2025年2月4日朝、「財務省が個人向け国債を非営利法人などへ販売を拡大する方針」というニュースがありました。日本銀行の利上げの影響で長期金利の利回りが上昇し、債券価格が下落したことから、価格変動リスクに敏感になっている非営利法人などに国債の購入を促す意図があるのでしょう。
今回は、利付国債(普通国債)と個人向け国債を比較しながら、国債の価格変動リスクを回避するコストについて考えてみます。

  • 個人向け国債は中途換金の金額が額面に基づくため、価格変動リスクを国が負う
  • 固定金利の個人向け国債は、市場の実勢金利より低い金利で発行される
  • 一般の利付国債に対する金利差が、価格変動リスクを回避するコストと考えられる

国内債券の2つのリスク

国債や地方債、社債などの種類がある国内債券の主なリスクは、「信用リスク」「価格変動リスク」の2つです。

信用リスクとは?

信用リスクは、債券を発行する発行体(国や企業など)の財務状況に起因するリスクのことです。発行体の財政難や経営悪化により利子や元本の支払いが遅れたり、支払われなかったりするような事態が発生するリスクです。

価格変動リスクとは?

価格変動リスクは、債券の発行から満期(償還)までの期間、世の中の金利動向や発行体の財務状況の変化などによって債券の価格が変動するリスクです。例えば世の中の金利が上がると債券価格は下落し、金利が下がれば債券価格は上昇しやすくなります。

ただし、債券は満期時に額面金額(債券の券面に記載された金額)で元本の返済が行われるので、満期まで保有した場合には価格変動リスクを回避することができます(発行体が破綻しない場合)。

個人向け国債の特徴

日本国政府が発行する国債のうち、一般の個人を対象に発行しているのが「個人向け国債」です。個人向け国債は現在、「固定金利型3年満期」「固定金利型5年満期」「変動金利型10年満期」の3種類があります。

財務省の個人向け国債のサイトを見ますと、個人向け国債をすすめる理由の1つ目が「元本割れなし、不安なし!」になっています。おすすめ理由の2つ目が「国が発行、とにかく安心!」です。その次が「最低金利 0.05%(年率)保証!」とあり、全部で5つのすすめる理由が列挙されています。

トラリピインタビュー

次に、個人向け国債の金利設定方法について見ていきます。

個人向け国債の金利設定方法は?

財務省の「個人向け国債についてのよくある質問」では、個人向け国債の金利設定にあたって以下のように回答しています。

「変動10年」
「変動10年」の適用利率を決めるに当たっては、10年固定利付国債を今後10年間保有した場合に得られる金利収入とのバランスや、中途換金などの商品性を総合的に勘案することが必要であり、その結果、基準金利に「0.66」を掛けることとしたものです。

「固定5年」
「固定5年」の金利を決めるに当たっては、中途換金などの商品性を総合的に勘案することが必要であり、その結果、基準金利から「0.05%」を差し引くこととしたものです。

「固定3年」
「固定3年」の金利を決めるに当たっては、中途換金などの商品性を総合的に勘案することが必要であり、その結果、基準金利から「0.03%」を差し引くこととしたものです。

個人向け国債は通常の利付国債と違って、中途換金の金額は時価ではなく額面金額がベースとなるため、購入した個人が価格変動リスクにより直接的な損失を被ることはありません(ただし、換金時には「中途換金調整額」というコストを支払うことになります)。価格変動リスクは、発行体である国が負うことになります。

例えば世の中の金利が上がり、債券価格が下がった際に、個人向け国債では額面金額をベースとした中途換金を行えば、国にとっては市場の時価より高い金額で国債を売却することとなり、損失が発生します。この価格変動リスクによる損失を回避するために国が課すコストが、「中途換金調整額」および上記に挙げた金利設定だと考えられます。

上記の回答から、「変動10年」の金利に関しては、「10年固定利付国債を今後10年間保有した場合に得られる金利収入とのバランスも考慮している」ので、後述の基準金利より実際の金利を低く設定することについて、発行体である国が価格変動リスクを回避するためのコストとして単純に考えることはできません。一方で、「固定5年」「固定3年」に関しては、中途換金の際に本来発生する価格変動リスクを発行体が回避するためのコストとして考えても、ほぼ問題ないかと思います。

満期まで保有した場合の収益の比較(利付債、個人向け国債)

ここでは、個人向け国債ではない①期間5年の利付国債(個人でも「新窓販国債」として買うことができます)と、②個人向け国債の「固定5年」を例にとり比較していきます。

新窓販国債と個人向け国債の違いは?

②個人向け国債の「固定5年」の金利は、「基準金利-0.05%」で算出されます。金利算出のベースになる基準金利は、
「市場実勢利回りを基に計算した期間5年の固定利付国債の想定利回り」
になりますので、同時期に発行された①利付国債5年満期の金利と同じと考え、ここでは比較しています。

①利付国債5年満期 利率=年1%*1

額面金額5万円に対して5万円で発行、100万円購入した場合の満期までの収益(税引き前)は、

5年間の利子収入(インカムゲイン):5万円×1%×(100万円÷5万円)=10,000円
5年間の値上がり益(キャピタルゲイン):額面金額5万円—発行価格5万円=0円
トータル・リターン:10,000円

②個人向け国債「固定5年」 利率=年0.95%(1%(基準金利)-0.05%)

額面金額1万円で発行、100万円購入した場合の満期までの収益(税引き前)は、

5年間の利子収入(インカムゲイン):1万円×0.95%×(100万円÷1万円)=9,500円
5年間の値上がり益(キャピタルゲイン):額面金額で発行なので0円
トータル・リターン:9,500円

上記のように満期まで保有した場合、利付国債に比べ個人向け国債の収益が500円(10,000円-9,500円)少なくなります。満期までの5年間で2,500円(500円×5年間)が、中途換金した場合の価格変動リスクを発行体が回避するためのコスト(費用)と捉えることができます。

*1:利率は筆者が設定したもので、現時点での利付国債および個人向け国債の金利とは異なります。

まとめ

以上、固定金利の利付国債と、個人向け国債(固定5年、固定3年)の金利差を、発行体である国が価格変動リスクを回避するコストと考えて説明してきました。

国債を選ぶ際は、「元本割れなし」だけに注目せず、投資する資金の性格(満期まで保有できる資金、中途換金の可能性のある資金)も考えて選択するようにしましょう。