現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第64回は、うま味調味料の元祖にして、いまや食品にとどまらず、電子材料や医薬といったハイテク分野も注目が高まっている味の素(2802)をご紹介します。
- 味の素は世界24の国と地域で工場を展開。売上高のうち2割は非食品分野
- 半導体の絶縁材フィルムの世界シェアは95%以上。医薬分野にも注力
- 調味料や冷凍食品の収益性は改善、非食品部門の減益幅は縮小傾向
味の素(2802)はどんな会社?
味の素(2802)は、「うま味調味料」などで有名なアミノ酸を軸とした総合食品メーカーです。
1899年、東京帝国大学(のちの東京大学)の池田菊苗教授は、ドイツに留学。ドイツ人の体格と栄養状態のよさに驚き、「日本人の栄養状態を改善したい」と願うようになりました。帰国後の1908年、試行錯誤で研究を重ねるるうちに、昆布だしからアミノ酸の一種であるグルタミン酸を結晶化させることに成功。
池田博士は特許を取得し、事業化させるため、味の素の創業者である鈴木三郎助に相談します。1909年、個人商店の鈴木商店で世界初のうま味調味料の「味の素」を販売開始し、事業の祖となりました。
その後、事業の多角化と国際展開、事業の拡張と再編を繰り返しながら、現在では世界24の国と地域で工場を展開する世界企業へと成長してゆきます。調味料、食品だけでなくアミノ酸の技術を活かし、電子材料やヘルスケアなどの分野も伸びています。
現在、グループの売上高のうち約6割が調味料・食品、約2割が冷凍食品、のこり2割がヘルスケアなど非食品分野から成り立っています。
半導体向け電子材料やヘルスケアなど非食品分野が成長
味の素はアミノ酸の技術を活かし、電子材料など非食品分野の研究開発に注力しています。
創業以来、100年以上アミノ酸を研究し続けた分析や酵素改変、品質保証などのプラットフォーム技術の蓄積を、独自の「アミノサイエンス」と名付け、強みとしています。
例えば電子材料分野では、半導体の絶縁材フィルムの「味の素ビルドアップフィルム(ABF)」の需要が伸びており、世界シェアは95%以上と突出しています。CPUやGPUなどの高性能半導体は、性能向上のため微細化や積層化が進んでいます。ABFは半導体内部の銅線などを絶縁するために用いられており、過去20年以上絶縁材フィルムのデファクトスタンダードとして、大手半導体メーカーなどに販売しています。
このほか、医薬用の分野ではアミノ酸の特性を活かした事業の展開を進めています。前期には米国の遺伝子治療薬の製造受託(CDMO)を手がけるForge社を買収し、新たな成長ドライバーと見定めました。
味の素(2802)の業績や株価は?
味の素の前期2024年3月期は、売上高が前期比8%増の1兆3591億円、純利益が6%増の1000億円で、いずれも過去最高になったと予想されます。
2月に発表した2023年4~12月期(第3四半期)は売上高が4%増の1兆676億円、純利益が2%増の776億円と好調でした。調味料・食品や海外の冷凍食品の販売が伸びました。また為替の円安や構造改革の効果もありました。
4月5日の終値は5547円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約56万円、予想配当利回りは約1.33%です。
ヘルスケアなど非食品部門は減益傾向が続いていますが、減益幅は着実に縮小しています。電子材料のABFは、PC向けなどの復調や生成AI向けの好調で、24年1~3月期には底打ちから反転に向かうと予想されます。
同社の藤江太郎社長は、2022年の就任以来、国内・海外で調味料や冷凍食品などの値上げを進めており、収益性が改善しています。海外でも利益率の高い健康志向の調味料の販売も伸びており、ブランドを活かした販売戦略を進めています。
直近の予想PERは約28倍と、同業他社に比べてやや高めではありますが、食品事業の安定性や非食品分野の成長期待を加味すると評価の余地はありそうです。
株価は1月に付けた上場来高値の6279円から調整含みの展開です。ただ、中長期での上昇トレンドは崩れておらず、内需・ディフェンシブの成長期待銘柄として注目しています。