「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、「長期、分散、積立」と並ぶ投資の重要な判断基準である「コスト」について、実在の投資信託を例にして考えます。

  • 信託報酬が低い投資信託が増え、「低コスト」は訴求ポイントになりにくい
  • 投資信託の手数料の差は長期におよぶと大きくなる。コストに見合う付加価値とは?
  • 実際の投資信託で比較すると、10年の積立投資でコストが5倍以上になる例もある

一昔前、時の金融庁長官が「長期、分散、積立」という投資のコツを発言したことが話題になりました。もっとも、筆者は20歳代から心がけていたことですし、お客様にも提案していたことなので、新鮮味は感じませんでした。

むしろ、長期、分散、積立だけの投資のコツは「今や昔!」と叫びたいくらいです。
もし、今から「長期、分散、積立」の投資を行うのでしたら、「コスト、分配金、歴史(=純資産残高)」も投資のコツと申しますか、ファンド選びの基準に加える必要があるでしょう。

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分散投資ならファンド。ファンドに付き物なのがコスト

筆者は時の金融庁長官の発言よりも、著名な証券会社が「購入時手数料ゼロ・信託報酬ゼロ・信託財産留保額ゼロ」という、「3つのコストがゼロ」という投資信託をリリースした時に、それこそ大きな衝撃を受けました。

モーニングスター社の『ファンドランキング』の「信託報酬」>「国際株式型」を見ると、1位は先述の「3つのコストがゼロ」のファンドですが、2位以下、20位までが、いずれも信託報酬の年率は「0.08~0.1%」です(2022年5月末時点、以下同じ)。また、筆者には信託報酬が高そうなイメージのある「バランス型」でも、同じく低い順に20位まで「0.09~0.21%」です。

また、「残高が増えれば、信託報酬率を下げる」というファンドもあります。

ひるがえって、本稿でも繰り返し述べてきましたが、筆者が利用している証券会社は全てのファンドがノーロード、つまり購入時手数料ゼロです。また、証券会社ではなくメーカー(=投資信託の運用会社)の方で、「購入時手数料ゼロ」で統一しているブランドもあります。

もはや投資信託にとって「低コスト」は訴求ポイントにはならない、ということですね。

たとえ少額でもコストを払うのなら、その付加価値はどこに?

第62回では、「声に出して驚くほど高い証券会社の手数料」の例を紹介させていただきました。ここで述べたような例でしたら、高い手数料(高いコスト)を払う付加価値があると言って良いと思います。

投資を始めるなら、銀行? 証券会社?

ところで、長期、分散、積立の投資において、ファンドのコストの付加価値は、どこにあるのでしょうか?

積立投資を推奨するサイトなどでは、「積立投資を始めたら、後は、放っておきましょう」などというコメントを見かけることがあります。

積立投資を始めたら放っておくというのもいかがかと思いますが、そもそも「放っておくもののコストに見合う付加価値」は、果たして、どこにあるのでしょうか?

ファンドのコストは、住宅ローンの金利と同じです。たとえ、その差がわずかなものであったとしても、「長期」に及ぶと、結果として大きな差になるのではないでしょうか?

話は変わりますが、筆者は「時間もコスト」という認識があります。ですので、高いコストを払うのなら、「目標の額に達する時間が短くなる」、つまり高いコストを払う分、より高い利回りを得ることができれば、付加価値があると思っています。

時間とコスト
コストが高いのであれば「時間をお金で買う」、つまり少ない時間で利益を上げられるファンドであってほしい

ファンドのコストをシミュレーションしてみると

下の表では、実在する2本の投資信託に毎月1万円ずつ、10年間にわたって積立投資を行った場合に、(現実ではあり得ませんが)投資額と積立残高が全く同じ額で、しかもファンドAとファンドBのどちらも同じ残高の額と仮定して、信託報酬率のみが異なる場合の信託報酬額を比較しています。また、計算を簡単にするために、信託報酬は年1度支払うものと仮定しています(本来は営業日ごとに日割りで負担します)。

ファンドA……バランス型ファンド。信託報酬率0.63965%(別途、購入時手数料1.1%があるが、本表では考慮せず)。
ファンドB……バランス型ファンド。信託報酬率0.15%(いわゆるノーロード投信)。

  積立残高 信託報酬額
ファンドA ファンドB
1年目 120,000 768 180
2年目 240,000 1,535 360
3年目 360,000 2,303 540
4年目 480,000 3,070 720
5年目 600,000 3,838 900
6年目 720,000 4,605 1,080
7年目 840,000 5,373 1,260
8年目 960,000 6,141 1,440
9年目 1,080,000 6,908 1,620
10年目 1,200,000 7,676 1,800
信託報酬の累計額 42,217 9,900

同じバランスファンドとはいえ、運用の中身については、ファンドAが4資産なのに対し、ファンドBは8資産です。ファンドBの方が、より高いコストが必要な印象を受けますが、実際は逆になっていますね。また、ファンドAとファンドBの運用会社は違いますが、どちらも国内の著名銀行グループの運用会社です。

なお、ファンドAには別途、購入時手数料(1.1%)がありますので、投資の累計額(毎月10,000円×12か月×10年間)に対して、購入時手数料の累計額は13,200円です。ファンドAの信託報酬額と購入時手数料額、それぞれの累計額を合わせると55,417円で、ファンドBのコスト(信託報酬額のみ)に比べると、約5.6倍の額です。

いかがでしょうか? もちろん、コストだけを単純に比べて投資の判断をするわけにもいかないですが、仮に同じパフォーマンスなら、ファンドAについて、払うコストに見合うだけの付加価値を得たいものです。

次回(7月4日公開予定)では、分配金について考えてみたいと思います。

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