新型コロナウイルスのワクチンの接種が国内でいつ始まるかわからなかった2021年3月の段階で、いち早く「ワクチン休暇」を打ち出した有限会社エキストラ(代表取締役・角本拓也さん=写真)。オンラインコンサルティング事業とインターネット広告代理事業などを営む会社で、正社員は7人と小規模ながら、オンラインコンテンツの市場拡大を追い風に、同社はコロナ禍でも成長を続けています。
エキストラはワクチン休暇のほかにも、ユニークな福利厚生制度を打ち出しています。その狙いについて、同社でコーポレート業務を担当する飯塚彩乃さんにお話をうかがいました。
他社でも従業員へのサポートを考えるきっかけになれば
今年3月17日に、ワクチン休暇についてのプレスリリースを出しました。あらためて、どんな制度なのか教えていただけますか?
飯塚さん まず、ワクチンの接種日には通常の有給休暇とは別に、特別有給休暇を支給します。医療機関や接種会場までの交通費も会社が負担します。2回目の接種も同様です。
副反応が出る社員もいると思うので、その場合は通常の病欠とはカウントせず、ワクチンの副反応による体調不良について、5日までは特別休暇として支給するという制度です。
この制度は私たちのような無期雇用の社員だけでなく、フルコミットでの業務委託のメンバーも申請があれば対象となります。
3月といえば、まだ高齢者のワクチンの予約も始まる前でした。このタイミングでワクチン休暇について発表した目的は何だったのでしょうか。
飯塚さん 3月15日にワクチン接種担当大臣(河野太郎氏)がインターネット番組で、ワクチン休暇を取得できるように企業がサポートしてほしいとお話をされていました。それを見て、さっそく乗り出したというのがきっかけです。
確かに、当時はワクチン休暇どころか、医療従事者や高齢者ではない私たちがいつワクチンを接種できるかわからない状況でしたが、そうした中でも会社としてこういうサポートをしますよとメンバーに伝えて、まずは安心してもらいたいという意図がありました。これが1点目の理由です。
もう1点として、弊社がプレスリリースを出すことで、「うちもワクチン休暇をやろうかな」という企業が増えたり、ワクチン接種を希望する方へのサポートについて考えるきっかけ作りになればいいなという思いもありました。
これをきっかけにワクチンの接種が広がり、感染拡大が抑えられれば、結果的に医療従事者の負担の軽減につながるので、微力ながら社会貢献ができればと思いました。
社員からはワクチン休暇にポジティブな反応
たとえばワクチンの大規模接種をめぐって政府がばたばたしているのを見たりすると、いろいろ決まってから初めて動き出すのではなく、御社のように早くから準備しておくことが大切だと思いました。
飯塚さん ありがとうございます。ワクチンの接種が実際にどのように行われるかがわからなくても、先にワクチン休暇の制度の大枠を決めてしまえば、何かあっても微修正ですむというメリットがあります。
実際にこの制度を決めるとき、すでにワクチンの接種がかなり進んでいたアメリカの事例を参考にしました。CDC(疾病予防管理センター)やニューヨーク州などの取り組みを私なりにリサーチして、これならそれほど変更せずに運用できるだろうという制度を作りました。
私たちの組織はコンパクトなので、すぐに軌道修正ができるという強みもありますが、ある程度大きな組織であっても、まずは制度を一度作ってみて、世の中の動きを見ながら、それに合ったやり方に変えていけばいいのではないかと思います。
ほかの社員の皆さまの反応はどうだったのでしょうか?
飯塚さん 私が想定していた以上に良い反響がありました。特別リアクションを期待していたわけではないのですが、実際には「ちゃんと考えてくれていてうれしい!」とか、「うちのコーポレイトは頼りになる!」と言ってくれた社員もいて、安心感を与えたいという思いが伝わって良かったです。
「三方よし」を目指すコロナ禍の福利厚生
今みたいな非常時に行動できるかどうかが、平時の会社での働きやすさにつながるのではないかと思いました。ワクチン休暇のほかにも、ユニークな福利厚生の取り組みをされているんですよね。
飯塚さん 弊社ではコロナ禍になってから、さらに福利厚生を充実させています。もともとコロナの前からテレワークを導入していたのですが、コロナを機にいろいろなことが制限される中で、テレワーク環境下における社員の心身の健康管理について気にしていました。
それを少しでもカバーすることを、福利厚生でできないかを考えました。そのひとつに「ウエディング大作戦」というものがあります。ある男性社員が代表(エキストラ代表取締役の角本拓也さん)に、「お付き合いしている人にプロポーズしたい」という相談をしていたことがあり、だったらそれを制度にしちゃえばいいということで、会社として個人のライフイベントをサポートするために生まれた制度です。
リモートで披露宴を挙げたり、記念写真を取ったりという選択肢も用意しましたが、その社員は「プロポーズ大作戦」を選び、レストランや宿泊施設の費用などを会社から支給しました。今はコロナ禍で、結婚式や披露宴をすることを躊躇してしまいますが、ライフイベントに関わる福利厚生をきっかけに、社員の気持ちを明るくしたいという目的があります。
このほかにも食事に関する制度が2つあります。1つ目は「うまいもん毎月お届け制度」という、会社から月に1回、社員へおいしい食べ物を届けるものです。おうち時間の充実と家族とのコミュニケーションの促進が目的で、社員自身だけではなく、その家族にも喜んでもらえるようにと考えました。また、産直通販を利用することで、生産者の方々の売り上げ支援になればと思います。
2つ目は「美味しいものは世界を救う制度」という、近隣の個人飲食店を利用した社員の食事補助を目的とした制度です。コロナの影響により売り上げが減少している個人飲食店へのささやかな貢献になればという思いで生まれた“win-win”な制度です。
また、テレワークが続くと運動不足になりがちなため、手軽に取り組める運動として、「歩く」ことを意識して健康な体を目指す「徒歩から3ぼた制度」というものも作りました。“1ぼたもち:免疫力アップ、2ぼたもち:ストレス解消、3ぼたもち:手当がもらえる”という、たくさん歩けば「棚ぼた」があるという制度です。月平均の徒歩数を、フルリモート社員は1日3000歩、リモートも通勤もある社員は5000歩で設定しています。
この制度は形骸化していかないか少し不安だったのですが、「今月は何歩でした!」「あと少しで達成できそう!」など、直接声をかけてくれる社員もいてうれしいですね。
あらためて、ワクチン休暇をはじめとするユニークな福利厚生制度を通じて、御社からどんなことを社員の皆さんに、あるいは社会に対して伝えたいか、教えていただけますか。
飯塚さん ワクチン休暇もほかの福利厚生も、利用した人だけが良い思いをするだけではなく、家族や身近な人たち、さらには社会全体に影響が出ればうれしいです。会社と社員、そして社会の「三方よし」をいかに実現できるかを考えて、特にコロナ後は福利厚生の制度を作ってきました。
社員が元気であることは、会社の元気につながると思うので、これからも健康経営を推進していきます。