700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第196回は、TVドラマや映画の脚本を手掛ける、青木江梨花さん。9月に掲載した「フリーランス独身女のマンション購入戦記」の続編をお届けします。

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フリーランスと金利のビターな関係

青木江梨花さんの写真青木江梨花
脚本家

少し前、大手銀行が住宅ローンの変動金利を0.15%上げたとして大きなニュースになった。
利上げは何と17年ぶりだとか。
確かに大きなニュースだが、0.15%上がったところで金利はまだ1%未満
私がマンションを買おうと思い立った12年前なら、会社員のみなさんは0.5%以下の好金利でガンガン住宅ローンを組んでいた。
でもそれはあくまでも堅気のみなさんのお話。対する私は、明日をも知れぬフリーランスだ。そんな立場ながら、私が奇跡的に希望のマンションの契約に漕ぎつけたことは前回書かせて頂いた
しかし問題はここから、だったのだ。

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フリーランス独身女のマンション購入戦記

マンションの営業担当Sさんが弾き出したローンの額はあくまでも試算。
実際に買うとなれば、融資を実行してくれる金融機関を探さねばならない。
金利が有利なのは圧倒的に都銀だが、都銀はフリーランスになど鼻も引っ掛けない。
というわけで、候補となったのはいくつかの地銀だった。
都銀に比べれば金利はやや高いが、不安定な職種でも比較的ローンが出やすいと聞いていたのだが……。
数行は見向きもせず。
唯一、電話を掛けてきた某地銀の担当者は、私の仕事について根掘り葉掘り聞き出した挙句、冷たく言い放った。
「これまで何をしたかはどうでもいいんです。この先何をする予定なのかを教えてください」
私は思わず黙り込んだ。
担当さん……そんなことはむしろ私が知りたい。

当時はまだ、デビュー3年目の駆け出し。
コンスタントに仕事をしていたとはいえ、決まるのはだいたいある日突然だ。
余程の売れっ子でもない限り、先々まで仕事が決まっていることなどそうそうない。
でもそんなことを言ったら、その場で道は閉ざされる。
私はとっさに答えた。「某局との間でドラマの企画が進行中です」
企画書は提出していたから嘘ではない。
が、実はドラマの企画というのはほぼ通らないと思った方がいい。
多少胸は痛んだが、ここで引いてはならじと踏ん張った結果――提示されたのは、希望額に400万円ほど足りない金額だった。

別の某地銀は「3%ならいくらでも貸します」と言ってきたらしいが、堅気のみなさんが0.5%以下という時に、3%はいかにも高すぎる。
それに金利が5%になると、利息は元本とほぼ同額になるという話も聞いていた。
3%なんて限りなく5%に近いじゃないか……さすがにマンション欲しさよりも金利の高さが勝り、私はSさんに宣言した。
「3%を超えるなら購入は諦めます!」

銀行で商談「3%ならいくらでも貸します」と言ってきた地方銀行。堅気のみなさんが0.5%以下という時に、3%はいかにも高すぎる……

この期に及んで契約を破棄されてはたまらないと、焦ったSさんが血眼になって探し出してきたのは地元の信金だった。
緊張の面持ちで面接に向かうと、待っていたのは副支店長のTさん。
どことなく体育会風味の漂うTさんは、ありがたいことに若干ミーハーでもあったのか、脚本やドラマ制作についての話を終始楽しそうに聞いてくれた。
そして最後に言ったのだ。
「自営業の方の事情はよく分かっています。青木さんのような方にお貸ししなければ我々の存在意義はありません。融資はウチがさせて頂きます」と。
こうして提示された金利は変動で2.175%。
世間の好金利と比べてしまえばかなり悪条件だが、金利は借り手の信用の表れだ。
金利と信用が反比例すると考えれば、フリーランスで駆け出しの脚本家たる私の信用は堅気のみなさんの1/4以下。
実に悲しいことだが、それが現実だった。

トラリピインタビュー

目指すは、短期決戦!

「繰り上げ返済は早ければ早いほどいい」と言われる。
実際に返済を始めてみると、初期の返済額の内訳は大部分が利子。
元本はほとんど減って行かないのがよくわかる。
金利が高い上に利子ばかり返していては、いつになっても借金が減るわけがない。
そういうことなら、短期決戦だ!
毎年必ず一定額ずつ繰り上げ返済をする。
と決めたものの、ここが信金のいただけない所。
大手銀行ならネットでポチッと手数料もなく繰り上げ返済できるらしいが、私の場合はいちいち電話連絡をしなくてはいけない上、手数料も5,500円かかるという。
それはちと高くはないか?
妙な節約心を起こした私は、あっさり方針転換。
繰り上げは2年に1回、2年分ずつしていくこととした。

迎えた購入2年目の夏。
初の繰り上げ返済の効果は思った以上だった。
トータルの返済額で比べると、繰り上げた額の約2倍に当たる額が減る計算になるという。
つまり、お金が2倍の価値を発揮したようなもの。
こんな素敵なお金の使い方が他にあるだろうか?
これで味を占めた私は、次はいくらお得になるだろうかと、繰り上げ返済の時を心待ちにするようになった。

ローンのイメージ初の繰り上げ返済の効果は思った以上だった

こうしてコツコツ返済するうち、Tさんとお別れの時がやってきた。
丁寧に異動のごあいさつを下さったTさんは、なんと置き土産まで下さった。
「2%を超える金利はさすがにご負担でしょう。これまでお約束以上にきちんと返済して頂いたので、わずかですが利下げの稟議を通していきますね」
改定金利は1.975%。たったの0.2%だが、昨今0.15%の利上げで大騒ぎしていることを考えれば、この配慮がいかにありがたいことだったか。
信金さん、“いただけない”なんて言ってごめんなさい。
この細やかな心配りは間違いなく信金ならでは。
血の通った融資をして下さったことに心から感謝をしている。

そしてそれからさらに数年。
気づけば残債はいつの間にか貯金額よりも少なくなっていた。
返す気になれば一気に返せる。
でもフリーランスの身としては、ある程度の貯金も持っておきたい。
迷いはしたが、“完済”という響きはなかなかに魅力的だった。
それにいつまで仕事があるか分からない身なら、仕事のあるうちに身軽になってしまいたい。
私はもう一度、購入時よりは少し低めの清水の舞台から飛び降りてしまうことにした。

こうして最後は半ば強引に11年間の住宅ローン生活とおさらばしたわけだが。「完済した」と言うとよく、「秘訣は?」と聞かれる。
あえて言うなら「楽しむこと」だろうか。
私が繰り上げ返済に楽しみを見出したように、どんなに大変そうなことでも、そこにはきっと「楽しめる何か」が隠れているはず。
それを見つけられれば、住宅ローンだって怖くない。
しょぼしょぼフリーランスだって、やる時はやるのだ。
だから――もっと我々を信じて下さいね、銀行さん!

次回は高橋泰源さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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