「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回のテーマも前回に引き続きREIT(不動産投資信託)。今回は、多くのREITの分配金と同様に半年ごとに利子がもらえる「個人向け国債」との併せ持ちについて考えます。

  • 2008年のリーマン・ショックではREITが大きく下落。分散投資を検討したい
  • REITと個人向け国債で、6月・8月・12月・2月に分配金と利子を受け取る
  • REITは元本割れのリスクがあるため、個人向け国債でリスクを抑える

物価の上昇が止まりません。新米はとうとう5kg当たり5,000円を超えた旨が報道されています。
物価上昇という課題に応える方法の一つに、投資という選択肢があると思います。そして、その選択肢を支える制度にNISAがあります。
とはいえ、NISAの対象になっているのは、いわゆるリスク資産。リスク資産だからこそ、預金利率はもちろん、物価の上昇率を超えるパフォーマンスを得ることが期待できます……が、できるのは期待であって、約束や保証ではありません。

期待は得てして、裏切られてしまうこともゼロではありません。例えば、元本割れのリスクです。
では、元本割れのリスクに備えることはできるのでしょうか?

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待てば海路の日和あり

投資は「長期」が基本と言われています。しかし、この「長期」というのが、果たしてどのくらいの時間を指すのか、明確に答えることができる人はいないと思います。
が、長期にわたって投資ができるのは「若い人」という点には揺るぎはないでしょう。しかし、今度は「若い人」の定義が曖昧ですね。

いずれにせよ「長期」や「若い人」の定義について、明確な答えがあるわけではありません。ですので「長期」という言葉は自身で判断するしかないようです。ついでに「若い人」も。詰まるところ「投資は自己責任」ですから。

「待てば海路の日和あり」という格言は、まさに日本株が体現しました。日経平均株価が最高値を更新したのは35年振りでしたから。

NISAにこだわらない分散投資でリスクを抑える?

さて「長期といえるほどの時間はない」とお考えの方もいらっしゃるでしょう。そうした方の中には「100年に一度」といわれた、2008年のいわゆるリーマン・ショックが「歴史ではなく、現実だった」という方も多いと思います。

本稿では、最近、REITのお話を続けています。前号では「REITで家賃収入も夢ではない」とも書きました。しかし、リーマン・ショックで最も打撃を受けたのはREITでした
また、REITは「金利の上昇に弱い」とも言われています。そうしたREITに投資をするなら、NISAにこだわらない分散投資を検討してみてはいかがでしょうか?

REITの選び方……REIT物件は内覧を♪

分散投資の考え方の例

2025年度 東京都固定資産税納期限
第1期
6/30
第2期
9/30
第3期
1/5
第4期
3/2
個人向け国債
固定5年 第166回債
(2025/2/17発行)
100万円
利払い日 8/15 2/16
利子の額
(課税後÷2)
3,067 3,067
個人向け国債
固定5年 第164回債
(2024/12/16発行)
100万円
利払い日 6/16 12/15
利子の額
(課税後÷2)
2,390 2,390
REIT
(6月・12月決算)
100万円
分配金の時期 6月 12月
分配金額の目安
(NISA利用)
23,300 23,300
REIT
(8月・2月決算)
100万円
分配金の時期 8月 2月
分配金額の目安
(NISA利用)
23,300 23,300

※REITの分配金は2025年8月15日時点の平均分配金利回りをもとに算出

上の表は東京都の固定資産税の納期限に合わせて、個人向け国債(NISAの対象外)と、REIT(NISAで投資可)に投資した例です。
個人向け国債の利息は半年ごとに、またREITは半年決算で、決算後に、それぞれ利息と分配金を受け取ることができます。
ですので個人向け国債を1本当たり100万円で2本購入し、REITを1本当たり100万円で2本投資しています。

表では個人向け国債については「固定5年」とし、「利払い日(=利息の受取日)」が東京都の固定資産税の納期限に最も近しいものを選びました。つまり個人向け国債は「個別具体的」なものを選んでいます(個人向け国債は過去に発行されたものを買うことはできません)。

同じく表では、REITは個別銘柄(=具体的な投資先)を特定せず、本稿執筆時点での「REIT平均分配利回り」を基に分配金額を計算し、6月・8月・12月・2月のそれぞれに分配金を受け取った、という想定です。

この表で見る限りでは、個人向け国債を買わずに、REITだけに投資していれば、あるいはREITの分配金だけで、固定資産税と都市計画税の両方の支払いができるかもしれません。

分散投資の効果

しかし、ここで忘れてはならないのは、先述のリーマン・ショックです。繰り返しになりますが、NISAの対象になっている投資先の中で、リーマン・ショックの打撃が大きかったのはREITです。
ですので、そうしたリスクを抑えることを目的に、個人向け国債と合わせて投資をする考え方を提示しました。

「リーマン・ショック並みの金融危機が来て、REITの投資口価格(≒株価)が大きく下落したとしても、分配金さえちゃんと受け取れれば、それで十分」という方もいらっしゃるかもしれません。しかし、リーマン・ショック並みの金融危機が再来すれば、当然、企業にも影響があります。REIT物件に入居しているテナント(=オフィスやお店など)が撤退してしまうことも考えられます。

テナントが撤退してしまえば、当然、家賃収入が途絶えてしまいます。家賃収入がなくなれば、REITの分配金も減るか、最悪の場合、ゼロになってしまうかもしれません。

その点、個人向け国債なら、まず価格変動リスクがありませんから、元本割れのリスクはありません。
何と申し上げても発行元は日本政府です。ですので、リーマン・ショック並みの金融危機が再来しても、REITのようなリスクはありません。

もしリーマン・ショック並みの金融危機が再来すれば、個人向け国債を換金し、値下がりしたREITに投資をしても良いかもしれません。リスクを伴わない資産を持つのは、ある意味、金融危機は危機ではなく、ビッグチャンスとも言えます。冒頭に述べたのとは逆の意味で「待てば海路の日和あり」と言えるかもしれません。

上の表では、合計400万円の投資額で、半分を個人向け国債に、残りの半分をREITに、それぞれ購入もしくは投資しています。元本割れのリスクの可能性があるのはREITだけです。つまり元本割れのリスクをゼロにはできませんが、半分に留めることができています。
もちろん、個人向け国債の購入額を増やし、REITへの投資額を減らせば、元本割れのリスクをより抑えることができます。ただしその場合は、受け取ることができる利息と分配金の合計額も変わってきますね。

逆に個人向け国債だけを購入するのはお勧めできません。リスクを伴わない資産だけを持つのは、それこそ物価の上昇に対応できず、ただただ資産を目減りさせていくだけですから。

まとめに代えて

さて、表でお示しした個人向け国債は「固定5年」です。「変動10年でも良いのでは?」とお思いになった読者もいらっしゃるでしょう。確かに、将来の金利上昇の可能性を踏まえると「変動10年」の個人向け国債でも良いかもしれません。先述のとおりREITは「金利上昇に弱い」とも言われていますから。

しかし、リーマン・ショック後に欧州や日本では「マイナス金利」に踏み切った過去があります。個人向け国債は利率0.05%が最低保証されています……つまり、変動10年の個人向け国債は、保有期間中にリーマン・ショック並みの金融危機が再来すれば、そこまで利率が下がる可能性もあります。
固定金利なら、そうした懸念はありませんが、5年経ったときが課題ですね。

個人向け国債は「5年固定」と「変動10年」の両方を買うことを検討しても良いかもしれません。
なお、本稿ではあえて触れませんでしたが、「新型窓口販売方式国債」という選択肢もあります。いずれ述べることにします。