「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、日銀総裁の交代を控え、あらためて金融緩和の影響と日本国債のリスクについて考えます。

  • 10年続く金融緩和。超低金利は「平時」と化している
  • 太平洋戦争末期のような「有事」が起きたら、日本国債はどうなるか?
  • 有事の際は投資先を海外にする、不動産や金を持つなどの方法が考えられる

本稿は3月11日に書いています。もう12年になるのですね。今思えば、東日本大震災から立ち直るためにも、大規模金融緩和は必要だったのでしょうか?

しかし、大規模金融緩和に対しては「日本国債はやがて破綻する」などと叫ばれ続けましたが、惜しまれながら、日本銀行の総裁もご勇退なさるようですね。「大規模金融緩和」の他にも、「○田バズーカ」や「イールドカーブコントロール(YCC)」、「副作用を上回る効果があった」などの名言が残りました。

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また、海の向こうでは、先進国は「いくら国債を発行しても破綻しない」なる、現代貨幣理論(MMT)という怪しげな(?)経済理論もありましたね。しかし新型コロナ感染症の蔓延と同時に、すっかり沙汰止みになりましたね。やっぱり、怪しかったんでしょうかね?

「平時」が「平時」のままなら、日本国債は破綻しない

日本国債の破綻リスクを推し量るうえで、比較されるのが太平洋戦争でしょうか? 近年の日本国債の残高は「太平洋戦争末期のそれと酷似している」、いや、むしろ「太平洋戦争の末期の国債残高を超えてしまっている」と。だから、「日本国債は破綻するのでは?」と叫ばれるわけです。日本国債に限れば、太平洋戦争中はまあ、とにかく無事でしたが、終戦後、預金封鎖がなされ、新円切り替えが実行されたのは歴史の教科書の記述通りです。

日本は太平洋戦争の終盤、多くの男性が兵隊に取られて戦地に送られ(労働力の著しい減少)、本土空襲や離島での激戦(サプライチェーンの途絶)がありました。そして、終戦直後、兵隊に取られていた人が復員(=兵隊から市民に戻る)し、中国大陸や朝鮮半島などで暮らしていた人も帰国しました(急激な人口増加)。

太平洋戦争
太平洋戦争で日本は労働者が減り、サプライチェーンが途切れるなど、経済への影響も甚大だった

そもそも太平洋戦争は1941年12月8日に始まりましたが、満州事変は1931年9月18日のことです。本土空襲や離島での激戦は太平洋戦争の終盤だったとしても、戦争そのものは1931年から、ずっと続いていた、つまり戦争が「平時」と化していたわけですね。

翻って21世紀。2年のお約束で始まった大規模金融緩和も間もなく10年になろうとしています。つまり「金融緩和」や「超低金利」が「平時」と化しているのです。しかも、この変化が速く激しい時代に。

昨日と同じ今日が、今日と同じ明日が続くのが「平時」と定義できるでしょうか? これらからも「平時」が「平時」のまま続くのであれば、国債には何ら心配ないのかも知れません。それこそ、MMTのように。では「平時」が「平時」のままでなかったら、いかがでしょうか? それが、太平洋戦争の終盤と、終戦後だったのではないでしょうか?

もし、将来、太平洋戦争の終盤に起きたような「労働力の著しい減少」や「サプライチェーンの途絶」、あるいは終戦後の「急激な人口の増加」があったとしたら、つまり将来、「平時」が「平時」のままでなかったとしたら、日本の国債は、どのようになるのでしょうか?

そもそも、今の日本の状況では「急激な人口の増加」はあり得ないことでしょう。もし、あったとすれば、むしろ喜ぶべきことかも知れません。少子化が進んでいますからね。

「平時」が「平時」のままでなくなった時が日本国債の破綻の時

では「労働力の著しい減少」や「サプライチェーンの途絶」が起きたら……そんな可能性があるのでしょうか?

