「預金なら安心」って本当なの? 「元本保証」って、実際に何を保障してくれるの? 実は、現金にもリスクが潜んでいるのです。本連載ではそんな「現金のリスク」を切り口に、お金のほんとうの価値を守るための資産運用について考えていきます。今回は、iDeCoを年金で受け取る場合と、つみたてNISAで積立投資を行う場合の課税について比較します。

  • 存命中の受け取りなら、iDeCoの年金受け取りよりつみたてNISAの方が有利
  • 亡くなってから受け取る場合は、つみたてNISAよりiDeCoの方が有利
  • iDeCoを受け取るときの税金は、「投資元本」が無視されてしまう

高齢者も利用できるつみたてNISA

iDeCoについては、掛金を納めて積立投資ができるのは65歳までですから、65歳以上の方は「受け取り」のみを考えることになります。

一方、つみたてNISAの年齢制限は「(現行では)18歳以上」という下限のみで、年齢の上限はありません。そのためか、つみたてNISAの年代別の口座数の比率は(iDeCoで積み立て投資ができない)70歳代以上で2.3%、80歳代で0.4%います。「長期」が前提のつみたてNISAで、70歳代以上の方がいらっしゃるのは驚きですが(失礼!)、先述の通り、年齢制限がありませんので。

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【図表1】iDeCoとつみたてNISAの年代別加入割合
つみたてNISA iDeCo
10歳代 0.0%
20歳代 19.6% 6.3%
30歳代 28.8% 22.8%
40歳代 24.8% 37.2%
50歳代 16.8% 33.6%
60歳代 7.2% 0.0%
70歳代 2.4%
80歳代以上 0.4%

出所:金融庁「NISA口座の利用状況調査」(2022年6月末時点)、運営管理機関連絡協議会「確定拠出年金統計資料」(2022年3月末)

中年層がつみたてNISAよりiDeCoを選ぶ理由

さて、公平を期すため、つみたてNISAに付いても「受け取り」の時の課税を考えてみたいと思います。

存命中の受け取りなら、つみたてNISAの方が有利

存命中の受け取りでしたら、iDeCoよりも、つみたてNISAの方が有利だと考えます。なぜなら、つみたてNISAは利益の有無に関わらず非課税であり、確定申告も不要だからです。

一方で、iDeCoを一時金で受け取る場合の課税は前号(第82回)をご覧ください。なお、一時金受け取りの場合、後期高齢者医療制度や国民健康保険、介護保険などの社会保険(=以下、本稿では社会保険とします)への影響はありません。

中高年からのiDeCoは一時金受取で不利なことも

では、iDeCoを年金で受け取る場合はいかがでしょうか? iDeCoの年金受け取りは、老齢基礎年金や老齢厚生年金等と同じく「公的年金等控除」が利用できます。諸先輩のiDeCoに対する記述を拝見すると「年金受け取りは公的年金等控除が利用できて有利」とありますが……。確かにその通りなのですが、もっと細かく申し上げると「利益の有無に関わらず、年金受け取りは公的年金等控除が利用できて有利」なのです。

iDeCoを年金受け取りし、老齢基礎年金や老齢厚生年金、それに他の企業年金などとともに公的年金等控除を差し引いて、ゼロかマイナスになれば良いのですが、控除後の金額がプラスになると、年金は雑所得として課税対象になります。また、雑所得の額しだいでは、(本稿における)社会保険の保険料の額が大きくなったり、あるいは社会保険を利用して医療や介護を受けた場合の自己負担割合(1割~3割)がUPしてしまう可能性もあるのです。

ということで、存命中の受け取りについては、利益の有無に関わらず、つみたてNISAの方が高齢者に優しいといえるのではないでしょうか? つみたてNISAで存分に利益を挙げましょう!

亡くなってから受け取る場合は?

さて、存命中の受け取りもあれば、その逆もあり得るわけですが。これはiDeCoとつみたてNISA、どちらが有利かと言えば、存命中とは逆の結果になりそうです。まずiDeCoから。

65歳以後、iDeCoを現金化(引き出し)せず残った場合、遺族の相続に際して、死亡退職金の非課税額があります。500万円×相続人の人数で計算した額が非課税額になります。

一方、つみたてNISAの場合、ざっくりですが、「基準価額×口数÷10,000―源泉徴収税相当額」で相続税評価されます。iDeCoにおける死亡退職金の非課税額のように「大きく差し引くことができる額」がありません。しかも、つみたてNISAを含むNISAが非課税なのは、「NISAを通じて投資した(買った)投資商品」のみが対象ですから、「相続した投資商品」は「NISAを通じて」に該当しません。ですので、相続人がNISAの商品を売却する時には「非課税」ということにはならないのです。

ということで、亡くなってから受け取る場合にはiDeCoの方が有利だと考えられます。

公的年金等控除は有利なのか?

「iDeCoは公的年金等控除が利用できて有利」とよく言われますが、「有利」という表現には違和感を感じます。先述の通り、「損益の有無に関わらず」ですし、課税対象はiDeCoの全額と老齢基礎年金や老齢厚生年金、それに企業年金などとの合算だからです。

本来、つみたてNISAを含む、投資の世界で課税の計算を行う場合、控除すべきは「投資元本」です。ましてやiDeCoの場合、投資元本ともいうべき掛金の中から、手数料を納付しなくてはなりません。つまり、掛金の全てが投資に充てられるわけではないのです。その投資元本を、受け取りの課税の時には無視されてしまう(代わりに公的年金等控除)のがiDeCoなのです。

まとめに代えて

iDeCoの場合、投資元本を受け取りの課税の時には無視されてしまうのは、掛金を納める時に、掛金の全額が「小規模企業共済等掛金控除」に該当して所得控除の対象になるから、というのが筆者の憶測です。

受け取りの時の課税も意識して、積み立て投資の方法を選んだ方が良いでしょう。

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