最近は男性が育児休暇を取得する例が増えるなど、育児中の女性を取り巻く環境も変わりつつありますが、今もなお女性が育児と仕事を両立するのは難しい現状があります。そんな状況に一石を投じているのが、自身もシングルマザーとして子育てに奮闘した経験がある、株式会社Realize・代表取締役の池田礼子さんです。

今も「男女均等」ではない、子育てをする女性の仕事

池田礼子さん
Realize
代表取締役
池田 礼子さん

池田礼子さんが代表取締役を務めるRealizeの主なビジネスは、マンションやアパートの「入居前点検」。空き部屋に入居者が決まったときに、管理会社やオーナーから依頼を受けて、部屋の設備の点検や清掃、鍵の交換といった業務を行っています。本社は神奈川県にありますが、北海道から沖縄まで幅広いネットワークを持ちます。

Realizeのビジネスがユニークなのは、入居前点検の仕事をしている従業員の多くが「地域のお母さん」であること。そこには、同社の代表取締役である池田礼子さんの経験が生かされています。

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「男女雇用機会均等法ができてかなり経ちますが、今も決して雇用は均等ではないと思います。どうしても女性が仕事をしながら育児をして、家のこともやる場合が多い。たとえば授業参観に男性が来られることは今も少ないですよね?」(池田さん)

池田さん自身もシングルマザーとして、3人のお子さんを育てた経験があり、育児をしながら働くことのたいへんさを実感しています。

「私の場合は同居している両親のサポートもありましたが、そういう恵まれた環境の人は多くないですよね。昔みたいに近所の人に子どもを預けられる時代でもないし、誰かの協力がないと、子育てしながら仕事をするのは難しいと思います」(池田さん)

鍵交換の技能とともに、ライフスタイルに合わせて働く

池田さんは「ハートリビングサポート株式会社」の常務取締役として、全国の賃貸住宅の管理会社をサポートする業務に従事していました。そんな中、福岡の営業所で地元の主婦たちが入居前点検の仕事で活躍しているのを見て、池田さんは思い立ちました。「この仕組みを全国展開させれば、世のお母さんたちが、出産を機に仕事を一度辞めてしまっても、社会復帰しやすい場を作れるのでないか」。池田さんは2022年2月に同社のグループ会社として、Realizeを立ち上げました。

株式会社Realize
株式会社Realizeのホームページ

「鍵交換という仕事は、手に職を持てるので、自分のライフスタイルに合わせて働きやすいと思います」と池田さん。入居前点検の仕事は、短ければ1時間半ほどで終わるため、朝から夕方まで拘束されることはありません。日程の調整が効きやすいというメリットもあります。

一方、鍵交換は専門的な技能が必要で、昔ながらの鍵から最新のカードキーまで、ひとつの管理会社で何十種類もの鍵を管理しているので、研修にもそれなりの時間がかかります。決して簡単ではない仕事です。

だからこそ鍵交換の技能を習得できれば、たとえ家庭の事情で引っ越すことになっても、引っ越し先でも同じようにRealizeの入居前点検の仕事を続けることができると池田さんは説明します。

鍵交換の説明をする池田さん
鍵交換といっても、マンションやアパートの鍵にはたくさんの種類があり、覚えるのはたいへん。だからこそ、鍵交換のやり方を覚えられれば「手に職」をつけることになる

入居前点検や鍵交換を女性が行うメリット

入居前点検の仕事を「地域のお母さん」が行うことは、たくさんのメリットがあるそうです。「一般的な仕事のマッチングでは、当日連絡もなく欠勤する人も多く、業者さんに迷惑をかけてしまいます。Realizeではすでに働いている人が知り合いのお母さんを紹介してくれることが多いので、働き手としての信頼性は高いですし、仕事に穴を空けることもありません。私たちも安心して任せられます」と池田さんは言います。

合い鍵をめぐるトラブルは、賃貸住宅の管理会社にとって悩みの種です。「女性が入居前点検に行くことで、入居者の不信感や不安がやわらぐ効果もあります。特に女性の入居者にとっては、女性が鍵交換をしてくれると安心できる面はあると思います。力仕事が必要な仕事でも、男性ばかりが3人より、女性がひとりいるだけでも安心感は違います」(池田さん)

今後は鍵交換の研修の機会を増やして、今の事業を広げていきたいとのこと。鍵交換の方法はYouTubeの動画でも確認できるようになっていて、困ったときは動画を見ながら作業ができるということです。「たとえば、マンションの入り口のオートロックと連動する鍵の交換はかなりたいへんですが、そんな高度な業務も私たちの研修と動画でマスターできます」(池田さん)

「将来は子ども食堂を作りたい」

シングルマザーとして子育てに奮闘してきた池田さんに、今の日本におけるお母さんたちの労働環境や、国の制度や取り組みについて聞いてみました。

「シングルマザーの多くが貧しい立場に追いやられている現実があるのに、社会の仕組みが追いついてなさすぎるという印象があります」(池田さん)

池田礼子さん
日本のシングルマザーは、今も厳しい環境にあると指摘する池田さん

日本のひとり親世帯の貧困率は約50%。経済的に苦しいシングルマザーの割合は、ほかの先進国と比べても高くなっています。

「国がいくら働く女性を増やしたいといっても、大企業ならともかく、中小の会社にとっては、出産や育児のために抜けた人の仕事をどう補うかという問題もあります。女性活躍の推進と口で言うのは簡単ですが、実際に女性がどんなふうに働けばいいのか、雇う会社はどうすればいいかまで、国には考えてほしいと思うことがあります」(池田さん)

だからこそ、政治の場における女性の活躍も欠かせないと池田さんは言います。「女性としていろいろな経験を積んできた人が、シングルマザーにとっても働きやすい環境にするためにどうすればいいか、経験に基づいて具体的に提案できるようになれば、世の中も変わっていくと思います」

育児中の女性が多様な働き方ができる環境を作るには、行政だけでなく民間企業の役割も重要です。マンションの入居前点検や鍵交換という、女性が短時間で働きやすいときに働ける場を作ることが、Realizeにとっての社会貢献だと池田さんは言います。

そんな池田さんには、ひとつの夢があります。

将来は絶対に『リアライズ食堂』をやりたいと考えています。小さい子どもたちがご飯を食べられる場所がそれぞれの地域にあれば、経済的に困っているシングルマザーのお母さんが安心して働けるようになるので、そのサポートができればと思っています」

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