寺本名保美
寺本名保美
トータルアセットデザイン
代表取締役

2019年10月23日、米国のグーグルが量子超越を実現したという論文を公開し、量子コンピューター開発について各所で話題になっています。従来のコンピューター演算で1万年掛かっていた計算を、量子コンピューターを用いて3分20秒で終わらせる実証実験に成功したそうです。この実証実験については、従来のコンピューター技術を担うIBMを中心に反論意見もあり、実用化へのハードルはまだまだ高いとも言われていますが、ここ数年各国が国家を上げて開発に力をいれてきたこの分野においてグーグルを擁する米国が一歩先じたのは確かなのでしょう。

「量子超越」が既存インフラを揺るがす

今回の量子コンピューター開発が衝撃的だったのは、それが従前の技術を補完するのではなく、現在進行中の技術革新を根底から崩壊させる可能性を秘めている点にあります。これまでのIT技術の進歩というものは、演算速度の高速化、データ処理の大量化、演算装置の小型化といった処理能力や使い勝手の向上を目指してきました。直近のブロックチェーンという概念についても、基本的にはコンピューターの処理能力に依存したシステムです。例えば5Gと呼ばれる次世代通信規格にしても、既存の通信規格に対し速さと量が変わるものであって、5Gになったからといってそれ以前に構築した社会インフラがいきなり使用できなくなるということではありません。

ところが量子コンピューターが現実化するとするならば、今世界で構築しつつある既存のコンピューターシステムを利用したインフラが根底から使えなくなってしまうリスクがあるというのです。量子技術というものは既存のコンピューターと全く異なる処理工程を持つことで、ブロックチェーンを始めとするあらゆる現行の暗号システムを解読する可能性をもっているからと言われています。分かりやすいところで言えば、各国の暗号システムが簡単に解読されたり、今話題のデジタル通貨(暗号通貨)の元になっているブロックチェーンのシステムに侵入され、記録が改ざんされるようなことも起こりうるということです。

各国政府が量子技術開発に注力

問題を深刻化しているのは、世界がデジタル社会化している中において、情報の機密性の保持にこのブロックチェーンによる暗号技術が社会インフラの中心に据える改革が進んでいることにあります。デジタル行政が進んでいる国においては国民情報の全ては既存システム上に存在しており、デジタル通貨の世界の拡大も急速に進行しています。万が一量子技術が悪用され、こうした既存データへの侵入をすることが可能となるのであれば、デジタル経済という概念が根底から覆ることになります。

■主要国の量子技術政策
主要各国の量子技術政策出所:首相官邸イノベーション政策強化推進のための有識者会議「量子技術イノベーション」、資料3「量子技術分野の研究動向について」より

上図にあるように、各国はすでに量子技術開発に多額の政府予算をつけています。日本については各企業ベースでの開発は行われているものの、国家レベルでは2019年3月にワーキンググループが発足したばかりというレベルです。一方、すでに量子技術開発で先行していると言われている中国の習近平国家主席が、米国のグーグルの発表直後に、「中国はブロックチェーンで世界の先頭を走る」という意味深な発言をするなど、水面下での鍔迫り合いも激しくなっていそうです

技術革新が国家間の主要戦略となる時代。テクノロジー覇権に日本がどうついていくことができるのか。難しい時代が到来しています。

第17回 好景気下の企業破綻から見える潜在リスク