用を継続することができます。

「人生100年」などと言われる現代においては、60歳以降は働かずお金を取り崩して使っていくだけ、というのは少数派になっていくんでしょう。働きながら、または運用を継続しながら必要に応じて取り崩すというスタイルが主流になるはずです。DCの扱い方や退職一時金の受け取り方も含め、いろんなやり方、工夫の仕方はありそうです。いずれにしても退職金の制度は会社によりマチマチですから、今現役世代の方は、明日にでも人事部に確認するのが一番です。自営業や公務員の方も、それぞれの制度について一度真剣に確認することが大切だと思います。

これは長女が20歳になった時に聞いた話なんですけどね、通知が来た国民年金に対して「年金なんてどうせ潰れるんだから払うのはバカだよ」と言う友達が何人もいたそうです。その一方で、彼らはテレビCMを見て、若者向けの保険や年金保険や所得保障保険などに入ってしまったのかもしれません。国の年金が破綻するような時、民間保険が果たしてどうなっているだろうかという想像力もなく、マスコミの論調や単なるイメージで判断してしまいがちなのは、何も若い人に限った話じゃありませんよね。

今日は公的年金の話までは入れませんが、やはり国の社会保障制度や退職金制度の正しい理解なしに、お金の全体設計はうまくできないはずです。できるだけフラットで正しい情報を一度調べてみたいですね。その上で、今日お話してきたような「前向きな覚悟」での資産運用設計を組み立てたいものです。

第33回 投信はつぶれない? 基準価額の見方
第31回 為替レートと金利差と景気

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