「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、日本株投資で避けては通れない「売買手数料」のお話です。

  • 日本株に必ずかかるコストが売買手数料。売買益は売買手数料の計算が必要
  • 売買手数料は証券会社でかなり違う。手数料が高額なら損益分岐点が上がる
  • NISAなど「少額投資」のトレンドに乗るなら売買手数料を抑えたい

皆さん、こんにちは! さて、本稿がUPされた今日、この日は東京の緊急事態宣言が解除されているのでしょうか? いや緊急事態宣言のみならず、コロナ禍が早く終わってほしいと強く願っております。一方で、ワクチン接種が進み、コロナ禍が落ち着いた後の株式相場が気になっています。

自身の持っている株式や投資信託の先行きの見込みが定かではない時でも、必ずハッキリしているのは手数料です。ということで、今回は株式の「売買手数料」のお話です。

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日本株への投資……投資元本のほかに、必要なお金は?

ドルなどに換金してから投資する外国株とは異なり、日本株は、全て円貨のままで投資をすることができるので、為替変動の影響や、為替手数料がないのがメリットです。

しかし、株式投資では投資元本のほかに、売買手数料と、それに掛かる消費税の支払いが必要になります。また、売却した時にも、利益が出て譲渡所得が見込まれれば、その利益に応じて所得税・復興特別所得税・住民税を負担しなくてはなりません。

なお、投資元本そのものには消費税などの税金は掛かりません。

日本株への投資……手数料が掛かるのはいつ?

ということで、日本株への投資で必ず掛かる手数料が「売買手数料」です。株式に投資する時には買い付け手数料が、また株式を売却する時には売却手数料が掛かります。

買い付け手数料は、株式に投資する時に、投資元本にプラスして払います。また、売買手数料は株式を売った時に、売却して得る資金の中から手数料が差し引かれます。

売買益を出す時は売買手数料の計算をお忘れなく

日本株に投資して、利益を得ることを考えた場合、「買った時の株価」よりも「売った時の株価」の方が高ければ、その「プラスの差額」が利益になります。しかし、売買手数料も含めて差額の計算をしないと、「手数料の分、損失になった」ということにもなり兼ねません。もし「プラスの差額<手数料」となれば、投資で損失が出たことになります。

もっとも、投資した株式から配当金を得ることができる場合、売買手数料と配当金で相殺する、という考え方もできます。この考え方を採る場合、配当金の「権利確定日」に、投資した株式を保有しておかなくてはなりません。その場合は、売買手数料の額と配当金の額とのバランスも、気に留めておく必要があります。

冒頭に述べた通り、ワクチン接種が進み、コロナ禍が落ち着いた時の株式相場が気になっているのは筆者だけではないと思います。もしかしたら、相場が下落することもあるかもしれません。ということで、「今、利益を確定しておこう」とお考えの読者もいらっしゃるでしょう。
利益を確定するに当たり、売買手数料の計算もお忘れないようにしておきたいものです。

売買手数料の体系の違いの意味するところ

ところで、手数料の額および手数料の体系は、証券会社によってかなり異なります。例えば、筆者が以前、利用していた証券会社(仮にA社とします)の株式の売買手数料の最低額は2,750円(消費税込み)ですが、これは投資時と売却時で合わせて5,500円の手数料が掛かる、ということです。

例えば、TOPIXへの連動を目指すあるETFの株価は2,009円(6月11日終値)で、1株から投資することができます。しかし、A社では、このETFに1株、投資することをためらってしまいます。投資元本を上回る売買手数料が必要だからです。

株価が10%の上昇を見込む場合
証券会社 ①当初の
株価
②上昇分
①×0.1
③売買手数料
③×2÷②
⑤損益分岐点
の株数
⑥投資に
必要な額
①×⑤+③
A社 2,009 200 2,750 27.50 28 59,002
B社 2,009 200 108 1.08 2 4,126
株価が5%の上昇を見込む場合
証券会社 ①当初の
株価
②上昇分
①×0.05
③売買手数料
③×2÷②
⑤損益分岐点
の株数
⑥投資に
必要な額
①×⑤+③
A社 2,009 100 2,750 55.00 55 113,245
B社 2,009 100 108 2.16 3 6,135

