「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、世界が注目する米国大統領選挙と、候補者の発言が株価に与える影響について見ていきます。

  • 台湾とオランダの半導体企業の株価が下落したのはトランプ氏の発言による影響か
  • 中国の半導体企業SMEEにも、大統領時代のトランプ氏が影響を及ぼした可能性
  • 投資家は政治家などの言葉に惑わされず、言葉を冷静に見極めることが重要

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全米どころか世界中が注目したアメリカ大統領選挙前の、バイデン大統領とドナルド・トランプ氏のテレビ討論会。そして、その後の演説会場での暗殺未遂(銃撃)事件。これら2つの出来事を通じて、「もしトラ(=もしトランプ氏が大統領に返り咲いたら)」が、「ほぼトラ」に変わりつつあることを、世界が確信した……かのように、その時は感じさせました。

トランプ氏の一言で振り回された?投資家と株価

さて、「ほぼトラ」や「マジトラ(確トラ)」が現実味を帯びていた頃、投資家は「言葉に敏感になるんだな」と思えるような出来事がありました。筆者はまさにその被害者(?)と言えるかもしれません。

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【図表】2024年7月15日前後のTSMCとASMLの株価
2024年7月15日前後のTSMCとASMLの株価

2つのグラフを提示しました。青いグラフは、台湾の半導体企業TSMCのニューヨーク株式市場での株価です。そしてオレンジ色のグラフは、半導体製造装置を作っているオランダのASMLの、米国ナスダック市場での株価です。両方とも、7月15日以後、同じタイミングで株価がストンと大きく落ち込んでいるのが分かります。そうです、あのお方の一言でこうなったのだと筆者は思っています。

あのお方、つまりドナルド・トランプ氏の一言とは、
「台湾は半導体で稼いでいるのだから、防衛費をもっと負担するべきだ」
という趣旨の発言です。

防衛予算の増減は政府が判断することです。しかし「半導体で稼いでいる」という文言があったために、投資家にとっては、台湾の政府よりも、TSMCという企業そのものが狙い撃ちされたように感じたのでしょう。

TSMCの株価下落の理由はこれで判明したとして、では、なぜASMLなのでしょうか? ここで、もう一度、2つのグラフを見比べていただくと、TSMCよりもASMLの下落度合いが大きく見えます。もっともTSMCの株価に比べると、ASMLの方は5倍強です。ですのでASMLの方が株価が高かった分、大きく下落したとも考えられますが……。

なお、ASMLの株価が大きく下落した理由として、この後の四半期での業績悪化見通しも挙げられます。

ASMLとは?

ASMLはオランダで時価総額トップの会社です。日本の時価総額トップのトヨタ自動車よりも高い時価総額を誇っています。ちなみにオランダの国土は九州とほぼ同じで、人口は1800万人ほど。(ちなみに台湾も面積は九州とほぼ同じで人口は2300万人ほどです)。そのオランダの時価総額トップの会社ですから、ASMLがオランダという国の経済に与える影響は、さぞ大きなものがあるでしょう。

ASMLは半導体露光装置といわれる「半導体を作るための機械」を作っています。半導体露光のサイズは4トントラックとほぼ同じ、価格はジャンボジェットの約2倍とも言われています。

半導体製造装置
半導体露光装置でトップシェアを誇るASMLの株価も、ひとりの政治家の言葉で振り回される(画像はイメージです)

ASMLの売上シェア

ASMLの2022年度下期の売上シェアのうち、5割弱が台湾でした。また、2023年度下期の売上シェアのうち4割弱は中国でした……。ここまでご覧いただいて、ポンと膝を叩いた方もいらっしゃるかもしれません。ASMLの売上シェアの多くが中国、しかも半導体製造に関する機械ということなら、あのお方の一言で「多くの投資家が動揺するよね」とご納得でしょう。

ところで、ASMLの2023年度下期の売上シェアの多くが中国が占めたのは、「もしトラに備えてのこと」とも噂されています。つまり「もしトラ」に先駈けた「駆け込み需要」とも言われています。

ASMLという会社を育てたのは日本? この会社も同じ道を歩むのか?

もともと半導体露光装置を得意とし、世界でのシェアを誇っていたのは日本の会社でした。しかし、日米半導体協定などの影響により、これらの日本の会社はデジタルカメラの製造に重きを置くようになりました。そして、日米の半導体協定から漁夫の利を得て、今では半導体露光装置のシェアを「世界で独占している」とも言われるようになったのがASMLでした。またASMLの発展に大きく寄与したのが、1989年のTSMCの大火災です。TSMCはこの大火災で得た保険金で、ASMLの半導体露光装置を19台オーダーしたのです。

「確トラ」になったら、ASMLも、かつて日米半導体協定によって打撃を受けた日本の半導体企業と同じ道を歩むことになるのでは……という懸念が胸をよぎります。
もしこの懸念が現実ともなれば、ASMLは先にも述べたようにオランダを代表する会社ですから、オランダに与える影響も計り知れないものがあるでしょう。

中国の半導体産業を育てたのは、他ならぬ「あのお方」?

さて実は中国にも、「中国のASML」と言われる会社があります。上海微電子装備有限公司(上海マイクロエレクトロニクス、SMEE)という会社です。
SMEEの製品は「TSMCも使っている」と言われていますが、真相は定かではありません。

筆者は中国の半導体は、あのお方が育てたのだと思っています。かつてのトランプ政権下でアメリカが中国に課した制裁に対し、中国は自力で半導体を作ることで解決を図ったのではないでしょうか?
あのお方のASMLに対する圧力が、SMEEに向かうかもしれない……そんな淡い期待を持っています(SMEEは非上場ですが、中国国内での上場を目指しているとのこと)。

誰の言葉だろうと……振り回されるのは投資家

誰が言葉を発しようと、投資家は振り回されるだけです。ですので、それがトランプ氏にせよハリス氏にせよ、その言葉を冷静に見極める必要があります。ちなみに、先に紹介したTSMCもASMLも、未だ下落前の株価には達していません。

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