宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回は、長期の資産運用を「投資信託ではなく株式でいいのでは」と考えている方に対して、自身の経験を踏まえてアドバイスします。
- 株式投資の長期運用は危ない。「もっと儲けたい」という人間の心理が要因
- 株式投資では自分の好きな銘柄に偏ってしまいやすく、バランスを取りにくい
- 安全性なら投資信託。株で利益が出たら別枠で貯めて、ほかの投資などに使う
「プラスの心理」が株式投資のリスクを高める
【質問】
チョット考えたのですが、投資信託は長期で待つのがいいと言っていますが、株式投資も投資信託みたいに複数の銘柄持っていれば、長期で待てるんじゃないですか? 株の場合は配当金、株主優待とうれしいこともあり、なんかメリットも複数あるようなんで……
今回は、私が今まで「先物、投資信託、株式、不動産」の順序で投資してきた中で疑問に感じたこと、「やってしまった」ことをヒントにしてまとめてみました。
多くの方が、資産運用をする中で素朴な疑問は生まれてきます。「投資信託は手数料が高いから、株式投資の方が有利ではないか?」という疑問もあるでしょう。いろいろな考え方があると思いますが、今回お伝えすることを、自身の株式投資の考えとして、ぜひ理解していただきたいと思っています。
今回の質問は、投資信託ではなく複数の株式に投資して、長期で運用しても良いかどうかということ。
最初に答えを述べますが、答えは「NO」。絶対にチャレンジするべきではありません。
私が株式投資にチャレンジしようとしたのは14年も前のことです。当時はバブル崩壊後の長期株安の低迷期で、現在とは経済状況も違いがありますが、今私が同じことをしたとしても、失敗するのは必然でしょう。
NISAの普及もあり、株式投資は若い世代にじわじわと浸透してきています。将来もらえる年金が半分に減ってしまう可能性に、若い人たちも意識が向き始めているようです。
株式投資が怖いのは、利益が出ることに慣れてしまうことです。ある銘柄を買って、ちょっと儲かったからと、さらに利益をプラスしようと次の銘柄を買う。この繰り返しがリスクを増大させる原因となることに気付くのは、おそらくは先のことになるでしょう。それはなぜでしょうか?
株で儲けを確定させたら、その利益は別枠で保管しておくのが鉄則だと私は考えています。この行いは簡単のようで、実際には簡単にはいきません。人間の心理がそうさせません。特に少しでも株で儲かっている方だと、現在のように日経平均株価が3万円を超えていれば、「まだまだこれからが楽しみだ!」というプラスの心理が増幅しています。「待て待て……ここで少し様子を見てみるか」などのマイナス思考の考えはできにくいものです。
ここで踏みとどまれるのか? 多くの人は「もっと儲けたい」と思って株を買い足して、その銘柄が期待に反して値下がりしてしまい、たくさんの損失を抱えることになるでしょう。
これが、株式投資が投資信託のように運用できない大きな原因です。
ここからは、多くの人が株式投資で失敗してしまう原因と、失敗しないための運用時の管理などについて考えていきます。
株式投資は「好きな銘柄」に偏りやすく、コントロールが難しい
まずは投資信託と株式の大きな違いについて簡単に復習していきます。
まず、株式は紙切れになるリスクがあるが、投資信託は紙切れにはなりません。
例えば、1つの銘柄と、100の銘柄を選定した投資信託ではどうでしょう。圧倒的に後者の方が、リスクは軽減できます。1つの銘柄に出資したお金と、100銘柄に多くの投資家とともに出資したお金では当たり前のこと。ここが、株式が投資信託のように運用できない要因です。
では、リスクを軽減するために、ひとりで多くの銘柄に投資できるのでしょうか? それも業種のバランスを取りながらポートフォリオを組めるのか?
仮に成長性を重視して、割安で購入できるような小型株銘柄でポートフォリオを構成していると、企業が倒産して株式が紙切れになるリスクも高まっていくことになります。ましてや脱炭素、ESG(相談室第10回参照)など、新たな業態が台頭している状況では、銘柄を決める際にはより慎重にならざるを得ません。特に小型株のような短期の変動差が大きい株式であれば、リスクを軽減するにはそれと逆の動きをするような銘柄を組み入れなければなりません。
私が過去の経験から感じたのは、株式投資では自分の好きな銘柄ばかりに偏ってしまいやすく、バランスよくポートフォリオを組めないことです。好きな銘柄だと、上げ下げ関係なく購入してしまい、コントロールが厳しい。株主優待、配当金などの魅力にも惑わされてしまいます。好きな銘柄だけで組んだポートフォリオは、まともにメンテナンスできないと思ってください。私も現在にいたるまで、複数の銘柄が塩漬けとなっていることをご報告いたします(笑)。
結論としては、株式で長期運用するのなら個人的に応援したい企業の銘柄は少なくして、買った銘柄についてはメンテナンス作業に徹していくのがベストだということです。ただ、それは投資に慣れていない人には難しいでしょう。
安全性なら投資信託。株の利益は次のステージで使う
一方、投資信託には運用会社があり、商品ごとにポートフォリオをコントロールしていく仕組みで、投資家のために長期的なキャピタルゲイン(値上がり益)を目指すことになっています。投資信託は多くの銘柄に投資するので、リスクも低くなっています。やっぱり安全性は、長期運用を前提としている投資信託にはかなわないですね。
最初に戻りますが、個別株式の投資で利益が出たのならば、別枠で保管すべきだと言いました。ただ、株式を売ったお金が証券口座に入ったままの状態だと、次の銘柄にそのまま投資してしまい、わけがわからなくなりますので、証券口座から引き出しておきましょう。投資とは別に、預金として積み重ねていくことによって、株式投資ではない次のステージにチャレンジするのもいいでしょう。私は、現物不動産を購入する頭金にすべく、貯める方に徹しました。
お金の価値観は人それぞれです。自分のために使うのか、家族のために使うのか……。ただ問いたいのは、「残っていくものに価値がある」ということ。それは知識、経験、物、お金などすべてに当てはまります。
次回も株式運用について考えていきます。