現役証券アナリストの佐々木達也さんが、株式市場で注目度が高い銘柄の強みや業績、将来性を解説する本連載。第99回は、世界初のNAND型フラッシュメモリーを開発した東芝に起源を持ち、現在も世界のフラッシュメモリー市場で最大手の一角を占めるキオクシアホールディングス(285A)をご紹介します。

  • キオクシアホールディングスのフラッシュメモリーの世界シェアは約2割
  • データセンター向けフラッシュメモリーの市場は年27%拡大する予測も
  • 直近の決算は減収減益も業績は回復へ。上場来高値圏の株価は上値追いを見込む

キオクシアホールディングス(285A)はどんな会社?

キオクシアホールディングスは半導体メモリーのメーカーです。かつては東芝のメモリー事業でしたが、分社化し2019年には社名を現在のキオクシアホールディングスに変更しています。2024年12月に東証プライム市場に上場しました。

主力製品はNAND型のフラッシュメモリーという、電源を切ってもデータが消失しない記憶装置です。スマートフォンやPC、データセンターなどあらゆる機器に用いられています。1980年代にかつて東芝に所属していた舛岡富士雄氏によって世界初のNAND型フラッシュメモリーが発明されたのが始まりです。ハードディスクドライブなどに比べて小型で、値段も安く高速での読み書きが可能という特性を持っています。

現在の主流はメモリーのセルを縦方向に積層して、記憶容量を大きくした3次元積層フラッシュメモリーです。フラッシュメモリーの世界シェアは約2割で、大手4社の一角となっています。社名のキオクシアとは、日本語の「記憶(kioku)」と、ギリシャ語の「価値(Axia)」に由来しています。

SDカード
NAND型フラッシュメモリーはSDカードやUSBメモリー、PC用のSSDといった記憶装置やスマートフォンなどのメモリー、さらにはデータセンターにも欠かせない重要な部品(写真はイメージです)

AI向けにフラッシュメモリーの需要が伸びる

キオクシアはこれまでより細かくメモリーを作り込む微細化や、3次元化などのフラッシュメモリーの技術の転換点を創りだしてきました。近年、生成AIの社会における実装が進み、膨大な情報を処理する需要が出ています。こうした中で大容量、高速転送、低消費電力の記憶装置が求められており、NAND型フラッシュメモリーがクラウドコンピューティングなどの産業向けで欠かせない基幹部品となっているのです。

またスマートフォンやPCでもAIによるデータ処理が増えている中で、一台あたりのフラッシュメモリーの搭載容量が伸びており、2029年までそれぞれ年間平均成長率(CAGR)が16%、13%と着実に伸びると想定されます。中でもデータセンター向けに至っては年間27%のスピードで市場が拡大すると予想されます。

キオクシアホールディングス(285A)の業績や株価は?

キオクシアホールディングスは業績の変動率が高いため、通期の業績予想を開示していません。

直近の2025年4~6月期決算(国際会計基準)は売上収益が20%減の3427億円、営業利益が64%減の448億円でした。減収減益となりましたが、5月に発表した会社予想を上回りました。AI投資によるデータセンターや産業向けのSSD(記憶装置)の需要が堅調でした。落ち込んでいたモバイル・PC向け製品も需要が回復しました。メモリー単価も従来予想より値上がりしており事業環境は改善しています。

【図表】キオクシアの株価(日足、2025年3月3日~9月19日)
キオクシアの株価(日足、2025年3月3日~9月19日)

9月19日の終値は4530円で、投資単位は100株単位となり、最低投資金額は約46万円です。配当や株主還元は実施していません。事業で稼いだキャッシュは設備投資と研究開発を行いつつ、有利子負債の削減を進め財務健全性も向上させる見通しです。配当などの株主還元について、適切なタイミングを引き続き検討するとしています。

業績についてもメモリーの市況が落ち込んだ2022年から23年にかけて低迷していましたが、生産調整や構造改革により事業体質はこれまでより強固になっています。人材についても開発、生産を中心に年間約700名を採用し、人的資源を強化しています。

株価は上場来高値圏で推移しています。業績回復で25年3月期に過去最高収益、利益を達成したことも好感されています。AIデータセンターなどの投資は今後さらに高水準で推移すると予想されます。また、日本でも企業を中心にAIエージェントの採用が本格化しており、AIの推論に必要な大容量SSDなどのフラッシュメモリーは今後さらに伸びる見込みです。株価もさらなる上値追いの展開を見込んでいます。