テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家が700人以上所属する日本放送作家協会がお送りする豪華リレーエッセイ。ヒット番組を担当する売れっ子作家から放送業界の裏を知り尽くす重鎮作家、目覚ましい活躍をみせる若手作家まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜く放送作家&脚本家たちのユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第55回は、京都在住の脚本家、新井まさみさん。

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わたし流、段階別請求法

新井まさみさんの写真
新井まさみ
脚本家
日本放送作家協会会員

突然ですが、京都に住んでいます
その昔、シナリオコンクールの最終選考に残った数人が在京キー局に呼ばれ、プロットや脚本を書いては現役のPとDに指導してもらえる「勉強会」がありました。もちろん交通費は出ません。けれど、プロでもないのにブレーン料なるもの(当時の高速バス片道代くらい)が振り込まれました。

赤字とわかっていても、脚本家を夢見る私は喜び勇んで京都から通いました。
見上げると、そこには東京タワー。
楽しくてしかたない。しかも勉強しながらお金がもらえるなんて。
学んだことは多く、今でもこの経験が脚本を書き続ける原動力のひとつとなっています。

なんて前置きはさておき、テレビやラジオのお仕事は東京制作がほとんど。
地方に住んでいるという理由で断られたことも少なくありません。
そりゃそうですよね、呼んでもすぐ来ないし、交通費出すの困っちゃうし。

現在の新幹線自由席の東京↔京都往復代、26,640円也。
深夜バスを使っていた時期もありますが、流血事故に巻き込まれて以来、積極的には乗っていません。飛行機は京都からだといまいち不便だし。
というわけで、移動にかかるお金はいつの時代も地方人の悩みのタネ。
では、そんな地方人が交通費を請求できるようになるまでの3段階をご紹介しましょう。

東京の新幹線のイメージ
テレビやラジオ制作のほとんどは東京。地方に住んでいるという理由で断られたことも

【第1期:コミコミのギャラでもやります】
何度か打ち合わせで東京に行くとしても、交通費は自腹
いいんです、書かせていただけるだけで満足なんです。
まずは意欲を見せましょう。

【第2期:とりあえず領収書と請求書は用意しておく】
相手によっては交通費や宿を用意してくださるところが現れます。
そうなってくると、新しい取引先にもダメ元で交通費を請求できる厚かましさが備わってきます。
ですが、「領収書があればいいですよー」と言われたものの、当日スッカリ忘れておられる担当者さんを前に、言い出せないこともありました。そもそも地方在住の人間がこの場にいるなんてあり得ないとお考えなのです。
また別の場所では、勇気を出して「これ、交通費の領収書です……」と切り出したところ、慌ててお財布から小銭混じりの現金を渡されたこともありました。
領収書を添えて請求書を送っても、振り込まれるまではドキドキです。
 
【第3期:新幹線チケットは郵送がベター】
慣れてくると、相手方もいちいち経理に回したりするのが面倒だとわかってきます。
そうすると、「あー、ひょっとしたら、チケットを送っていただくのが手っ取り早いかもしれません」などと切り出し、「とりあえず終電の指定席にしてもらって、あとはこちらでみどりの窓口で時間変更できますんで」なんてもっともらしく言ったりしてみます。
すると相手も「みんなそうしてるんだな」と思ってくれるようです。

さらに相手との信頼関係が深まると、新幹線チケットと一緒に駅からのタクシー券が同封されていたり、運よく授賞式に呼ばれた時などは、グリーン車の往復チケットが送られてきたりします。
稀にですが、局と宿との往復にタクシー券をいただくことがあります。
面の割れている俳優さんならいざしらず、歩いてすぐの距離ならお返しすることにしています。
必要な交通費以外いただかない、地方人としての矜持です。

外伝 リモート時代でもマイルールはこうだ!

もちろん在阪でもお仕事はあります
その場合、交通費は請求しません。
ですが一度だけ、「明日も明後日も明々後日も出来上がるまでウチに来て」となったことがあります。

京都から私鉄と地下鉄を乗り継いで往復1,500円弱、この調子でいくと軽く一万円を超えてしまう……最初はうっかりICカードでピッってやっちゃってたし……。
そういう時は堂々と「フリーランスのマイルールとして交通費が一万円超える場合は請求できるか試すことにしてるんです」とお伝えし、「こんな近距離、経理が通すかわかりませんよ?」と驚かれながらも券売機で出てくる切符と同じ裏が黒い領収書をごっそり束にしてお渡ししました。
結果、ギャラとは別で無事に振り込まれていました。

ところが、このコロナ禍です。いつの間にかオンライン打ち合わせが主流になり、久しぶりにお電話いただいた東京の方からも「来なくていいよ、オンラインで十分だからー」と、
こともなげに告げられる今日この頃。
地方人、ついに距離を克服す? イッツアスモールワールド、世界は狭い。
我が交通費闘争、これにて決着。めでたしめでたし。

オンライン打ち合わせのイメージ
コロナ禍でオンライン打ち合わせが主流に。地方人はついに距離を克服できたのか?

いやいや、これまで長々と書いておきながら、どうしてもその場に行きたい時は自腹で駆けつける覚悟なんです。あの日、見上げた東京タワー。見上げるからこそ気持ちが動くのです。
期待と不安を胸に勉強会に通っていた頃と同じ、直に触れてこその学びがあるのです。

そこで皆様。コロナ禍が収束したら、京都での打ち合わせはいかがでしょう?
千年の都、世界遺産の街に、ぜひぜひおこしやす。
京都でこの前の戦争といえば応仁の乱。江戸なんてまだ数百年の歴史しかあらへん……。
ごめんなさい。実は京都人、自分たちをを地方人だなんて思ったことありませんでした!

次回は放送作家の堀田延さんへ、バトンタッチ!

是非観てください!

芦田愛菜、佐藤隆太、広末涼子ほか出演、土曜ドラマ『エンディングカット
2022年3月19日(土)NHK総合 夜9時〜

エンディングカット

2019年にFMシアターで放送し、令和元年度文化庁芸術祭ラジオ部門大賞を受賞。その作品で主演を務めた芦田愛菜さんを再び主演に据えてテレビドラマ化します。

一般社団法人 日本放送作家協会
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。

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