資産形成の近道は小型株にあり──。「小型株集中投資」を実践する気鋭の投資家・遠藤洋さんに、今からでも始められる小型株投資の極意を教えていただく連載。第16回は、株式投資を検討するときに確認する指標のうち、売上と利益の見方を中心に説明します。

  • 利益が多いから良いとは限らない。未来のための投資と、本質的な利益率を見極める
  • 決算書の数字やPERだけで判断すると見誤る。自分で指標を計算するという姿勢
  • 時価総額に伸びしろはあるか? 会社が成長していくイメージを抱けるか?

決算書の利益だけでなく、本質的な利益率を見る

遠藤洋
遠藤 洋
投資家
投資コミュニティixi主宰

投資する会社を選ぶときに僕が見るポイントは、売上と利益と時価総額です。基本的にはこの3つを見ておけばいいと思っています。

多くの投資家は売上より利益を重視しているようですが、会社が開示している利益の数字が多いか少ないかだけ見て株を売買するのは、僕に言わせればあまり意味がないことです。自分でビジネスをしているからわかるのですが、利益は後でいくらでも調整できる数字だからです。

水への投資 世界的に不可欠な資源への投資機会 BNPパリバ・アセットマネジメント

たとえば、ある会社で粗利が1億円出たとします。僕が経営者なら、この中から何千万円かを未来の売上につながる広告宣伝費に充てるなど、事業を拡大するために使うことを考えます。そうすると今期の利益は減りますが、宣伝の効果が出れば、翌年以降の売上は増えます。

優秀な経営者とは、利益を残さず、未来のために投資できる人だと思います。逆に、たくさん利益が出たからといってそのほとんどを手元に残すような会社は、いくら今の業績が良くても、ここから成長していくイメージが持てないので、そのような会社に、僕は投資したいとあまり思えません。

僕が見ている会社の利益は、開示されている数字だけではありません。決算書には現れない、事実上の利益がどのくらいあるかを考えています。

たとえば売上10億円、利益1億円という会社があったとします。数字だけ見れば利益率は10%ですが、その会社や業界について調べてみると、原価率がそこまで高くなくて、固定費もあまりかからないために粗利30%が見込める場合、僕はこれが本質的な利益率だと判断します。もしその会社が成長して3年後に売上が30億円になったら、利益は10%の3億円ではなく、30%の9億円を見込めることになります。

決算書
決算書の売上と利益の数字をそのまま読むだけでなく、「このビジネスならこのくらいの利益が見込めるはず」という本質的な利益率を見極める

「自分で指標を計算する」という姿勢

株式投資にはPERという有名な指標があります。「投資額を何年かけて回収できるか」という指標で、PERが20倍であれば、20年後に回収できるという意味です。「時価総額÷純利益」という計算式で算出されます。

売上10億円で時価総額が30億円の会社の利益率が10%なら、利益は1億円で、PERは30倍です。この数字だけ見たら「割高だ」と判断するかもしれません。しかし、この会社の潜在的な利益率が30%だとしたら、実質的なPERは10倍になります。

このように、決算書の数字だけを見ていると、会社の本質的な価値を見誤ることがあります。開示されている数字だけでなく、たとえば同じ業界の他社の時価総額や利益と比較しながら、潜在的な利益率を割り出すことも必要です。PERなど目先の指標に振り回されず、「自分で指標を計算する」という姿勢が大切だと思います。

時価総額の伸びしろと、会社の成長力も重要

そして、これまでの連載でも伝えてきたように、時価総額がとても大事です。会社の「稼ぐ力」に対して、時価総額がどのくらいの水準かがポイントとなります。先日お話ししたアールプランナーが典型ですが、同業他社に比べて売上も利益も高いのに、時価総額が低いままの会社があります。「これは割安だ」と判断したら、実際に株価が大きく上昇しました。

業績好調で時価総額が低かった「アールプランナー」

あとは会社が成長しているかどうかも重要ですね。売上の数字が伸びているかどうかだけでなく、たとえば今から3年後の世の中を想像したときに、その会社の商品やサービスを利用する人が増えて、会社が大きくなっているイメージができるかどうか。過去の例では、セルソースがまさにそういう会社でした。

富裕層の幹細胞への関心が決め手「セルソース」

このように、ひとつひとつの会社の中身を丁寧に見ていくと、たくさんの会社に投資するのは難しく、どうしても対象を絞っていくことが必要になります。前回もお話ししたように、自分にとって身近な業界に注目するのが有効だと思います。

家族や友達など、親しい人の興味や知識を参考にする

これは伸びそうだという会社を見つけても、すでに時価総額が高くなっていたら、そこから先の伸びしろは小さくなります。そうやって投資対象の候補を絞っていくと、僕の場合は四半期で2~3社くらい、年間では平均して10社前後になってしまいます。その中で「この会社はものすごく伸びる」と確信できるのは、2~3年に1社程度でしょうか。

だからといって、あまり魅力的と思えない会社に投資しなくてもいいのが個人投資家の強みです。「投資しなくてもいい」という選択肢を持てるのが、個人投資家とプロの投資家との違いです。興味を持った会社の売上と利益、時価総額に注目しながら、「これなら投資してもいい」という銘柄が見つかったときだけ投資していけば、成功する確率は高まっていくと思います。

メルマガ会員募集中

ESG特集