宮崎県延岡市で保険業や資産運用のアドバイスに携わる小田初光さんが、地方で暮らす生活者のリアルな視点で、お金に関するさまざまな疑問に答えます。今回の相談者は、投資信託の運用でお金を増やすことに成功して、次は米国株式の個別銘柄への投資を考えているとのこと。小田さんがご自身の経験に基づいて、米国株投資に向けたアドバイスをします。

  • 5年で株価が3倍以上になった米国のハイテク株だが、今後も上がるとは限らない
  • 株価を動かす要因は企業の利益や資産、経営状況などの「ファンダメンタルズ」
  • PERとPBRで株価が割高か割安かを判断。需給のバランスで短期的に株価が動く

投資信託でお金が増えたから、個別株ならもっと増える?

【質問】
NISAを使ってネット証券で積立投資を始めて3年で、お金が少し増えてます。これだったら、残りのNISA枠で米国などの株を買えば、まだまだ増えていくのかと思うのですが、この考え方間違っていますか?

いえいえ、そう考えるのが当たり前ですよ。NISAを使い、日本株式がメインの投資信託を積み立てて3年がたっていれば、その時期に開始していたら、運用のパフォーマンスは最低でも20%ぐらいは増えていることでしょう。これが投資信託ではなく個別株式だったらと思うと、そりゃあチャレンジもしたくなりますよね。気持ちはわかります。このところ一部の投資家やアナリストなどから楽観的な意見も飛び交っていますので、余計にそう感じていることだと思います。

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でも考えてみてください? 儲かってこそNISAですよ? 損をしないように、リスクを最小限にとどめるのならば、初心者がやるべきことは「長期」投資の実践しかありません。15~20年以上の長期をみれば、まだまだ長い期間の中のわずかでしかありません。たった3年程度の儲けで一喜一憂しない方が賢明です。

まだまだ先は長いので焦りは禁物ですよ……と言いたいところですが、今はネット証券などで証券口座を開設している方が多くなっています。時々でも気になって確認していれば、ポイントキャンペーンなど誘惑のオンパレードで、個別株式も買いたくなってついつい買ってしまった、ということも出てくるはずです。「十分に注意を払って吟味する」という本来の手順を飛ばしてしまい、勢いで株を買ってしまうことも普通にあります。特に現状が投資信託で儲かっていればなおさらですね。

「オルカン」も特定の銘柄の値動きによるリスクが大きい

しかも、相談者が買おうとしている米国株式は、これまでのパフォーマンスが半端ありません。例をあげると、米国市場に上場するハイテク系の大型株であるエヌビディア、アップル、マイクロソフト、TSMCなどは、ここ5年間で株価は3倍以上になっています。「何とかなるじゃろか?」が、5年の投資で「本当」になっているのです。

特に生成AI(人工知能)に深く関わるエヌビディアは5年前と比べると何と20倍以上。それが今では株式分割したことから、わずか1株約2万円前後で買えるとなれば、飛びつきたくもなりますよね。5年間で20倍ですから。それも安く買えるのですから、今買わない手はない……。果たしてそうでしょうか?

トラリピインタビュー

日本の場合、2024年に新しいNISA制度が始まり、個人投資家の資金が米国株式市場に向かっています。オールカントリー(オルカン)と言われる全世界株式や、米国市場のS&P500指数に連動する投資信託に、投資初心者を中心に多くの人がお金を回しています。結果、円安に拍車をかける要因にもなっているのですが、実は為替変動以外にもう一つ大きなリスクも背負うことにもなっています。

オルカンもS&P500も、どちらも時価総額の多くを米国市場のハイテク株が占めています。その中でも、エヌビディアの時価総額は途方もなく増えています。エヌビディアがくしゃみをすれば指数も大くしゃみをすることになり、ほかの株にも連鎖すれば指数の暴落にもつながります。理解していただきたいのは、投資信託でそうなるのですから、個別株式では相当の覚悟が必要になりますよということです。とはいっても、株主となって企業を直接応援できるのも株式投資の醍醐味なので、個別株の投資は楽しむことができる余裕資金で行うことが一番です。

エヌビディア
最近は生成AIの影響で大きく上がったエヌビディアの株価も今後どうなるかはわからず、「オルカン」などの投資信託にとってはリスク要因にもなっている
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株価を動かす要因の1つ、ファンダメンタルズ

今回からは何回かに分けて、米国市場で個別株式への投資をする際に必要な事柄を順に説明していきます。私も4年前から米国の個別株式を買っていますので、今の状況を踏まえながら、私の経験に基づいて説明させていただいています。

米国株式に投資するには、いろいろと知らなければいけないことが多くあります。面倒だと思われる方は、個別株式の投資には足を踏み入れない方が賢明だと思いますよ。初回は日本株式にも共通する項目にもなりますが、まずは「株価はなぜ毎日変動するのか?」を知ってください。

株式投資とは、企業が発行している株式を売買することです(新規で発行する株式への投資=IPOもありますが、ここでは発行済み株式の売買についてのみ説明します)。

株式は売りたい人と買いたい人がそれぞれ値段と株式数を決め、それが合致すれば売買が成立となります。取引時間は基本的に、日本市場は9時から15時。米国市場は日本時間22時からプレマーケット、23時30分から翌朝6時が一般的な取引時間で、6時から10時にアフターマーケットがあります。ただし、サマータイム期間(3月第2日曜日~11月第1日曜日)までは1時間早まります。両者とも、取引時間の間は株価が刻々と動いています。

株価の動きの要因は主に2つあります。1つは企業の成長などを示す「ファンダメンタルズ」。もう1つが需給バランスです。

ファンダメンタルズとは、企業の売上高や利益がどうなっているのか、資産や負債はどうなってるか、そもそも何をやって稼いでいるのかといった、企業の経営状況のことです。ファンダメンタルズが良ければ株を買いたい人が増え、株価は上がります。逆に悪化すれば買いたい人が減って売りたい人が増え、株価は値下がりします。したがって、株を買う際には財務諸表(損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー)は必ずチェックしなければなりません。

株価の割高・割安の目安となるPERとPBR

ただ、ファンダメンタルズが良いと、株が買われ過ぎて株価が割高になる時もあります。株価が安いのか、高いのかを判断するための代表的な指標の1つがPER(株価収益率。株価が1株当たりの利益の何倍の水準で取引されているかの指標)です。業種によって異なりますが、PERが低いほど株価は割安と考えられます。

そして最近はPBR(株価純資産倍率。株価が直前の本決算期末の1株当たりの純資産の何倍になっているかの指標)が重要視されるようになっています。いかに企業が資産を有効に活用しているのか(自社株買い、設備投資など)が、株価に影響します。PBRも低いほど株価が割安であると言われますが、低ければいいものでもありません。日本の大型株はPBRが1倍を割ることが多くあったのも現実で、割安を通り越して、お金を効率良く使っていないと見なされることもありました。

短期的には需給のバランスで株価が動く

ファンダメンタルズに関連する代表的な2つの指標を見てきましたが、忘れてはいけないのが、株価が動くもう1つの要因である需給のバランスです。需給とは、買いたい人と売りたい人のどちらが優勢かということです。長期的には株価はファンダメンタルズによって決まりますが、短期的には「半導体銘柄が上がりそう」「今は上がりすぎたから、下がるんじゃないか」などといった投資家の思惑に左右されます(株式投資では「短期」が1年未満、「長期」が年単位、1年以上の期間と考えてください)。

そして、株価に影響を与える要因として、地震などの自然災害や紛争、為替や金利など世界の金融情勢も忘れてはいけません。

次回も、米国の個別株式について説明します。

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