大学で音楽に熱中、歯科医になっても音楽活動を継続

大阪大学の歯学部と言えば、秀才のイメージしかありません。そこから、歯科医院を開業されてエアロジーラボを設立されるまでの歩みに興味があります。

 先ほども話しましたが、勉強に明け暮れた感じではありませんでした。予備校にも通いましたが、それは受験生の標準を感じて自分がどのレベルで頑張ればいいか、を確認するためでした。後は参考書を使って一番簡単に目標を突破するための方法を探る、そんな感じでしたね。これまでを振り返っても標準を感じてレベルを決定する、というのが得意な気がします。

大学では軽音楽部に入って、そこでドラムやパーカッションを担当するようになりました。ジャンルを決めるのもなかなか難しいのですが、ディープ・パープルやレッド・ツェッペリンなどのハードメタルからTOTO、クィーン、ご存じかどうか、アシッド・ジャズのブームを作ったインコグニートなどですね。ジャズ、フュージョン、ソウル、いろいろです。ライブハウスでも学園祭でも演奏しましたね。開業後になりますが、パーカッショニストとして活動し、トレーニングのためにエジプトにも行きました。結局、通常6年で卒業する歯学部を9年かかって卒業したのも音楽に熱中したためです。

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大学でも性分は変わらないので、態度がでかいと上の立場の方には睨まれていた気がします。大学を卒業後は研究室に入って、そこで研究員、歯科医として働きました。独立したのは1994年、35歳でしたね。

もっともパーカッショニスト、ドラマーとしても歯科医の傍ら、活動は続けました。後にエアロジーラボを設立して、やはり多くの方から本業は何ですか、と聞かれるのですが、私からすれば、すべてが本業の感覚です。逆に、すべてが趣味、かっこよく言えば人生が趣味、そうも言えますね。もちろん、生活していくために、それぞれの仕事に趣味に割いている時間は調整しないといけませんが、単にそうした話であって、あくまですべてが本業ですね。

国内でブームになる前にドローンを自作

分かる気がします。

 歯科医院を開業して、自分で言うとおかしいのですが、順調に歯科医としても成功してきたと思います。目の前の患者さんのために、何をしなければいけないか、経営を成り立たせるために何をしなければいけないか、など自分の中で整理されていた気がします。

トラリピインタビュー

さて、エアロジーラボの設立の経緯ですが、これも最初は趣味の延長でした。当時、私はカヤックでの急流下りにハマっていたのですが、そのあい間に、ラジコンヘリコプターやラジコングライダーにカメラを積んで空からの映像をリアルタイムで見るのが好きでした。ラジコンも好きでしたが、空から誰もみたことない視点で、誰も見たことのない景色を見るのが楽しかったのです。そのために情報を集める中でマルチローター型ドローンに出会ったのです。
マニュアル操作のラジコンでは操縦そのものが難しく、撮影中に操縦に集中できずに機体を墜落させてしまうことがしょっちゅうあったのですが、このドローンであればその弱点は克服できると思いました。それで、ネット検索などでドイツ語の文献などから部品を集め、自分でドローンを作り、空中撮影などに使っていました。10年以上も前の話です。

ドローン
まだ日本でドローンが知られていない頃に、谷社長は自ら部品を集めてドローンを作っていた

工作が好きだったという話をしたと思いますが、ドローンだけでなく、現在考えるとスティーブ・ジョブズが想像したiPhoneのような装置についても、そうしたものを作ろうとしていましたし、実際に自分の歯科医院で遠隔医療システムに近いものを考案していました。また、院内にサーバを設置して音楽配信に近いものを仲間うちで行っていたりもしました。個人的な範囲の中ではありますが、近未来を実現していたとも言えます。

さて、ドローンです。そんな頃、テレビニュースで千葉大学がドローンの飛行実験を行ったというニュースが取り上げられました。本邦初、という話でしたが、あれ、これはもうずっと前に自分がやっていたことだ、と思いました。ドローンはブームになってほかにも様々な話題がメディアを賑わしましたが、そうした記事、そうしたニュースを見るたびに、もしかしたらこの分野では日本で一番先頭を走っているのは自分ではないか、と考えるようになりました。だとすれば、会社を作ってみようか、というのが起業の経緯です。

特に本腰が入ったのは、たまたま大学の軽音楽部のバンド仲間が関西テレビで要職に就いていたので、自分で開発したドローンで空撮を行った映像などを見せて、こんなドローンを作っていて映像を撮影できるが、どんなものだろう、と相談したことがきっかけで、関西テレビが出資してくれることになったことです。

ドローンで社会問題を解決したい

エアロジーラボは物流用途などを睨んだ様々な実証実験などで、いまや我が国のドローンビジネスの中でも注目の企業です。

 ドローンにかかわる多くの企業が開発・製造ではなく中国などから機体を輸入して運用で儲けようとしています。ただ、私たちは空撮などの運用だけでなく、開発・製造に力を入れています。特にバッテリー型ではなくエンジン発電機とバッテリーを併用したハイブリッド型のドローンに強みを持っています。2025年の大阪万博では近畿経済産業局のプロジェクトで水素エンジンを動力源とした有人ドローンのデモフライトを計画しています。

ドローンの製造
エアロジーラボは関西テレビなどの出資を受け、ドローンの開発・製造に力を入れる

不思議なもので、どちらかと言えば個人主義的な匂いのする歯科医になって、自分の興味の赴くままに、個人的な範囲で近未来を自分の創意工夫で手繰り寄せて生きてきたのですが、結婚して子供たちも巣立ち、50代も半ばになってからエアロジーラボを起業、ドローンビジネスに携わるようになりました。そうすると、北野高校の同級生たちが同窓会での会話や、様々な縁で私をサポートする立場になって、この仕事に携わってくれることになりました。もともと起業する気などさらさらなく、自分が楽しいことをすること、人生をエンジョイすることを目的にやってきたのですが、ここに来て別の欲が出てきました。

ドローンは限りなく可能性を持つ道具です。そして自分が開発したドローンが社会問題を解決して、世の中の役に立てるチャンスが現在ここに来てるという実感があります。
このチャンスを喪いたくはありませんし、ここから先は私一人の話ではなく、私を超えて、この会社が成功すること、それが願いです。

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