11月3日に、アメリカが「テーパリング」の開始を決めたというニュースが伝えられました。テーパリングは、今最も注目すべき経済用語のひとつです。本記事ではテーパリングという言葉の意味と、テーパリングと株価の関係について解説します。
金融市場で「テーパリング」とは「金融緩和の縮小」
テーパリングとは、過熱した金融市場を落ち着かせるために、中央銀行が段階的に債券の買い入れを減らすなどして、量的緩和を縮小させることです。テーパリングのもともとの意味は「先細り」ですが、金融市場では中央銀行などが資金の流通量を徐々に減らし、インフレが起きないように対策することを指すようになりました。
テーパリングを実施せず、そのまま量的緩和政策を続けると、資金の流通量が増えすぎてお金の価値が減り、急激なインフレが発生して経済に悪影響を及ぼす可能性があります。一方で、量的緩和を徐々に縮小せずに一気にやめたとしても、やはり市場への悪影響が大きくなるため、段階を踏みながら金融政策を正常化させることが求められます。
もともと金融緩和は、不況を脱するための景気刺激策として中央銀行が行うものですが、景気が回復し、ある程度インフレの兆しが見えてきた時点で、テーパリングが実施されることになります。
したがって、テーパリングが行われるのは、量的緩和政策が十分に効果を発揮したあとのタイミングです。過去には2008年に発生したリーマン・ショックで世界の中央銀行が量的緩和政策を行った際に、米国などが緩和の出口政策としてテーパリングを実施しました。
直近ではコロナショックで世界経済が低迷し、その対策として世界各国で量的緩和政策が続いています。ワクチンの普及や各国中央銀行の緩和政策によって、経済にも回復の兆しが出始めたところですが、特にアメリカ経済の回復は著しく、2021年夏以降、アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備理事会)はテーパリングのタイミングの見定めを始めました。
FRBはテーパリングに関する情報を小出しにして、遠くない将来、アメリカでテーパリングが実施されることが市場の共通認識になっていました。そして去る11月3日に、FOMC(米連邦公開市場委員会)がテーパリングを行うことを正式に決定したというわけです。
テーパリングは株式市場を冷やす方向に作用する
量的緩和政策が行われている間は、中央銀行が株式や債券を大量に買い入れるため、市場にお金が過剰に出回り、人工的な株高が形成されやすくなります。テーパリングは緩和の縮小であるため、お金の流通量が減ることで、一般的には株式市場は逆方向に、つまり株安に動きやすくなると考えられています。
リーマン・ショック後に行われた金融緩和の引き締め政策として、テーパリングに関する発言があった際には、FRBの引き締め発言を受けて、日経平均株価は7%以上の下落を経験しています。ただし、この発言を受けたあとに株価はテーパリングを織り込んだものになっていたため、実際にテーパリングが始まったときには、市場に大きな混乱はありませんでした。今回のコロナ禍からの回復を受けたテーパリングも、株式市場にとっては想定内だったこともあり、今のところ米国も日本も目立った株価の下落は見られません。
一般的に株式市場は、テーパリングが始まるというニュースがあるだけで敏感に反応します。そのため、中央銀行はテーパリングを始める具体的な時期だけでなく、あいまいな言及についても細心の注意を払っています。そしてテーパリングが決定した今、市場の焦点は「FRBはいつ政策金利の利上げを行うか」に移っており、現時点ではFRBのパウエル議長は利上げに対して慎重な姿勢を見せています。
テーパリングは金融の正常化への第一歩
テーパリングが実施されると株価が下がる可能性が高まるため、投資家心理としては歓迎しづらい側面もあります。しかし、金融の安定と正常化にはテーパリングを避けて通れません。
テーパリングの終了は金融緩和が終わりを迎えることを意味し、そのあとに行われる政策金利の正常化(利上げ)までが、金融政策の正常化に向けた一連の流れとなります。金融緩和を縮小するテーパリングは経済を安定させる手続きの第一歩であり、長い目で見れば必要な措置です。
テーパリングが実施されて、仮に目先の株価が下がったとしても、将来的に安定成長を続けるための措置だと考えれば悲観する必要はありません。むしろ、テーパリングや政策金利の正常化の後に訪れるであろう株式市場の安定的な成長を見越して、運用の方針を立てることが大切でしょう。