「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回のテーマも、前回までに引き続いて「外貨建て生命保険」。その課税関係と、社会保険料に及ぼす影響について見ていきます。
- 生命保険の満期金などの課税関係は、源泉分離課税と一時所得の2つのケースがある
- 投資信託や株式には、外貨建て生命保険の一時所得のような特別控除などがない
- 外貨建て生命保険の確定申告が、社会保険料に影響する場合もあるので注意が必要
外貨建て生命保険……その課税関係は?
岸田首相の「税増収の還元」による減税も、結局、国債の発行によって財源を捻出することになりそうですね。減税は、もともと物価高に応えるものだったはずです。しかし、新たに国債を発行することになれば、むしろ物価高につながるのではないでしょうか?
さて、外貨建て生命保険のお話の締めくくりに、外貨建て生命保険の課税関係を見ていくことにしましょう。これまで外貨建て生命保険について「利殖(運用)目的」で契約する人が多いのでは、という想定の元に述べてまいりました。ですので、本稿でも外貨建て生命保険を解約して解約返戻金を受け取るか、あるいは満期まで待って満期金を受け取るかという前提で述べていくことにします。
源泉分離課税となるケース
外貨建て生命保険でも、利益に対して源泉分離課税のみで課税関係が終了するケースがあります(そのため、確定申告も不要です)。
一時払いの保険で、5年以内に解約したか満期を迎えたか、解約返戻金や満期金を受け取った場合ですね。源泉分離課税の税率は20.315%です。源泉分離課税のみで課税関係が終了するメリットは、配偶者控除や扶養控除などに影響がないことです。また、後述する一時所得のように税率への影響もありません。
一時所得となるケース
上述に該当しない外貨建て生命保険の解約や満期は、一時所得として課税対象になります。もっとも、課税対象となる利益が生じればのお話です。課税対象となる利益が生じなければ非課税になるのは、投資信託などの投資商品と同じです。
では、課税対象となる利益に対する課税所得は、どのように計算するのでしょうか? 以下の計算式によって算出した数字が一時所得の額です。
受取額(満期金や解約返戻金の額)- 払い込んだ保険料の総額 - 特別控除の額(50万円限度)
そして、この一時所得の額の2分の1の額を、給与所得や事業所得(自営業者)、雑所得(主に年金)などと合算して所得税や住民税の額を計算します。ですので、この合算によって税率が上がってしまう可能性もあります。また、配偶者控除や扶養控除などに影響する、つまり控除の対象からはずれてしまう可能性もあります。
なお、一時所得は確定申告することになります。よくサラリーマンの副業で生じた雑所得の額が「20万円以下なら確定申告の必要がないので、事実上、非課税になる」と言われていますが、それはほかに確定申告の必要がなく、年末調整で課税関係が終了している場合などのことです。
外貨建て生命保険で一時所得が生じ、確定申告を行う場合には、「(先述の)ほかに確定申告の必要がなく」には該当しません。ですので、外貨建て生命保険の一時所得の確定申告の際には、あわせて、副業の雑所得も申告書に記載しなくてはなりません。
もっとも、先述の計算式で計算した結果がゼロかマイナスなら、一時所得は生じませんから、もちろん確定申告書への記載も不要です。
種類 | 区分 | 控除 | 課税関係と保険料 |
---|---|---|---|
公的年金 | 雑所得 | 公的年金等控除 | 総合課税で計算する。 その所得額によって、 国民健康保険料、 後期高齢者医療保険料、 介護保険料が決まり、 同じく自己負担割合も決まる。 |
iDeCoの年金受取 | 雑所得 | 公的年金等控除 | |
企業年金 | 雑所得 | 公的年金等控除 | |
民間の保険の 年金受取 |
雑所得 | 保険料相当が経費 | |
民間の保険の 一時金受取 |
一時所得 | 保険料相当が経費 特別控除50万円 |
外貨建て生命保険の利益とは?
