テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第121回は、評論家のこうたきてつやさん。
世界への「洞察」欠如とテレビへの「信頼」喪失
私はいま80歳ですが、困ったもので、歳をとればとるほど怒りっぽくなっています。テレビを見ていても、あ~だ、こ~だ!と毒づいてばかりいて、家内などは「だったらテレビ局に直接言えばいいじゃない!」と呆れかえっています。
ということで、図々しいのも年寄りの特権(?)と、ここで今のテレビへの鬱憤を晴らさせて頂こう!と不埒なことを思い立ちました。しばしのお許しいただければ幸いです。
まず最近で言えば、WBC以来の大谷翔平選手、一色の情報番組です。WBC直後ならまだしも未だに、世の中にはそれしかないかのように「オータニさん!」に多くの時間を割き、それを毎日毎日繰り返しています。
ちなみに私はプロ野球や大谷選手が嫌いなわけではありません。大昔に阪神タイガースの別当薫選手に憧れて以来、ずっとプロ野球のファンを続けています。
気に入らないのは、世の中には考えなければいけないことが一杯あるのに、しばしの快楽を求めて思考停止に陥ったかのように、そればっかりに時間を使っていることです。同じ時間帯のBSワールドニュースで、ウクライナ、食料危機、難民、洪水、干ばつ、金融不安など、身近な生活に関わるニュースを見ているとつくづくそう思わされます。
テレビにはもう少し、世界の今と未来への洞察力を働かせてもらいたいものです。
ひきかえ、故・ジャニー喜多川氏の性加害問題への及び腰はどうしたことでしょう。見て見ぬ振りをしてジャニーズ事務所ありきの番組をつくってきたテレビ局も謝罪してしかるべきなのに、そんな自覚はどこにも感じられません。
7年ほど前ですが、「太陽にほえろ!」などをプロデュースした岡田晋吉さんは、ジャニーズ事務所の傘下に入ったことがテレビを悪くした!とまでおっしゃっていました。
1、2、3、のステップですっきりと分かる情報を、1時間ぐらい平気で引っ張る情報バラエティにもうんざりします。「オレたちひょうきん族」などをプロデュースした故・横澤彪さんは、CMまたぎの情報の重複さえも「視聴者に失礼!」と糾弾していました。
うんざりすることはまだまだありますが、言いたいことは、こんなことを続けていたらテレビへの「信頼」はどんどんなくなっていく!ということです。
「便利」を捨てて、「不便」へとゆっくり歩いていこう!
あれこれ、ぶつぶつと毒づいてきましたが、いまのテレビにちょっとした嬉しさを感じることもあります。この春からの連続テレビ小説「らんまん」がそれです。ドラマの出来をどうこう言う以前に、植物学者・牧野富太郎をモデルとした企画に、「今への自省」と「未来への指針」が感じられて嬉しいのです。
言うまでもなく、植物学は動物学と共に生物学のルーツともいえる学問で、生命体の根源と多様性の解明などを目的としています。気候危機など地球が壊れそうな今、これはまさに地球の生態系の存亡に関わる学問となっています。
しかし、英語、国語、数学を必須科目、社会、理科は選択科目としてきた大学入試がいい例で、「生物」は中等教育においては低く見積もられてきました。受験校で過ごしたからよくわかるのですが、3年になると受験対策一辺倒で、「日本史」は幕末で終了、「生物」などは好きならどうぞという科目でした。
思うのですが、初等教育、中等教育において生物学を最初から必須科目としていれば、生態系の多様性と恩恵をしっかりと学んでいれば、これほど地球は壊れなかったのではないでしょうか。
「らんまん」で万太郎(神木隆之介)が、金儲けにも世渡りにも役に立ちそうもないこと、草花に熱中することに明け暮れていることを見ていると思いはさらに広がります。
有用、効率、便利といった価値を放り投げた暮らしのなんと豊かなことか!
そういえば、私たちはいまから12年前、福島第一原発事故の衝撃のなかでそんな思いを抱き始めていました。しかし、そのときの慎ましく暮らそうという思いはいつしか消え、「便利」という価値が大手を振ってまかり通っています。
その「便利」ですが、AIに前のめりな日本と懐疑的なヨーロッパを見ていると、震えそうなほどの怖さを感じます。多発するマイナンバーカードによる個人情報の漏洩事故。そこにAI行政が加わったら、今度は人間が根底から壊れてしまうのではないでしょうか。
次回は高橋紫野香さんへ、バトンタッチ!
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。