700人以上所属する日本放送作家協会(放作協)がお送りする豪華リレーエッセイ。テレビ、ラジオ、動画配信も含めて様々なコンテンツの台本や脚本を執筆する放送作家&脚本家、そして彼らと関わる様々な業界人たち・・・と書き手のバトンは次々に連なっていきます。ヒット番組やバズるコンテツを産み出すのは、売れっ子から業界の裏を知り尽くす重鎮、そして目覚ましい活躍をみせる若手まで顔ぶれも多彩。この受難の時代に力強く生き抜くユニークかつリアルな処世術はきっと皆様の参考になるはず!
連載第197回は、ファイナンシャル・プランナーや寺の住職という肩書を持つ構成作家、高橋泰源さん。
ああ物価高。自分の身はどう護る?
1年ぶりの登場になるが、筆者の本業は埼玉県南部にある寺の住職である。法律的に言うと、宗教法人の代表役員、である。同時に、個人的に1級ファイナンシャル・プランニング技能士、いわゆるファイナンシャルプランナー(FP)の資格も保有し、金融資産運用や相続に関する相談事も受け付けている、珍獣並みのレアな存在である。前回はお墓の話を中心にお届けしたが、今回はお金、特に支出の制御に関する最新事情を、仏教的な味付けを添えてお届けする(できるのか?)。
さて、物価高。えらいことになっている。地元の理髪店ではカット料金がいつの間にか3500円から4000円に。普通郵便の封書料金も110円。デパ地下をのぞけばケーキが1個800円とか900円とかで売られ、コンビニに入れば筆者が溺愛してやまない某菓子メーカーの「ポテトチップのり塩」「ドンタコス」「ポリンキー」も雪崩を打って値上げ。原材料・配送費・人件費の高騰などによるものらしいが、理由はいい。困ったものではある。
おわかりだろうが、「モノの値段の上昇」は「現預金の価値の相対的低下」を意味する。上述の例で言うなら、あなたのお財布に入っている3500円は、「散髪1回分」から「散髪0.875回分」に、価値が低下したということだ。
では、預金はどうか。定期預金金利は一時の超低空飛行からは脱したもののメガバンクで0.125%,ネット銀行でも0.5%程度(いずれも年率・税引き前、2024年11月現在)。
100,000円を1年預けていただける利子が100円から500円。諸物価の値上げの前にはひとたまりもない、泣きたくなるような時代ではある。
では、これを防ぐ手立てはないのだろうか。
言わずもがなではあるが、とりあえずは「出ていくお金を制御する」というところから始めないと、である。
FPの世界では「ラテマネー」という言葉がある。
毎日のように通うコーヒー店で飲むカフェラテ代、のように、少額ながら頻繁に使ってしまうお金のこと。塵も積もれば、で、月額にすると結構な出費になっている。
もちろん、
- • 人生を賭けて真剣にコーヒーと向き合っている人
- • その店でコーヒーを飲みながらでないと仕事が出来なくなっている人
- • お金の使い道に困っている人
などはこの限りではないが、ただ惰性でコーヒー店に入っている人は、その生活習慣を見直してみるのも一考かと思う。コンビニのコーヒーなら100円ちょっとだ。
もうひとつ、こちらもご存じの方も多いかもしれないが、筆者は「サブスク渡り鳥」を実践している。
具体的には定額の音楽配信サービスで、通常は月1000円前後なのだが、この分野はありがたいことに競争原理が働いており、申し訳ないほどの実質値引きが各社により実施されている。
- Amazon Music Unlimited
- キャンペーン実施時は最初の3か月間無料。
- LINE MUSIC
- 初めて「LINE MUSIC for SoftBank一般プラン/学生プラン」に加入した人は6カ月間、月額料金が無料。
- Apple Music
- Apple PayのPASMOまたはモバイルPASMOを利用しているユーザーは、Apple Musicに初めて加入すると、初月に加え2カ月間、月額料金が無料。
(2024年11月現在の情報)
こういったサービスを渡り歩く(無料期間のエンドはGoogleカレンダーに登録しておき、直前になったら忘れずに解約する)ことにより、ほぼ1年の間、実質無料で身を護りつつ、高音質の音楽を聴くことができる。ありがたいと言わずしてなんと言おうか。この歳になって大江千里やバービーボーイズが高音質で、無料で、フルで聞けるなんて! あの頃の自分に教えてやりたい。