台湾有事と南海トラフ地震で予想される影響を表にしてみました。

事象 予想される影響 予測した人
南海トラフ地震 経済損失220兆円、死者32万人 政府
南海トラフ地震後、
1年間で
経済損失134兆円 井上寛康氏(兵庫県立大学教授)
台湾有事 6000万人以上餓死 山下一仁氏(キヤノングローバル戦略研究所)
GDPは5~10%マイナス成長 中島精也氏(福井県立大学客員教授)
年間経済損失350兆円 米国務省
新型コロナ
(2020~2021年)
経済損失27.9兆円 金沢大学

台湾有事は、日本の間近ですし、関係するのがアメリカと中国というGDPの1位と2位の国ですし、そして、この2国だけで世界のGDPの4割を占める国同士による有事になるのです。GDPだけを見てもその影響の大きさが分かると思いますが、それだけに留まりません。台湾有事では、当事国のアメリカにとっては「遠い戦場」かも知れませんが、仮に日本が当事国にならかったとしても、台湾有事は日本の「間近な戦場」なのです。台湾の周辺の海と空は、日本にとっては掛け替えのない「サプライチェーン」の一つです。エネルギー自給率も飼料食料自給率も、共に12%の日本にとって、台湾の周辺の海と空は貴重です。その貴重なサプライチェーンの一つが利用できない(サプライチェーンの途絶)となると、空と海を大きく迂回して輸入するしかありません。

いえ、先述の通り、世界のGDPの4割を占める国同士の有事ですから、そもそも輸入それ自体が出来ないかもしれません。表中にあるように「餓死」も、決して大袈裟ではないかも知れません(労働力の著しい減少)。

さて、台湾有事は有事に至らぬよう、日本を含む各国の外交努力に託すしかありません。が、南海トラフ地震は自然災害ですので、これはもう、どうしようもありません。南海トラフ地震は、人口と産業と港が集中する、太平洋ベルト地帯が甚大な損害を被ると言われています。もしそうだとすれば、食料やエネルギーの輸入が困難どころか、できなくなるかもしれません。巨大な港が集中していますからね。そして道路網もロジスティクスなども破壊され尽くされるでしょう(サプライチェーンの途絶)。

日本の有事は日本国債の有事……私たちはどのように備える?

終戦後と同じように預金封鎖に遭ってしまえば意味がありませんが、まずは投資先を海外にする、外貨預金の額を増やすなどの方法が考えられると思います。あるいは、海外に多数の拠点がある、国内よりも海外の売上比率の高い日本企業の株式も良いかも知れません。先日、あるメーカーの株主総会の資料を見ると、売り上げの77%が海外でした。しかし、預金封鎖に遭ってしまえば、銀行や証券会社に預けている資産は、全て日本政府に抑えられてしまうでしょう。

あとは「現物」、例えば不動産や金(ゴールド)を保有することでしょうか? 現物なら日本政府に抑えられる可能性は低いでしょう。もともと流動性が低いですし、それに加えて有事の後ですから、取引も成立しにくいかと。

ところで、南海トラフ地震に備えて、改めて地震保険の見直しや検討を意識された方もいらっしゃるかもしれません。地震保険も無意味とは言いませんが、有事の後の日本国債の破綻、つまりハイパーインフレが起きている時の地震保険の保険金ですから。お金の価値が、どれだけ下がっているかと思うと、地震保険の保険金も無意味とは言いませんが……。

後書きに代えて

2011年3月11日を振り返りつつ、最近のニュースでは。

ウクライナ危機の反省から、サプライチェーンの途絶に備え、原子力発電所の再稼働を増やす、原子力発電所を60年使えるようにする、ということが始められているようです。

そして台湾有事に備え、防衛予算を増やし、沖縄県内の離島に自衛隊の部隊を配備しているようです。

しかし、本当に有事に備えるのなら、今こそ、日本国債のあり方を考えるべきではないでしょうか? 「副作用を上回る効果があった」と名言を残されたようですが、その効果の程を、私たち国民が知るのは有事が現実化した時のことでしょう。

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