「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も、前回までに引き続いてNISAとiDeCoの比較。iDeCoを運用しているときの節税効果について確認します。

  • iDeCoは預金や保険といった元本確保型商品も非課税の対象になる
  • 掛金の額が大きく、税率が高い方がiDeCoの節税効果は大きくなる
  • 掛金が非課税となっても、「出口」の税金は別で考える必要がある

4月ということで、多くの企業では新しい年度の始まりですね。
ところで、日本とアメリカの株価が軟調ということもあって、2年目の新NISAの注目度はイマイチのようですね。一方で、日本もいわゆる「金利ある世界」に入りました。リスクを取って投資をするよりも、預金や国債などで利息収入を得ることに関心が高まっていますね。

ところで、NISAは投資、iDeCoは節税と貯蓄……このような使い分けはできるのでしょうか?
前稿の結びの「NISAにはなくて、iDeCoでは最も気に留めなくてはならないこと」に関連するお話です。

iDeCoとNISA……投資対象の幅が広いのは?

預金や保険が非課税の対象になるiDeCo

NISAの対象は株式や投資信託などのリスク資産に限定されています。一方、iDeCoの方は「元本確保型」商品として、預金や保険などの(株式や投資信託に比べて)安全とされる資産での運用も可能です。

またiDeCoは投資元本に当たる掛金は全額所得控除になりますが、NISAには、そのような制度はありません。

iDeCo節税シミュレーションの試み

ではiDeCoの所得控除には、どのような効果があるのか、その「1年当たり」で検証を試みたいと思います。
まず前提条件を以下のとおりとします。

大前提

50歳代の人が、iDeCoの掛金を10年間、拠出する(=掛金を払う)。
iDeCoの運用によるパフォーマンスはゼロと仮定。

掛金額(月額)のパターン

  • 5,000円(年60,000円)*1
  • 10,000円(年120,000円)
  • 20,000円(年240,000円)
  • 23,000円(年276,000円)*2

税率のパターン(所得税税率+住民税率)*3

  • 5%+10%=15%
  • 10%+10%=20%
  • 20%+10%=30%
  • 23%+10%=33%
  • 33%+10%=43%
  • 40%+10%=50%
  • 45%+10%=55%

iDeCo加入時手数料(加入時、1度だけ掛金から引かれる)

2,829円を加入期間10年で按分
2,829円÷10年≒283円

iDeCo月次手数料*4(掛金を拠出の間、掛金から引かれる)

171円×12か月=2,052円

*1 5,000円はiDeCo掛金の最低額。
*2 23,000円は厚生年金保険加入者の掛金の上限額。
*3 所得税率は厳密には超過累進税率ですが、ここでは累進せずに計算します。
*4 運営管理機関にも月次手数料を払うが、最近では運営管理機関への手数も増えているので、ここではゼロで試算。

NISAにはなく、iDeCoにあるものとして「制度の手数料」があります。
ここでは加入時手数料と月次手数料がありますが、他に受取時の手数料などがあります。「制度の手数料」は文字通りiDeCoという制度に払う手数料ですので、iDeCoの運用に充てられることはありません。ですので「制度手数料分は確実にマイナス」であることを覚悟した方が良さそうです。

トラリピインタビュー

【図表】iDeCoの掛金額・税率ごとの1年間の節税効果額(単位=円)
iDeCoの掛金額(月額)
5,000 10,000 20,000 23,000
税率(所得税税率+住民税率) 15% 6,665 15,665 33,665 39,065
20% 9,665 21,665 45,665 52,865
30% 15,665 33,665 69,665 80,465
33% 17,465 37,265 76,865 88,745
43% 23,465 49,265 100,865 116,345
50% 27,665 57,665 117,665 135,665
55% 30,665 63,665 129,665 149,465

表は前提条件を基にした「1年間の節税効果額」のシミュレーションです。iDeCoの掛金は小規模企業共済等掛金控除に該当し、所得控除の対象となります。所得控除ですので、実際の節税効果の額は税率によって異なります。ですので、掛金の額が大きく、税率が高い方が節税効果は大きなものになります。

冒頭に述べたように、iDeCoの元本確保型商品は(株式や投資信託に比べて)安全な資産とされるもので、利益に対して非課税という機会はありませんし、ましてiDeCoでは運用の元本である掛金が所得控除の対象になる、というのは得難い節税の機会と考えても良いでしょう。

まとめに代えて

さて、肝心の前提条件を基にした「1年間の節税効果額」のシミュレーションに対する評価ですが、そもそも「パフォーマンスがゼロ」という仮定には無理があるかもしれません。ここでは「安全な資産」での運用を前提としていますので、ご容赦ください。

10年に渡り、表のような節税効果を得ることができることに納得できるのでしたら、「iDeCoでは節税と貯蓄」を実践しても良いかもしれません……が、本稿では「出口」の税金シミュレーションを行っておりません。ですので、「出口」の税金シミュレーションをご覧になられてから、iDeCoの利用を判断なさることをお勧めします。