寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役
米国の大統領選挙まであと1年を切りました。3年前の2016年「もしドラ…(もしドナルドトランプ氏が大統領になったら…)」が現実になった時の衝撃とその後数カ月の狂騒は、今となっては随分昔のことのようにも思えます。
米国国内での評価は米国国民にお任せするとして、グローバルな金融市場におけるトランプ大統領の評価は、当初想定されたよりも悪くはありません。金融市場的には反資本市場的色彩の強い民主党のウォーレン上院議員候補やサンダーズ上院議員候補が大統領になるくらいなら、多少扱いは難しいもののトランプ大統領が継続してくれた方が有り難い、というのが参加者の総意になりつつあります。
次期大統領候補が市場に与える影響力
さて、今後各候補者の政策が明らかになり、各政党の中での候補者が確定し、共和党と民主党の候補者による大統領選挙がスタートします。金融市場としては各候補の主張する政策が、企業収益や金融市場全般に与える影響をその都度吟味し織り込んでいく1年となります。それは株式市場全体の上下だけではなく、政策の変更による投資テーマの取捨選択における判断にも大きく作用していくと考えられます。
例えば2016年の11月8日にトランプ候補の当選が決まったあと、株式市場はトランプ候補が主張していた政策に適合するテーマを買い、適合しないテーマの売却に走りました。具体的には、金融機関への規制強化が緩和される期待からウォールストリート銘柄が買われ、強い米国というフレーズへの連想から軍需関連銘柄を含む工業関連セクターが上昇しました。また「メキシコの壁」で建設銘柄や素材が買われたこともトランプ大統領ならではのテーマです。
■S&P500 対 業種インデックス超過収益の推移(2016年11月1日~12月31日)
※基準日は2016年10月31日
出所:Refinitivのデータより筆者作成
一方、オバマケアの撤廃を公約としていたことで、さらに薬価の引き下げ圧力が高まるとの懸念からヘルスケアが急落。当初Googleなどのテクノロジー企業に否定的なコメントが多かったことを受け、テクノロジーも下落しました。全体的には規制緩和による株価上昇への期待が高まったことで、公共セクターなどのディフェンシブセクター(安定収益セクター)は投資家から敬遠されました。
その後トランプ政権の政策が具体的になるにつれ、こうした業種のかい離には一部逆回しも発生しています。投資テーマの変遷に上手に立ち回れた投資家には大きな収益が上げられた局面でしたが、市場が急騰した割には損失となった投資家も多く発生した半年だったようです。
■S&P500 対 業種インデックス超過収益の推移(2017年1月1日~3月31日)
※基準日は2016年12月30日
出所:Refinitivのデータより筆者作成
潜在リスク大の落ち着かない一年
恐らくこれからの選挙戦では、これまでの米国大統領選挙では類を見ないほど異質な政策を掲げる候補者達による論争が展開されると思われます。各党の候補者が決まる過程から実際の大統領選挙中を通し、どの候補者が優位であるかという世論調査の結果次第で、米国だけでなく、グローバルな金融市場において市場全体も個別テーマも大きく振幅することになるでしょう。テーマのサーフィンに乗る自信がある投資家がいるとするなら、それは2016年以上にエキサイトな一年となるかもしれませんが、一般の投資家にとっては潜在リスクばかりが大きい落ち着かない一年となりそうです。
2016年の大統領選挙を振り返るまでもなく、選挙の結果というものは本当に蓋を開けてみるまではわかりません。これから選挙が近づくにつれ、市場に様々な思惑が交錯することになりますが、そのどれが正解であるかは選挙次第なのです。米国の大統領選挙という4年に一度のお祭り騒ぎで無駄な火傷をしないように十分に気を付けていきたいと思います。