福沢 隆雄
若葉マークの株式投資 代表

わが国の個人金融資産に占める有価証券(株式、投資信託等)の比率は15%、現金・預金は53%と預貯金中心です。一方、アメリカを見ると有価証券の比率は53%、現金・預金は13%と投資中心となっており、日米で逆転しています。

アメリカは、なぜ、このように投資が活発なのでしょうか。アメリカでも、かつては銀行預金の比率が高い時代がありましたが、その後の変遷を経て投資大国となりました。今回は、アメリカの個人資産形成の状況やその背景にある投資教育を見てみましょう。

あわせて、株式取引を行う上で参考となる「証券取引の質問:Ask Questions」を紹介します。

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  • アメリカでは個人で老後資金を形成。年齢に応じた教育プログラムが充実。
  • SECも投資教育専門のウェブサイト「Investor.gov」で情報発信。
  • SEC作成、賢い投資をするためのアドバイスをヒントにしよう。

アメリカでの個人の資産形成

アメリカでの退職後の生活は、①公的年金、②企業年金、③私的に準備した資金(私的年金、運用資金)の「3本足のいす」で支える考え方が一般的です。アメリカでは、わが国のような退職金制度がなく、公的年金の給付水準がそれほど高くないため、各個人にとって老後の資産形成が重要な位置づけとなっています。

アメリカの投資教育

アメリカでは、2003年に「金融リテラシー教育改善法」が制定され、同法に基づき20もの省庁により構成される「金融リテラシー教育委員会」の設置がなされました。

金融リテラシー教育委員会は2006年に国家戦略書の公表を行い、金融教育に関する課題や解決策、推進案などを提示しました。これを受け、多数の政府機関やNPO、民間など多くのチャネルにより、様々な段階に応じた投資教育の仕組みが構築されています。

個人の資産形成に対して、アメリカでは国をあげて金融教育・投資家教育を行っています。例えば、学生向けにK-12(日本でいえば、小学校入学から高校卒業までの期間)における個人金融教育(パーソナル・ファイナンス)のプログラムがあります。そこでは、実際の経済社会で生きるための実用的な教育(ライフプランニング、金融商品の選択、資産運用)が組み込まれており、その後の社会生活に好ましい影響を与えています。成人には、退職後を見据えた資金形成層向けやシニア層向けを含め、実用的な教育プログラムが充実しています。

K-12の金融教育で使用される教師用テキストK-12の金融教育で使用される教師用テキスト

SECの投資教育と「Investor.gov」

アメリカの証券監督機関、証券取引委員会(Securities and Exchange Commissions以下「SEC」という)は、投資教育に大きな役割を担っています。SECには、投資教育専門ウェブサイト「Investor.gov」があり、投資の初心者や高齢者を含む幅広い層の金融リテラシーを高めるため、投資教育・投資家保護の情報を集約して発信しています。

投資教育専門ウェブサイト「Investor.gov」投資教育専門ウェブサイト「Investor.gov」

SECは、資産形成の目標を定め、資産計画を立て、投資を始めることは、とても重要であると説きます。そのため、投資の理解(貯蓄と投資のロードマップ)、投資前の学び(投資商品の学び、リスクの許容度の理解)、適切な情報の取得と判断などの実用的な情報を掲載しています。SECは、このサイトを通じ公正な情報と利用可能なツールとを利用することを奨励しています。

SECの投資教育専門のウェブサイト「Investor.gov」で発信されている内容(例)
・資産形成の目標設定・資産計画の重要性と意思決定のあり方
・株式、債券、投資信託など様々な投資商品の特性、メリット・デメリット
・投資信託報告書の読み方(パフォーマンス情報・諸経費の見方を含む)
・投資専門家(証券会社 投資アドバイザー)への対応方法
Ask Questions(証券取引に関する質問)
・学生、教師、親用の教育プログラム
・様々な投資教育のウェブサイトの紹介

SECの作成したAsk Questions(証券取引の質問)

「Ask Questions(証券取引の質問)」には、証券投資にあたり、金融のプロ(証券営業員や投資アドバイザー)への基本的な質問が掲載されています。この質問は、わが国の株式取引にも大いに参考になりそうです。

Ask Questions(証券取引の質問)Ask Questions(証券取引の質問)

Ask Questions 本文内容

このAsk Questionsは、賢い投資をするためのベストアドバイスが書かれています。SECは、多くの場合、投資家が基本的な質問をすればトラブルや損失を免れると考えています。投資家が証券会社に払う取引手数料には投資相談が含まれています。また、投資アドバイザーに手数料を払うのは、良きアドバイスを受けるためです。わからないことは何でも聞きましょう。

投資の前に質問をしましょう
良い金融のプロは、初歩的な質問でも歓迎します。金融のプロは投資家が財産であると考えます。金融のプロは、お客様が取引後に混乱したり怒ったりするよりも投資の前に質問することを歓迎します。

紙とペンを用意して質問しましょう
金融のプロに投資の質問をする際は、このAsk Questionsを参考にしましょう。そして、ペンとメモ用紙を用意して質問とその回答を記録しましょう。メモの作成は、あなたがまじめで賢い投資家であるとのシグナルを金融のプロに送ります。メモの保存により、取引で問題や論争となった際に役立ちます。

金融のプロに対する経験や投資哲学の質問
・あなたは、投資に関するどんな研修や訓練を受けてきましたか。
・この業務の経験年数はどのくらいですか。
・あなたの投資哲学は何ですか。
・あなたの顧客層はどんな方(職業、資産の状況)ですか。

投資商品に対する質問
・この投資商品は、私の投資目的に合っていますか。どうして私に合っていると思いますか。
・この投資商品は、どのようにして投資収益を上げますか。配当ですか、キャピタルゲイン(値上がり益)ですか。具体的にどのようになれば(投資企業の売上増加など)価値があがりますか。
・この投資商品の買付と売付を行った場合、合計の手数料はいくらですか。手数料を払って利益を出すにはいくら値上がりする必要がありますか。
・この投資商品にはどんなリスク(例えば、経済の低迷、競争の激化など)がありますか。最大でどの程度の損失が考えられますか。
・この会社は創業して何年ですか、経営陣はしっかりしていますか。過去の経営は順調でしたか。
・この会社の収益状況はどうですか。競合他社と比べてどうですか。
・この投資に関する詳しい資料は、どんなものがありますか。

取引開始後の質問と確認
・投資商品の投資収益は、私の想定どおりですか。
・もし、私がこの投資商品を売ると、いくらお金をもらえますか。
・この投資商品を売却する際の手数料はいくらですか。
・この投資商品を売却する際の考え方を教えてください。どのような状況になったら売却を考えたらいいですか。

(注)この内容は、わが国の証券取引の状況に合わせて記載しています。このため、原文とは少し異なる部分があります。また、株式取引を主体とした質問項目を掲載しています。

ネット証券を通じた証券取引では、投資はすべて自分の判断で行いますが、上記Ask Questionsの投資目的、銘柄選定などの金融のプロに対する質問は、投資にあたり良いヒントになります。ネット証券取引にあたり、自分でこうした質問と回答を検討することにより投資の深みが増していきます。ぜひ参考としてください。

わが国においては、個人の資産形成の促進や公的年金のあり方の議論が進んでいます。こうした中で、アメリカでの国をあげての個人の資産形成に向けた取組みはとても参考になりそうです。

次回(10月23日予定)は、投資の心理学について説明したいと思います。

第13回 証券会社の選び方・付き合い方

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