株式を保有すると、相場の動きに一喜一憂します。株価が上昇すると、まだまだ上がると思い、株式を買いたくなります。一方、株価が暴落すると不安にかられ、売りたくなります。なぜ、このような繰り返しなのでしょうか。株式市場とは、どのような特徴があるのでしょうか。今回は、株式投資にありがちな行動とその注意事項を説明します。

  • 気まぐれで感情的に行動する「ミスターマーケット」に振り回される。
  • 投資家心理の典型「みんな買っている」「目先の利益を優先」「値下がり塩漬け」
  • 株価の値動きより、企業業績の動向に注目して。安定成長企業を狙う。

ベンジャミン・グレアムの説く「ミスターマーケット」


福沢 隆雄
若葉マークの株式投資 代表

株式市場には「ミスターマーケット」の存在があるといい、その特性を説明したのがベンジャミン・グレアム氏です。グレアムは1900年代半ばに活躍し「ウォール街の最長老」と呼ばれ、ウォーレン・バフェット氏(第12回で紹介)の育て親です。

グレアムは、「賢明なる投資家」と題した名著を書きました。その中で、ミスターマーケットについて説明し、株式取引に警告をしています。

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グレアムは、「株式市場は、情緒不安定なミスターマーケットのようなものだ」と説明します。ミスターマーケットとは、特定の人物を表しているわけでも、証券会社の営業員を指しているわけでもありません。株式市場の変動を擬人化した寓話です。

ミスターマーケットは、頼んでもいないのに、毎日やってきます。何度断っても、次の日には違う株価で株の売買を持ちかけてきます。ミスターマーケットは、気まぐれで感情的な行動をとりがちです。株式市場が暴騰している時は、未来がバラ色で素晴らしいとして高い値段で株式を売りつけにきます。また、株式市場が急落した場合は、落胆して安い値段で株を売りつけにきます。こうして株式市場は、しばしば理性を失い強気相場や弱気相場となります。

気まぐれで感情的な行動をとりがちなミスターマーケット
気まぐれで感情的な行動をとりがちなミスターマーケット

ミスターマーケットは、面白くて常に皆の注目の的で、株価を毎日提示する世話好きです。しかし、売買のサポートはしてくれません。冷淡です。株式市場は気まぐれで、株価は毎日変動します。私たちは、時にはミスターマーケットの感情に引っ張られます。

株式投資の心理学――3つの典型例に学ぶ

グレアムの説くミスターマーケットに振り回される現象は、なぜ起きるのでしょうか。これは投資家の心理です。人の心理の習性がこのような行動を招きます。実際の株式投資に一般的によく見られる3つの典型例を説明し、その対処法を説明しましょう。

事例1 株価を追いかけて、株式を買い付ける

特定の株価がぐんぐん上がっていると、その流れの中で、皆が買っているから「自分も買ってみたい」という心理が働きます。期待が高まり、過剰反応し、高値で買ってしまう場合です。

これは、上昇している株式の株価を買うもので、その企業を買うのではありません。この行動は、市場が過熱した場合にありがちです。例えば、雑誌などのメディアから得た情報で買付けをする場合や、友人や証券営業員に「何かいい銘柄ありますか」と尋ね、「○○銘柄が良い」と聞き、その企業の内容をあまり調べずに購入するケースです。このような買付けは、そこが株価のピークで、その後下落に転じることがよくあります。

株価を追いかけて、株式を買い付ける

[対応]:企業の価値の評価ができていない買付けは避けるべきです。企業の評価をして株式を買いましょう。

事例2 買った株が上昇すると、すぐに売却する(売却益が少ない)

株価の上昇により満足感を得て、売却して利益を出すことにより安心感を得ようとしがちです。また利益の大きさよりも利益が出ているかどうかを気にします。これは、将来の不確実な利益よりも、確実な目先の利益を得ようとするものです。

買った株が上昇すると、すぐに売却する

[対応]:企業の本質価値を評価して、今後も成長が見込まれる株は保有しましょう。利益が出るとすぐ売るのは、企業の評価ができていないためです。

事例3 株価が下落を続け、売却できず塩漬けに

投資した企業の株式が何らかの事情によって値下がりし、株価が下落を続けている場合には注意が必要です。その内容を検討もせずに放っておくと、値下がりした株式を売却できないまま保有せざるを得ない事態になります。

株価が下落を続け、売却できず塩漬けに

これはよくある塩漬けのケースです。値下がりした株式を売却すると損が実現します。その損が実現すると自分の行動が否定されるような気になり、その株式を売却できなくなります。このため、その企業の評価を変えます。例えば、その企業が構造的な問題を抱えているにもかかわらず、現実の株価の下落は一時的な現象であり、いつかは上昇するだろうという解釈をして、考え方の矛盾を解決しようとするものです。

[対応]:保有銘柄に悪いニュースが流れた場合は、そのニュースを良く判断しましょう。その上で、そのニュースが一時的な内容であれば、そのまま保有しましょう。一方、投資企業が「構造的な問題の場合」を抱えている場合は、売却しましょう。例えば、その会社の強みがなくなってしまう場合には売却しましょう。

安定成長企業の長期投資のすすめ

ミスターマーケットはとても気まぐれです。また、株式市場は時には全体で同じ動きをします。このため何か大きなニュースをきっかけに市場全体の株価が下がることがあります。例えば、昨年、米中貿易戦争のニュースが伝わると、ほとんどの株価が下落しました。しかし、実際には企業業績に影響を受けない企業の株式までもが大きく下落しているのです。

下の図は、食料品に分類されるある企業の1株利益と株価の推移を示したものです。株式市場は、短期的には人気投票ですが、長期的には企業の価値を正しく図る計量器の役割を果たします。長期的に見ると、株式の価格とその価値は等しくなっていきます。安定成長企業には特にその特徴が見られます。

ある食料品企業の1株利益と株価の推移
ある食料品企業の1株利益と株価の推移

ミスターマーケットは、景気や市場の動向にはとても敏感で過剰に反応しがちです。一方、中国とアメリカで貿易戦争が起きても、イギリスがEUを離脱しても、私たちの日常生活は変わりません。

図のような企業は、業績が安定して成長しています。株価にばかり注目していると、投資の本質を見誤ります。株価の動きよりも、企業業績の動向に目を向けましょう。ミスターマーケットに翻弄されてはいけません。むしろ企業の評価を適切に行っていれば、こうした下落時は買付けのチャンスです。安定成長企業で堅実投資を行いましょう。

次回(11月6日予定)は、株式投資のリスクについて説明したいと思います。

第14回 アメリカの投資教育と株式投資の質問

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