さて、先述の一時所得の額を算出するための計算式で「受取額(満期金や解約返戻金の額)- 払い込んだ保険料の総額」の部分ですが、外貨建て生命保険の場合は、受取額も払い込んだ保険料の総額も、どちらも外貨です。しかし、税金の計算や確定申告書への記載は「円」ですので、外貨を円に換算しなくてはなりませんが、どのように換算するのでしょうか?
一時所得を計算する場合の換算は「効力発生日(=解約請求書を生命保険会社が受領した日か満期日)」のTTM(仲値)が適用されます。なお、源泉分離課税に該当する場合には効力発生日のTTB(買取価格)を適用します。
課税関係は投資信託や株式などの投資商品が有利?
筆者は、課税関係については投資信託や株式などの投資商品が有利な点もあると思っています。何と申しましてもNISAは「非課税」で、もちろん確定申告も不要です。
では、NISAではなく課税口座の場合はいかがでしょうか? 特定口座という制度があります。特定口座(源泉あり)では証券会社の方で課税所得を計算、税額を源泉徴収し納税も行ってくれて、原則として確定申告も不要です。
しかし、投資信託や株式には、外貨建て生命保険の一時所得のような「特別控除(50万円限度)」もなければ、「2分の1の額を合算」もありません。投資信託や株式は、売却額から投資元本と手数料などのコストを差し引くだけです。加えて、一時所得の場合には給与所得や事業所得、雑所得などと合算しますが、5%や10%といった低い税率が適用される可能性があります。一方、投資信託や株式の課税所得に対する税率は一律20.315%です。したがって、人によっては、投資信託や株式の方が、給与所得などよりも高い税率ということにもなります。
ただし、NISAにしても、特定口座(源泉あり)にしても、確定申告は不要です(特定口座(源泉あり)は必要に応じて確定申告ができます)。ですので、配偶者控除や扶養控除への影響を心配する必要はありません。
確定申告が所得税や住民税にとどまらず、社会保険に影響する場合も
外貨建て生命保険の一時所得は確定申告が必要です。そして、源泉分離課税で課税関係が終了する外貨建て生命保険と、NISAや特定口座(源泉あり)は確定申告が不要です。
この確定申告の必要・不要の影響は、実は所得税や住民税への影響にとどまりません。確定申告を行うことで、以下の社会保険に影響してくる場合もあるのです。
確定申告を行うことで影響がある社会保険は、以下の通りです。
- 自営業者や(給与所得のない)年金受給者の国民年金保険料
- 65歳以上の方の公的介護保険の保険料の額と自己負担割合
- 70歳以上の方の自己負担割合
- 75歳以上の方の後期高齢者医療制度の保険料と自己負担割合
つまり、源泉分離課税で課税関係が終了する外貨建て生命保険は確定申告が不要ですから、上述の社会保険への影響は気にする必要もないのですが、一時所得の場合、確定申告を行うことで上述の社会保険料の額が上がったり、自己負担の割合が上がってしまうこともあるのです。
まとめに代えて
運用(利殖)の目的が「老後資金」の準備であり、いわゆる老後の期間に受け取りを検討されている方は、上述の社会保険への影響も視野に入れるべきでしょう。
岸田首相も物価高への対応として減税を打ち出しています。サラリーマンの皆さんは、ちょうど源泉徴収票を手にされている頃ではないでしょうか? いかがでしょう? 所得税の額は、思っていたよりも少ない印象を受けたのではないでしょうか? 所得税の額に比べて、インパクトが大きいのが社会保険料の額ではないでしょうか?
このご時世、老若を問わず負担が大きいのは社会保険料です。節税は話題になっても、節社会保険料は話題にならないのが不思議なくらいですが、実は節税に比べて、節社会保険料は難しいのではないでしょうか? ですので、細かなところで社会保険料の額をいかに減らしていくか、気に留めておく必要があるのです。