700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第204回は、地方FM局のディレクターを経て、ライターとして活動する原哲子さん。

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空手教室の見学で号泣した息子がスポ少に入!?

原哲子さんの写真原哲子(はら あきこ)
ライター
放送作家協会会員

私の息子は現在小学6年生。ドッジボールのスポーツ少年団(略して「スポ少」)のチームに所属している。
「○○にドッジボールに誘われたから行きたい!」と学校から帰ってきて息子が言ったのは小学3年の秋だった。
早産で予定より3カ月も早く生まれ、出生体重が1000g無かった息子は身体が小さく、体幹も弱く、動きもふにゃふにゃしていて頼りなかった。
強くなってほしいと空手や剣道などの武道をすすめてみたが興味を示すどころか、見学に行った空手教室で指導者のドスの効いた挨拶の声にびびって号泣! 空手の練習が始まる前に教室を後にした経験があった。
そんな彼が自分から「行きたい」と言い出したのだ。
これは嬉しい驚きだった。

ただ、そのドッジボールチームは全国大会出場も果たしている「ガチ」のチーム。練習はかなり厳しい。
それに息子はついていけるのかは甚だ疑問だった。
さらに世間でスポ少のお茶当番の是非が問われており、保護者の負担が大きいと聞いていたので、私個人としてはそれほど積極的にはなれなかった。
が、せっかく彼が自分から言い出したことだからと、まずは体験にいってみることにした。

始めの体験は低学年のグループに交じって走ったり、ボールを投げあったりと簡単なことだった。
私はその練習を見ながらチームの説明を受ける。
練習は火曜の夜と土日の午前中の週3日。
毎月の団費は会費2,000円と育成会費500円の合計2,500円だそう。
なんと! さすがスポ少、安い!

上の娘が卓球のクラブチームに所属しており、週2回の練習で毎月10,000円超えの月謝に加え、土日の強化練習代、試合参加費、ラケットのラバー代など、かなり高額な費用を毎月支払っていたので、それと比べて段違いに安い!
娘のひと月分で4カ月通える計算。
これで息子の体力アップに繋がるなら、ちょっとくらい保護者の役割やってもいいんじゃないかとつい乗り気になってしまった。

ということで、何度か体験を続ける間には紆余曲折あったが、小4の春に無事(?)入団となったのだった。

トラリピインタビュー

見えるお金と見えないお金

2022年4月。
息子はスポ少の団員、私は団員保護者としての生活が始まった。
週3日、隣の学区の小学校に送迎しできる限り練習に立ち会う。
7月になる頃には試合に時々出されるようにもなった。
そうなると県外遠征にも参加することになる。

計算外だったのは、新型コロナの流行により2年ほど試合数が激減していたのが、息子が入団した年からはだんだん通常にもどってきて、平均すると月に1、2回は遠征に出るようになったこと。
遠征に行く際のその費用は当然、参加する団員持ち。
高速道路の料金やガソリン代などの交通費、大会の参加費、弁当代などが請求される。
一回3,000円から5,000円程度で、これが月に2回となるといくら団費がひと月2,500円でもあっという間に10,000円近くなる。

あれ? クラブチームと変わらなくない?

ドッジボールのイメージ息子が小3のときスポ少ドッジボールチームの体験に行き、小4で正式に入団となったものの……(写真はイメージ)

娘の卓球のクラブチームなら試合の時の送迎は必要なものの自分の子だけ応援していても問題ないし、スタッフとしての役割もほとんどない。
逆にスポ少では帯同した場合は、事前準備もして当日は1日中スタッフとして団員全員の面倒を見なければならない。

あれれ? スタッフとして働いた時間は時給換算したらいくらになる?

と、気づいたときは後の祭り。
息子はドッジボールに真剣に取り組んでいるし、それを理由にやめることはちょっと難しい段階に……。
まるで息子を人質に取られたような気持ちになる。
しかも、学年が上がるにつれてだんだん役割が増えていく。
当然ボランティア。
とはいえ、指導者も弁当代や交通費は不要でも、何の謝礼もないボランティアだと聞けば、何も言えなくなった。

最高学年になるとさらにその保護者の役割は重要度を増す。
前段で、ひと月2,500円のうち500円は「育成会費」だと書いたが、スポ少は「指導者」と「団員(子ども)」、そしてその保護者で組織される「育成会」の3者で成り立っている。
息子が所属するクラブでは、その「育成会」の事務局や会計などの重要ポストを6年生の保護者が担うことになっている。
この仕事量が半端ない。

事務局の代表になると、指導者だけでなく他チームとのやりとりもしなければならない。
全国大会出場経験のあるチームだけに、県外からの大会参加オファーも多く、その日程調整、配車調整、準備まですべて6年生の保護者が行う。
その相談は夜となく昼となく対面またはメールで行い決めていく。
責任重大だ。
しかも人間が集まると当然、物事はすんなりとは進まない。
時間の無い中、考え方の違いを擦り合わせながら相談し決定することは想像以上に難しく精神的な苦痛を伴う。
つまり、とにかく、本当に、とてつもなく、面倒くさいのだ。

仕事に苦労している女性のイメージ事務局になると、他チームとの日程調整などたくさんの仕事がある

私は会計を担当し、お金に関することは全て扱っている。
年度初めの予算設定や半期ごとの会計報告があり規模が小さいとはいえ、会社の会計報告と何ら変わらない。
それを通常の仕事、家事、息子のスポ少だけでなく娘のクラブチームや塾への送迎などと並行してやらなければならない。
自分の時間は全くといっていいいほどない。

結論! スポ少は……

ということで今回このエッセイを書くにあたり、今まで(わざと?)目を逸らしてきた見えないお金について考えてみたが、結論はこれしかない。

スポ少は、間違いなく!全然!本当に!絶対!安くない!!

だから、もし今、目の前に我が子をスポ少に入れようか悩んでいる人がいたら言いたいことは1つだ。
月謝が安いからと目に見える金額に釣られて安易にスポ少入団を決めてはいけない
もし入団するなら「子どもの為に」という言葉のもと、自分の労働力(見えないお金)を搾取されるかもしれないということを覚悟しておくべきだ。

財布を持って悩む女性のイメージ月謝の安さに釣られて、安易にスポ少への入団を決めてはいけない!

もちろん、お金には換えられない経験ができることは確かだ。
パワハラじゃないかと思うほど子どもに怒号を浴びせる指導者に怒りを感じたこともあるが、それほど真剣に叱られる経験はなかなかできない。

入団前ふにゃふにゃだった息子はその怒号に泣きながらも立ち向かって練習を続け、今では毎回全員で行う「10分間走」でトップをとるほどの体力を身につけたし、体格のいい対戦相手からのスピードボールもがっちりキャッチできるようになった。
これは当初は予想していなかったことだ。
だから、あくまで「うちの場合は」全てをひっくるめて「とりあえず」納得している。

すべてのスポ少がこのような団体だとは限らない。
が、こういうスポ少もあるのだ。
だから見えるお金に惑わされず見極めてほしい。

そして最後に言いたいことは……

早く卒団したい!!!
3月よ、早く来い!!!!

次回は菅野聖さんへ、バトンタッチ!

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。