「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回も前回に引き続き、「外貨建て生命保険」が今なぜ流行しているのか、どんなリスクがあるかを見ていきます。

  • 「積立利率変動型」の外貨建て生命保険は、解約返戻金の額が減少することもある
  • 多くの外貨建て生命保険の中身は債券であり、金利が上がれば債券価格は下がる
  • 外貨建て生命保険は、販売会社の「販売コミッション」が円建てより大きい傾向

円安が進んだ理由

終わりの見えないロシアによるウクライナ侵攻に続き、イスラエルとパレスチナ(ハマス)との間でも紛争が始まりました。アメリカでは史上初めて下院議長が解任され、中国では不動産会社の苦境が伝わってきます。私たちの日本でも臨時国会で「所得税増収の還元策」として減税が打ち出されましたが、株価が大きく下がるなど、今一つ評価が芳しくないようですね。

こういう何かと不安定な時勢だから、むしろ「現金や、より現金に近いもの(国債や生命保険など)の方が安全なのでは」というご意見も出てきそうですが、果たして、いかがでしょうか?

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本稿では前々号前号に続き、外貨建て生命保険について見ていくことにします。

ドル建て生命保険は「将来への備え」にはならない?

外貨建て生命保険……ドルの歴史とドル運用の選択肢

円安が進んだ理由はひと言では言い表せないと思います。全てではないにせよ、金利の上昇が挙げることができるでしょう。商品にもよりますが、金利の上昇がネガティブに作用する外貨建て生命保険もあるようです。

金利が上がると解約返戻金が減る?

外貨建て生命保険の商品の中には、タイミングによっては「金利が上がると解約返戻金が減る」タイプの商品があります。
では、どういう商品でしょうか?

「積立利率変動型」と言って、市場金利の情勢に応じて積立利率が変動する商品です。つまり、市場金利が上昇するなどの条件が整えば、積立利率も上がるという具合です。
が、問題なのは解約した時です。

トラリピインタビュー

契約時の市場金利に比べて、解約時の市場金利の方が高い場合、解約返戻金の額が減少します。
逆の場合、つまり契約時の市場金利に比べて、解約時の市場金利の方が低い場合は、解約返戻金の額が増加します。

先述の通り、今の円安の理由の一つに、アメリカの金利の上昇があります。ですので「今は円安だから」と外貨建て生命保険の解約をシミュレーションしても、「払い込んだ保険料の総額に比べ、外貨建て生命保険の解約返戻金の額の方が少ない」という可能性も十分にあり得るのです。

どうして金利が上がると解約返戻金が減るのか?

外貨建て生命保険の中身は、現地通貨もあるでしょうが、多くは(例えばドル建てならアメリカの)国債だと言われています。
国や通貨に関わらず債券(国債・地方債・社債の総称)は「市場金利が上昇すると、債券価格が減る」のが一般的です。つまり「契約時の市場金利に比べて、解約時市場金利の方が高い場合、解約返戻金の額が減少する」というのは、債券の価格変動リスクをまともに被ると理解しても良いでしょう。

【図表】アメリカの市場金利が外貨建て保険に与える影響
  市場金利の上昇 市場金利の下落
為替 円安 円高
債券価格 上昇 下落
市場価格調整 解約返戻金の減少 解約返戻金の増加

なお、ご参考までに、個人向け国債は政府の保証がありますので、価格変動はありません。

保険だから安心なのか?

「生命保険だと安心なのよね」とおっしゃる方の、何と多いことか。外貨建て生命保険といえども、やはり生命保険です。保険事故が発生すれば、約束通りの金額の生命保険金を受け取ることができます。が、約束通りなのは、あくまでも外貨(例えば、ドル建てならドルの額)で、円貨に換算する場合には保証の限りではありません。

そもそも、外貨建て生命保険を相続対策など「万が一」に備えて契約する人は少ないのではないでしょうか? やはり、外貨建て生命保険は利殖(運用)目的で契約したり、検討する人が多いと思います。「円安などのタイミングで、円に換えて解約返戻金を受け取りたい」と、「解約を目的」に外貨建て生命保険を契約したり、検討するのはお勧めできません。

外貨建て生命保険が流行るのは?

どうして外貨建て生命保険が流行るのかと言えば、販売した代理店や金融機関への販売コミッションが円建てのそれに比べて「遥かに」大きいからです。
そして、販売額によっては円建ての生命保険にはない、「オーバーライドコミッション」や「ボーナスコミッション」を得ることができるからです。(なお、保険業法の改正により、「ボーナス○○」などの名称はご法度ですので、別の名称になっている場合もあります。例えば「施策支援手当」などです)

加えて、研修と称する旅行を保険会社からプレゼントされます。おぉっと、いつぞやのエッフェル塔のお話を思い出してしまいますね。

外貨建て生命保険に比べると、つみたてNISA対象商品は「販売手数料」がゼロの、いわゆるノーロード投信です。最近では、つみたてNISA対象ではない投資信託もノーロードが増えています。

外貨建て生命保険を契約するのは、自身のためというよりも、販売している代理店や金融機関のためになるのではないでしょうか?

それでもやっぱり生命保険なのでしょうか?

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