株を買うときと売るときの差額と、手数料との関係が「プラスの差額<手数料」ですと、手数料の分、損失になってしまうのは先述の通りです。ですから、「プラスの差額≧手数料」となる投資元本を「損益分岐点」ととらえ、表を作成してみました。

このTOPIXのETFの株価が、将来、10%を超える上昇を見込んだとしましょう。A社では、投資する株数は28株が損益分岐点ということが言えそうです。また、同じくTOPIXのETFの株価が、将来、5%を超える上昇を見込んだとすると、投資する株数は55株が損益分岐点という計算が成り立ちそうです。

将来の上昇の見込みが小さいと、用意する投資元本を増やさなくてはならないのが分かりますね。

一方で、筆者が今、利用している証券会社(仮にB社とします)では、株式の売買手数料の最低額が108円(消費税込み)です。これは投資時と売却時で合わせて216円ですから、A社の10分の1を大きく下回る体系です。

ここで、もし、先述のTOPIXのETFの株価が、将来、10%を超える上昇を見込んだとします。B社の場合、投資する株数は2株が損益分岐点と考えられます。必要な投資額は4,234円で、A社は61,752円。同じETFをA社で投資する場合と比べると、損益分岐点を超えるために必要な投資元本は、10分の1未満で済むのです。

また、同じくTOPIXのETFの株価が、将来5%を超える上昇を見込んだとすると、B社の場合は投資する株数は3株が損益分岐点といえるのではないでしょうか? 必要な投資元本はB社が6,243円、A社が115,995円で、A社に比べて2桁少ない投資元本の用意で済むことになるのです。

A社のような高額な手数料体系では、このTOPIXのETFの例のように、「少額から投資することできる」ものですら、高額な投資元本を用意しなくてはならないことが、表からお分かりいただけると思います。

金庫
売買手数料が高いと、少額での投資では利益が出せないため、多額の投資元本が必要となる

投資の世界では、実は「少額」がトレンド?

現在の制度としては、2023年に新たに投資できる期限を迎えるNISA。正式名称は「少額投資非課税制度」です。つみたてNISAの方は、今の制度のままでまだまだ続きそうですが。

そのNISAという制度に応えるかのように、ETFの中には、1万円以下の投資元本で投資できるものが多数あります。また、企業が発行する株式も、東京証券取引所では「5万円以上、50万円未満」の投資元本になるように整備がなされているようです。

「貯蓄から投資へ」の流れを促進する中で、投資の世界では「少額」が、実はトレンドなのではないでしょうか?

投資が未経験という方でも、「少額からなら、ぜひ、やってみたい」という方も少なくないと思います。

そうしたトレンドの中で、A社のように株式の売買手数料が高額な体系ですと、少額から投資ができるものですら、利益を得るためには高額な投資元本を用意しなくてはならないのです。せっかくのトレンドを活かすことができなくなってしまうのです。
逆にB社のように、株式の売買手数料が少額な体系ですと、「少額で投資する」というトレンドを活かすチャンスがあるといえると思います。

安い手数料体系の証券会社に移管してみて

保有している株式や投資信託を、A社からB社に移管しました。株式や投資信託を移管するに当たり、1銘柄に付き、1,100円の手数料が掛かりました。また、A社のNISA口座で保有していたものは、A社の特定口座に移管(=この移管には手数料はなし)してから、B社への移管となりました。ですので、移管には、結構な時間が掛かりました。積み立て投資もいったん止めなくてはなりません。

それでも「A社の売却手数料」よりも、「移管手数料+B社での売却手数料」の方が、はるかに安いのです。

A社に注ぎ込んだ売買手数料の額で、もっともっと投資をすることができたのに、という筆者の反省を込めて、本稿を書きました。

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