新聞やテレビは連日のように、日本政府と韓国政府の関係の悪化について報じています。米中貿易摩擦など各国の利害が衝突する中、先行き不透明感が増す世界経済の現状と今後の展望について、識者はどのように見ているのでしょうか。
- DWSグループ、米国の長短金利逆転を注視。
- 英国がEU離脱を回避する可能性は40%と予測。
- 世界経済のリスク要因は政治問題と指摘。
米国の長短金利逆転は景気後退の前兆なのか?
8月28日に、ドイチェ・アセット・マネジメントの金融業界向けセミナーに参加する機会がありました。同社は、世界各国に拠点を持つ資産運用会社DWSグループの一員で、日本では『DWSユーロ・ハイ・イールド債券ファンド』などの投資信託を通じて、多くの個人投資家に親しまれています。
セミナーに登壇したのは、DWSグループのアジア太平洋地域チーフ・インベストメント・オフィサー兼新興国株式運用部門グローバル責任者のショーン・テイラー氏。米中貿易摩擦の激化や株価の下落などで不透明感が増す世界経済の動向について、DWSグループとしての見解を語りました。
まず指摘したのが、米国債の「イールドカーブ」について。イールドとは債券の利回りのことで、通常は満期までの期間が短い債券ほど利回りが低く、長いほど高くなるため、縦軸に利回り、横軸に満期までの期間を取ると、右上がりの曲線を描きます。これが平時におけるイールドカーブです。
そのイールドカーブが、まれに逆転することがあります。この長短の利回りが逆転した状態を「長短金利逆転」や「逆イールド」と呼びます。一般に逆イールドは景気後退のサインと考えられています。2019年3月には、2019年3月には、3カ月物の米国債の利回りが10年物の利回りを上回ったことが報じられましたが、テイラー氏によれば「今後12カ月で景気後退の可能性は約30%」。過去の例では、逆イールドが起きても必ずしも景気が後退したわけではありません。米国では製造業の業績が減速しているものの、サービス業は堅調で、雇用状況が良く、消費も好調なことが景気を下支えするという見解です。
英国がEUを離脱しない可能性は40%との見解
欧州経済も米国と同じように、鉱工業は低調な一方、雇用と消費は強い傾向が見られるとのことです。ただし経済成長の勢いは鈍っており、ECB(欧州中央銀行)はマイナス金利の継続に加えて、金融緩和に積極的な姿勢を示しているということです。
英国はブレグジット(EUからの離脱)の影響で低成長が見込まれるという見解でした。7月に首相がメイ氏からジョンソン氏に代わり、ブレグジットの行方はあいかわらず不透明ですが、DWSグループの見通しでは「合意なき離脱」の可能性が20%、「ハード・ブレグジット」が25%、「ソフト・ブレグジット」が15%としており、ブレグジットそのものを撤回する可能性、つまり英国がEUにとどまる可能性を40%としています。ブレグジットがどうなるかによって、英国の経済成長やポンドの為替レートは大きく変動することが考えられます。
このほか、テイラー氏は日本経済については低成長でありながら景気はそれほど悪化していないこと、中国は米中貿易摩擦の影響を受けて成長が停滞することを示唆しました。
現代の問題に対応できない冷戦時代の政治体制
今後注視すべき世界経済のリスク要因は、政治問題であるとテイラー氏は指摘しました。米中貿易摩擦に加えて、東アジアでは日本政府と韓国政府が衝突しており、今後の動向によっては東アジアにおける安全保障のあり方も変わってくるかもしれません。世界経済に与える影響も決して小さくはないでしょう。
テイラー氏に続いて登壇したのは、国際政治学者の三浦瑠麗氏。東西冷戦時代に生まれた各国の政党や「右」と「左」のイデオロギーが、冷戦後のグローバル化が進む世界にそぐわなくなっており、冷戦時代の古い枠組みの政治が、地域間の経済格差の拡大や移民問題、環境問題といった現代の諸問題に対応できなくなったことが、世界のさまざまな場所で歪みとなって表れていることを指摘しました。
DWSグループのテイラー氏によれば、景気後退について年内はそれほど心配しなくても良いという見解ですが、今後の米中関係やブレグジットの動向、あるいは東アジアや中東の情勢によっては、世界経済が不安定な時期が長引くかもしれません。これからの投資を考える際には、当面は政治リスクを考慮しながら、選別的に投資対象を決定し、資産をグローバルに分散する必要がありそうです。