「長期金利の上昇」というニュースを目にした方も多いと思います。金利が上昇すると新規のローンを組みにくくなる一方で、国債などの金融商品にとっては利回りが高まる機会にもなります。今回は「新窓販国債」の利回りを見ながら、長期金利の動向と国債の利率・利回りの関係について確認していきます。
- 長期金利=10年国債利回りは上昇傾向で、直近では0.8%を超えて推移している
- 債券を知る4つのキーワードは「表面利率」「額面金額」「債券価格」「利回り」
- 日銀の長短金利操作の影響もあり、新窓販国債の表面利率は引き上げられた
長期金利=10年国債利回りが上昇
日銀は10月の金融政策決定会合で、長短金利操作(イールドカーブコントロール)の長期金利の上限を0.5%から1.0%に引き上げ、一定程度容認する金利を1%から1%超に変更しました。
それにより、長期金利は上昇し、11月7日時点では0.875%で推移しています。
長期金利とは、直近の10年国債利回りを指します。現在(11月10日時点)では、11月に発行された第372回債の利回りです。国債は日々取引されていますので、株価のように日々価格が変動し、それに合わせて長期金利も変動します。
今回は、債券の基本的な仕組みと、長期金利が0.8%を超える金利で推移している要因について、「新窓販国債10年」の発行条件の推移を見ながら考えていきます。
債券を理解するための4つのキーワード
債券の基本的な仕組みを理解するには、以下の4つのキーワードの理解が欠かせません。
・表面利率
・額面金額
・債券価格
・利回り
が、その4つのキーワードになります。
表面利率とは
表面利率は、利子を計算する時に使われる利率です。
固定金利の債券では、表面利率はその債券の発行から償還(満期)まで一定(固定)です。
額面金額とは
額面金額は、債券が償還(満期)になった時に、その債券を保有している投資家が受け取れる金額のことです。
額面金額は債券により異なります(新窓販国債は5万円、個人向け国債は1万円など)ので、発行条件の提示では、償還時受け取れる金額を「額面金額100円に対して100円」と、単位を統一して提示されています。額面金額は発行から償還まで変わることはありません。
また、利子は「表面利率×額面金額」で計算しますので、固定金利の債券では、利子の金額は償還(満期)まで同じ金額が支払われます。
債券価格とは
債券価格は、その債券の日々の取引価格です。
債券も株式同様、投資家の間で売買されていますので債券価格が日々変動します。ですから、保有している債券を途中で売却した場合の価格は、上記の額面金額ではなく、債券価格になります。
債券を購入した時点での債券価格が額面金額より低いと、償還(満期)まで保有すると償還差益を得ることができます。一方、額面金額より高い債券価格で購入した場合は、償還差損が発生します。
また、一般的な債券は発行前に入札参加者(銀行や証券会社など)による入札がありますので、ほとんどの場合、発行時の価格も額面金額とは異なる価格になります。
利回りとは
一般的に債券の利回りは、その債券を購入した時点から償還まで保有した場合の、年間平均利回りで表されます。
年間平均利回りを計算するためのベースは、「償還までに受け取れる利子の合計」と、「購入時の債券価格と額面金額の差」になります。
例えば、表面利率1%、額面金額50,000円、償還までの期間が5年の債券を、価格49,500円で購入し、満期まで保有した場合のトータルの利益は、
利子2,500円 (500円×5年)
償還差益500円 (50,000円-49,500円)
の、合計3,000円です。
利回りは、1年あたりの利益の600円(3000円÷5年間)を購入価格49,500円で除して求めますので、
1.21% (600円÷49,500円)
になります。
上記と同じ債券を、債券価格50,500円で購入した場合は、利回りは0.79%になります。
計算式は
( (利子2,500円-償還差損500円) ÷5年間) ÷購入価格50,500円
になります。
このように固定金利の債券では、債券価格が下がると利回りが上昇し、債券価格が上がると利回りは低下します。
以上が債券の仕組みを知るため4つのキーワードの説明になります。
最近の表面利率の上昇の理由は?
最近の表面利率の引き上げは、日銀が長短金利操作を修正した影響が大きいと考えられます。
下表は直近6カ月間の新窓販国債10年の「表面利率」「応募者利回り」「募集の価格」です。
表面利率 (税引前) |
応募者利回り (税引前) |
募集の価格 | |
---|---|---|---|
11月債 | 年0.8% | 年0.866% | 額面金額100円につき99円40銭 |
10月債 | 年0.8% | 年0.725% | 額面金額100円につき100円69銭 |
9月債 | 年0.4% | 年0.615% | 額面金額100円につき98円03銭 |
8月債 | 年0.4% | 年0.552% | 額面金額100円につき98円58銭 |
7月債 | 年0.4% | 年0.386% | 額面金額100円につき100円13銭 |
6月債 | 年0.5% | 年0.392% | 額面金額100円につき101円00銭 |
5月債 | 年0.5% | 年0.383% | 額面金額100円につき100円10銭 |
表を見ると、表面利率が日銀の長短金利操作の修正に影響されていることがわかります。
7月の日銀政策決定会合で長期金利の上昇を1.0%まで容認した影響が、8月~9月までの応募者利回りに出ています。11月についても、10月末の日銀の長短金利操作の再修正(上限金利1%超を容認)から、投資家が0.8%の表面利率に不満(表面利率<応募者利回り)であったことがわかります(募集の価格は、市場動向などを勘案しながら銘柄ごとに財務省が決定し、それによって応募者利回りが決まります)。
今後も日銀の金融政策の変更などで長期金利が上昇すると、12月債以降の新窓販国債では表面利率をさらに引き上げる可能性が高まると考えられます。
長期金利の上昇は、固定金利型の住宅ローンの金利が上がるなどデメリットの方に関心が行きますが、国債の表面利率が上がることで利子が増えるため、投資家にとってメリットがある点も押さえておきましょう。