では次に、お金にどう働いてもらうか。
あなたの家のタンスの中に入っている10万円は、いわば「まったく働いていないお金」であり、普通預金口座に入っている10万円は、「ほとんど働いていないお金」である。
この「働いていない子」たちに働いてもらう、これが投資である。
幸いなことに、この国の金融庁が、「国民に投資をしてもらうためのさまざまな施策」を打ち出している。その代表的なものがご存じの「NISA(少額投資非課税制度)」である。これは簡単に言うと「どれだけ儲かっても利益や配当に課税しません!」というありがたい制度である。生活費を切り詰めてまで入れ込む必要はないが、余裕資金の範囲で取り組んでみるのはきわめて有益であるし、なにより金融や経済の仕組みを身を持って理解できる。具体的な取り組み方、運用の仕方や投資すべき金融商品については運用者の年齢、余裕資産、家族構成、ライフプラン等によって変わってくるのでここでは言及しないが、
- • 投資時期を分散する(一括投資はリスク大)
- • 投資する資産を分散する(日本株・日本債券・米国株・米国債券など)
の大原則だけは、初心者は絶対に守っていただきたい。
それ、本当に必要? ~少欲知足のすすめ
ダライ・ラマ14世は「まだ足りない、もっと欲しいという感覚は、対象物が本当に手に入れる価値があるからではなく、自身の心の妄想から生じる」と語っている。
世間は情報に溢れている。そしてその多くは、生活に便利をもたらしたり、省力化したり、楽しさや快適さや豊かさを与えたりするサービスや商品の紹介である。PCやスマートフォンを開けば、以前に検索した用語やサイトに関連する広告が表示され、テレビのやラジオでは早朝から深夜まで、デパートや家電量販店、スーパー、コンビニの売れ線、もしくはこれから提供されるであろうサービス、売れるであろう商品がこれでもかとばかりに紹介されている。もはや情報番組なのかTV・ラジオショッピングなのか判然としないものまである。
「あったらいいな、便利だな」と消費者が思うものを生産者が提供し、消費を喚起し、経済規模を高めることは自由市場経済の根幹であり、もちろんそれを否定するものではない。しかし、便利なものを追求する人間の欲望に終着駅はない。ヘッドフォンの先には高音質のヘッドフォンが、その先には超・高音質のヘッドフォンが待ち構えている。ハイレゾなどという、とんでもなく美しく、とんでもなく記憶容量を取る音源まで登場している。
いたちごっこのようなサービスの提供と受容。本当にそれが望ましい社会なのか、我々は立ち止まって考えてみるべきではないだろうか。
「少欲知足」は、法華経という経典に登場する言葉で、「欲を少なくして足るを知る」という意味である。
「少欲」とは、まだ得られていないものを欲しないこと、「知足」とはすでに得られたものに満足し心が穏やかであることを意味する。
欲に惑わされず、必要以上に求めすぎない、少ないものでも満足する、そんな思想が今こそ求められているのではないか。
今や我が国の物価は完全な上昇トレンドに入っている。新たなものを買う時に少しだけ立ち止まる習慣をつける、よい機会かもしれない。生活必需品は別にして、「あったらさらに便利になるもの」については、それが本当に必要か、それなしでは生活はしていけないほどのものか、今まで以上によく考えてみてはいかがだろうか。
「次は何を買おう」「次はどこへ行こう」の代わりに、「今、何ができるだろうか」「今、何をすべきか」を。
※参考文献:「仏教経済学」クレア・ブラウン著 村瀬哲司訳 勁草書房刊
次回は東紀まゆかさんへ、バトンタッチ!
お気軽にご相談ください!
FP住職として、一般生活者や企業さんに対して、「終活とお金のはなし~葬儀とお墓とお寺のリアル」のようなテーマでセミナー講師を請け負っています。興味ある方はご相談ください。
お問い合わせは、こちらから
終活系FP 高橋泰源
放送作家の地位向上を目指し、昭和34年(1959)に創立された文化団体。初代会長は久保田万太郎、初代理事長は内村直也。毎年NHKと共催で新人コンクール「創作テレビドラマ大賞」「創作ラジオドラマ大賞」で未来を担う若手を発掘。作家養成スクール「市川森一・藤本義一記念 東京作家大学」、宮崎県美郷町主催の「西の正倉院 みさと文学賞」、国際会議「アジアドラマカンファレンス」、脚本の保存「日本脚本アーカイブズ」などさまざまな事業の運営を担う。