本連載では、税理士に寄せられた相談者からの質問をもとに、主に「おひとりさま」の相続に関するさまざまな疑問に答えていきます。第10回は、法定相続人がいないおひとりさまが、遺言書によって遺志を確実に伝えるための具体的な方法について説明します。
遺言書を保管し、遺志を伝える2つの方法
「ミステリー小説」と「遺言書」。古くは横溝正史やアガサ・クリスティも題材としていましたが、2020年末に発表された「第19回『このミステリーがすごい!』大賞」もズバリ「遺言書」がテーマ。新川帆立(しんかわほたて)氏の『元彼の遺言状』が、475作品の応募から大賞に選ばれました。
この小説は、大企業の御曹司である元カレの遺言書の内容が「僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る」という奇抜な内容なのですが、税理士という職業の私は、ついつい「被相続人を故意に殺したら、相続権はなくなるでしょ」「この遺言書は法的に効力あるの?」など面倒な法律脳に洗脳されてストーリーについていけなくなってしまう……という困った癖があるのです。
ちなみに民法891条には相続欠格の事由(相続権のなくなる理由)として、
「1. 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処された者」
とあります。
今日は本人の意思を叶える遺言書の残し方についてのお話です。
Q.
私には高齢の父がおりますが、子供がおりません。また、兄弟姉妹もすでに他界していますので、私が死ぬときには、おひとりさまになるのは必然と感じています。父を看取った後、私には相続人がいなくなります。
私の死後残った財産は、血のつながりはありませんが、幼い時からずっと付き合いの長い知人の息子さんに託すことにいたしました。
その旨を遺言書として残したいのですが、その遺言書をどこに置いておけばよいのか、その知人に直接渡しておかなければならないのかわかりません。
私の遺言を確実に叶える方法はありますか?
A.
公正証書遺言を作成するか、自筆遺言証書保管制度を利用することで、遺言書を保管し、ご自身の遺志を伝えることができます。
遺贈を確実に行うために、財産を贈る相手に対して事前に意志を伝えておきましょう。
今までの連載で、「おひとりさまでも遺言書を作ることが必要です」と何度かお伝えいたしました。しかし、その遺言を執行させる手続きについては具体的に詳しくお伝えできていませんでしたね。今回は、その方法についてご紹介します。
遺言書で遺志を確実に残すには2つの方法があります。
① 公正証書遺言を作成する
公正証書遺言とは、本人が公証役場(公証人役場)に行って作成をする遺言書です。本人が病気などで公証役場まで行くことが困難な場合は、公証人に自宅や病院、施設などまで出向いてもらい作成します。その場合でも、本心の意思を話せる状態でなければいけません。
遺言書を作成してくれる公証人のほか、「証人」といって2人以上の立会人が必要となります。ただし注意点として、遺言の内容を証人にも知られてしまうほか、手続きが面倒で、費用もかかります。
公証役場一覧(日本公証人連合会)
公正証書遺言の費用はいくらかかるのか?(相続・遺言そうだん窓口)
証人が身近にいない場合、公証人に紹介してもらうこともできますが、その場合は公証人の費用のほか、証人にも手数料の支払いが必要になります。
本人がいきなり公証人役場に行って、公正証書遺言を作成しようと思っても難しいことと思います。ですから、公正証書遺言を作成する場合、通常は弁護士、司法書士、行政書士などがそのサポートを業務としていますので、さらに費用はかかりますが対応をしている士業の方に依頼することをお勧めします。
② 自筆遺言証書保管制度を利用する
比較的新しい制度ですが、2020年7月10日より、自筆で書いた遺言書の内容を法務局がデータとして保管してくれる「自筆証書遺言書保管制度」を利用できるようになりました。
これまで遺言書は主に自宅で保管することが多く、紛失してしまったり、遺言書があることそのものを誰も知らず、相続手続きが完了してしまうこともありました。また遺言書を保管する業務を行っている弁護士や法人に保管を依頼していたとしても、その依頼を受けた方が先に亡くなってしまう可能性もありますし、法人が倒産してしまったのでは意味がありません。
そんなリスクを回避し、遺言者の最終意思を確実に実現させるためにできたのがこの「自筆遺言証書保管制度」です。
法務局に預けた遺言書は、あとから本人がデータとして「閲覧」することもできます。必要があれば内容の「撤回」「変更」も可能です。もちろん無料ではありませんが、公正証書遺言と比べればかなり低予算で確実な遺言書の保管ができます。
法務省のサイトで、自筆遺言証書保管制度について比較的わかりやすく紹介しています。
財産の受け取りを拒否されないために
生前に財産を相続人以外の人に託す方法のひとつが遺言書です。しかし本人の死後、託すはずのその人に受取を拒否されてしまったら遺言者の意思は実現できません。
ですから生前に遺贈(遺言により遺産を無償で人または法人に譲ること)の意思をその方に伝えておくことは必要です。元気なうちに気持ちを伝えておきましょう。